PMプロの知恵コーナー
先号   次号

プロマネの表業、裏業 (14) 「聞き業」:質問力と人脈つくり

芝 安曇:5月号

 転職して、石油精製の仕事をした。この会社は伸び盛りで、中途採用者が多い。しかし、中途採用者はすべて、初日から一人前のプロとして取り扱われる。10年間のプロジェクトマネジメントの経験があるが、石油精製は始めてである。入社早々プロジェクトの担当者にアサインされ、顧客との打ち合わせをする。ところが顧客と当社の技術者のしゃべる日本語がわからない。石油精製装置に対するイメージが全くないからである。それに石油業界は未だにフート・ポンド単位を使っている。仕事を始めると、図面と仕様書類はあるが、マニュアルがないので図面の意味するところがよくわからない。だが、35歳の新入社員は、プロ扱いされているから下手に聞くわけにいかない。仕方がないから15年選手のプロマネに聞いた。ところが彼もわからないという。これを聞いて新米プロは一安心したが、プロマネは「この問題は誰々が詳しい」という。早速紹介してもらって教えをこうた。

 知らない人に教えを請うのであるから、揉み手して、「入社したばかりで、石油のことはよくわかりません。実は何を質問していいかよくわからなくて困っています。誠に申し訳ありませんが、概要から教えてください」とお願いする。この会社の社員は日常茶飯事なので嫌がらずに教えてくれる。それでも時間の制限があるから、ほどほどで終わりにして、別人を紹介してもらう。二人目になると、何を質問していいかわかるようになっていた。話を聞いて、新米プロは自問した。
 「私は何のために、質問しているのだろう」
 「話しを聞いて、自分なりに結論を出し、専門部門に人に仕事をしてもらう」
 「結論を出すには、責任を持たなければならない。誰々が言ったから、こう決めましたではまずい」
 「人の話を鵜呑みにできないので、少なくとも3人、場合によっては5人から聞こう」

ここで腹は決まった。多くの場合、5人の意見を聞いた。この新米プロは大胆なことを考えた。教えてくれた人に恩返しをしようと、5人の意見を整理し、その結果を持って5人を訪問し、
 「Aさんの意見XXX,BさんはYYYと5人の意見を話し、私はCさんの意見が最も望ましいと思うが、いかがでしょうか」とアフターサービスをして歩いた。
この会社の社員はできた人間が多く、私の話を聞いて、怒るどころか、お礼を言われることが多かった。
プロジェクト担当にとって、材料の選定は難しく大変である。ある材料研究の部長を訪問すると、私の習性を知っている部長は
 「おい、下調べをして来たんだろう。書き物を見せろ」
 「誰々はXXX、あいつはこうか。結論。ああこれでいいよ」
 とOKを出してくれる。
この新米プロは、このアフターサービスで社内の人脈を次々とつくることができた。人脈ができると、プロジェクト担当は安心して仕事ができる。

前の会社の社長に会ったとき、この会社でうまく仕事をするノウハウを会得しました、と人脈つくりの話をした。
前の会社の社長は
 「君!それはノウハウ(Know/How)じゃないよ。ノウフー(Know/Who)と言うんだよ」と。
以上
ページトップに戻る