PMプロの知恵コーナー
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プロマネの表業、裏業 (13) 「仕事を減らすことがプロマネの仕事」

芝 安曇:4月号

日本人は仕事好きである。したがってプロマネも当然仕事熱心である。日本人の仕事好きを示す好例は残業の仕方にある。プロジェクトの仕事は際限なくあるから、関係者は常に時間に追われている。そのために残業が多い。しかし、時間は際限なくないために、限られた時間内で処理することになる。では限られた時間とは何かと考えてみる。それは残業時間しかない。遅くまで残っているメンバーを観察すると、家の遠い人から早く帰る。最後まで残っているのは、家が近くで、しかも自家用車通勤者である。家が近いメンバーは遅く帰っても、翌日遅く家を出ればよいので、遅くまで残業しても苦にならない。私のように遠隔通勤者は残業しても、朝早く家を出なければならないから、近距離者に比して楽ではない。

更に観察を進める。飛び入りの仕事が入ると、メンバーは何をするか。仕事を同じ残業時間内で処理している。仕事の優先順位と必要最低限の仕事の範囲を理解していることが読み取れる。では、その必要最低限の仕事で何か支障を致すかと眺めると、全く問題を起こしていないことがわかる。

このことを考えてみる価値がある。格言に「急ぎの仕事は、忙しい人に頼め」というのがある。多忙な人は必要最低限の仕事を知っている人間だから、この格言は正解である。

文章書きが経験することであるが、締め切り日に余裕がある時書いた文章は駄文が多い。文章に無駄がある。あれも書きたい、これも書きたいと思うから的が絞れない駄文となる。締め切りに追われて書く文は簡潔で読みやすく、言いたい論旨が明確に伝わる文章となる。

そこでプロマネの裏業に移る。仕事を減らす工夫をすることである。残業の多い人はとことん納得の行く仕事をしたいと頑張っている。調べてみると詳細なところへのこだわりが多い。また、文章の話になるが、こだわりの多い人は雑誌に提供した文章を何回も読み返し、雑誌の印刷間際まで変更を申し出てくる。プロジェクトの仕事も同じで、仕事が細かくなると、変更回数が多くなり、人に迷惑を掛けるだけでなく、品質が低下する。「いや、俺は品質を上げるためにガッバっている」と思っているが、プロジェクトでは変更のたびに、下流の人の変更作業がふえ、この変更作業が充分フォローできないから、結局プロジェクト全体としての品質が低下するという問題を理解していない。
では、どのようにして仕事を減らすのか。これが問題である。筆者は自分の仕事に関しては、飛び入りの仕事がきたと想定して仕事を減らすことを考える。要するに自分に言い訳が出来ればよいだけと考える。メンバーの仕事に関しては、プロマネは仕事を増やさないことに心がける。そして管理業務は出発点が肝心で、出発時に完成させておけば、メンバーの仕事は半減する。「Less management is the best management.」となる。

昔、短納期の仕事を担当した。仕事が遅れ、メンバーの残業時間がふえ、最後には泊りがけで作業を進めるようになっていた。その時労働省関係の書類の中に、人間の体は7時間労働が限界で、それ以上は能率が上がっていないという内容であった。メンバーの行動を観察すると、昼間は議論や雑談等能率が上がらず、夜中になってバイオリズムが活躍するということが読み取れた。そこでプロジェクトマネジャーとして全員を集め、皆さんの体が大切だから、来週から仕事は定時だけにする旨伝え、納期に関してはマネジャーが責任を持って顧客と話すことを伝えた。

メンバーからは非難の声が上がったが、強引に実行した。結果は体を休めたことで、能率があがり、納期に間に合わせることができた。
以上
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