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「エンタテイメント論」(13)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :4月号

エンタテイメント論

第1部 エンタテイメント論の概要

12 本物のテーマパーク
●筆者が手がけたMCA社の本物テーマパーク=USJ新日鉄
 新日本製鉄(株)は、大阪に現存する「ユニバーサル・スタジオ・ツアー大阪」が完成する数年前、日本で最初に「USJプロジェクト」をMCA社と共に計画し、実現を目指して取り組んだ。筆者は、その検討の責任者に任命された。

 筆者のプロジェクト・チームは、MCA社のロスアンゼルス本社に乗り込んだ。そして「テーマパークとは何か」、「それを如何に計画し、建設し、運営するか」というテーマパーク事業の本質と具体的な手順を学んだ。それらのすべてが新鮮で新しい発見の連続であった。

 テーマパーク事業は、鉄鋼事業、石油事業、造船事業などと事業の種類、業態、市場、技術、従業員などすべて異なっていた。しかし新しく事業を計画し、建設し、運営するという事業構築の本質は、全く同じであることを知って驚いた。
USJ

1)本物のテーマパークの条件1
 彼らが目指す「本物のテーマパーク」は、資本集約型、装置型、労働集約型、情報集積 & 処理型、高度知的集結型、高度研究開発型、映画、音楽、演劇、アート集積型そして総合エンタテイメント型の高感度事業構造を持つ「ビジネス・ユニット」である。

 この事業構造を作り出すためには相当の経営基盤と経営力を持った企業であることが必須条件になる。従って「本物のテーマパーク」は、差別性があり、競争力があり、他社の事業参入を容易に許さない「競争優位」を実現するものである。

 しかし以上の必須条件を満たした「ビジネス・ユニット」を創出しても、まだ「本物のテーマパーク」にはなり得ない。ある条件が足らないからだ。

2)本物のテーマパークの条件2
 その条件とは、@テーマパークのコンテンツがF機能とR機能の同時・同質で発揮されること、Aそのコンテンツを基に計画〜建設〜運営のそれぞれが適時、適切になされる仕組みを保有していること、Bそのコンテンツが「自動的・継続的に再生産される仕組み」を保有していること、である。

 @に関しては、MCA社のエンタテイメントの専門家、設計士、デザイナー達は、同テーマパークを「少しでも楽しく」と同時に「少しでもリアル」に計画し、建設し、運営する方法を求めて日夜、苦闘していた。前者がF機能(Fantasy 空想性=ファンタジー) 後者がR機能(Reality 現実性=リアリティー)をそれぞれ意味する。しかし彼らは、楽しく、苦闘していた。彼らの殆どは、ウオルト・ディズニー社の出身であった。「さもありなん」と思った。

 Aに関しては、MCA社は、オーランドの新しいユニバーサル・スタジオを建設する前に、ハリウッドにユニバーサル・スタジオを既に計画し、建設し、運営していた。従ってテーマパークのコンテンツに基づき、それを適時、適切に計画〜建設〜運営する仕組みを確立していた。

 Bに関しては、MCAユニバーサル・スタジオ・ツアーは、自動継続再生機能を持っていた。それは、MCAユニバーサル・スタジオ・ツアーの場合の「MCA社の映画」、東京ディズニーランドの場合の「ウオルト・ディズニー社の映画」、そしてセガ・ジョイポリスの場合の「セガ社のゲーム」である。
 
 自動継続再生機能とは、ある映画やゲームがヒットすれば、その映画やベームのコンテンツをテーマパークに2次利用する仕組みが自動的、継続的に備わっていることをいう。 2次利用したコンテンツが飽きられる頃には、別の映画やゲームがヒットするであろう。当該テーマパークに密接な関係の映画会社が自らの存亡に賭けて映画やゲーム・コンテンツを作り続ける。それを当該テーマパークが2次利用し生き長らえるのである。

 鉄鋼事業が「新しい鉄」を開発し、それを売る。石油事業が「新しい油田」を開発し、それを売る。造船事業が「新しいタイプの船」を開発し、それを売る。テーマパーク事業は、映画会社やゲーム会社が開発し、ヒットさせた新しい映画やゲームをテーマパークに活用し、客を集める。

 @からBの仕組みがテーマパーク事業の経営体にキチンと組み込まれた事業構造を持ったものが「本物のテーマパーク」である。重厚長大の企業でも全く同じことが言える。

映画事業  
計画
原作、シナリオ、ストリーボード、映画企画書、映画制作計画書、プロデューサー、ディレクタター、キャスティング、撮影クルー、映画制作予算調達 & 管理、各種契約、法律遵守など以下省略
 
   
建設
映画制作のプラットフォーム建設、撮影セット、撮影現場装備、撮影、フイルム編集、音楽編集、宣伝準備など 以下省略、
 
ヒット映画
ヒット・ゲーム
運営
上映に関する契約、映画倫理審査、上演館選択&決定、宣伝、肖像権保護、上映後の映像に2次利用など以下省略
 
テーマパーク事業  
計画
本テーマパーク事業主体者によるテーマパーク基本コンセプトに基づく計画設計、建設計画、運営計画の設定、テーマパーク事業の財務計画、資本計画、予算調達 & 予算管理計画など以下省略
 
   
建設
建設会社 & 関連建設会社の選択 & 決定、テーマパークの基本設計〜詳細設計〜実施設計〜建設開始〜建設完了〜試運転〜検査〜検定〜検収〜引き渡し以下省略
 
   
運営
運営に関する人,モノ、金、情報の獲得&運営管理の開始〜完了
開園準備、広告、開園、園内アトラクション運営
 
ヒット映画
ヒット・ゲーム
更新計画
本テーマパーク事業主体者による新しいコンセプトの計画設計、建設計画、運営計画の設定、テーマパーク事業の財務計画、資本計画、予算調達 & 予算管理計画など以下省略

●筆者が手がけた本物のテーマパーク=スペースワールド & ジョイポリス

 筆者は、新日鉄勤務時代、宇宙開発コンテンツに依存する「スペース・ワールド・プロジェクト」、MCA映画コンテンツに依存する「ユニバーサル・スタジオ・ツアー・プロジェクト」、そしてセガ勤務時代は、セガのゲームに依存する「ジョイポリス」の3つの「本物のテーマパーク」に従事した。

 スペースワールドが本物のテーマパークであると言えるのは、年々進化し、発展する宇宙開発とその実現されコンテンツがスペースワールドのコンテンツとして使えるからである。しかし現在のスペースワールドは、経営上の問題が出て、新日鉄によって身売りされた。宇宙開発のコンテンツを自動的に、継続的に導入する仕組みを作らない限り、身売りされた「スペースワールド」の未来はない。

 次ぎに筆者が手がけたセガの「ジョイポリス」は、セガのゲームを基にした本物の室内型テーマパークである。セガは、様々な家庭用ゲームや業務用ゲーム機を次々開発し、次々ヒットさせた。このコンテンツを使って次々と全国にジョイポリスを建設した。ジョイポリスは、前記の本物のテーマパークの条件をいずれも満たしたものである。
ジョイポリス

 当時のセガ中山 隼社長の了解を得て命名したジョイポリスは、筆者がセガを去り、役人になった現在も、まだ生き残っている。しかし今までに存在し、現在も存在するジョイポリスは、すべて筆者がセガのテーマパーク事業部長時代に計画したものである。筆者がセガを去った後、残念なことに、新たに建設されたジョイポリスは一つもない。しかもジョイポリスは、年々その数を減らしてきた。世界中に名が知れたジョイポリスは、このまま消滅してしまうのだろうか。もしこの「エンタテイメント論」を読んだセガの社長や関係者がおられたら、「是非、新しいジョイポリスを作って欲しい」と言いたい。
つづく

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