PMRクラブコーナー
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第三者の視点

PMR 水野 :4月号

 100年に1度の未曽有の経済危機。10年ぶりの営業赤字転落。人員削減の断行。悪いニュースには事欠かない。米国のサブプライムローン問題に端を発した金融危機は、企業活動だけでなく、プロジェクト活動にも大きな影響を与えている。新規プロジェクトの延期、中止。プロジェクトコストの削減、追加は一切認めない。プロジェクトマネージャ(以降PM)の腕の見せ所である。こういう時こそ、プロジェクトを冷静に見通し、成功に導くことが必要である。
 近年監査業務に携わり、他の部門・プロジェクト・システムを第三者の目で見ることが多くなった。プロジェクトを監査する際、どんなPMが必要かを冷静に判断する機会を得た。PM達はこれまでの経験・知識を最大限活用して監査に臨んでくる。しかし、プロジェクト側からの視点でしか考えておらず、けっこうポイントを外していることを痛感した。実際のプロジェクトそのものにも当てはまるかもしれない。PMとして最大限の努力をしていても、抜けはよくある。プロジェクトを少し離れ、第三者の視点で冷静にプロジェクトを見つめ直すことが必要である。PMO等がその任にあるかもしれないが、第三者の視点をいつも持っていたい。
 どんなPMが必要かについて、プロジェクト計画・QCD & スコープ管理、リスク管理等から考察する。
@プロジェクト計画
 「プロジェクト計画」なくしてプロジェクトマネジメントなどできない。プロジェクトの特徴をよく理解し、計画策定時点で最大限の情報収集をすることが必要である。QCDの把握は勿論のこと、スコープ、リスクは何なのかも把握する。これらをベースにその時点におけるPMとしての熱意をプロジェクト計画に封じ込めることが重要である。とは言え、そう簡単に良い「計画」などできない。経験と実績(失敗、教訓かも)はどうしても必要である。また、毛色の違うプロジェクトを担当するケースでは必要な情報をできる限り多く収集する必要がある。良い「計画」が最初からできるプロジェクトなどプロジェクトマネジメントする価値がないかもしれない。プロジェクトは動的なものであり、プロジェクトの進捗に伴い、いろんな変化が発生する。この「変化」に敏感であることがPMには求められる。「変化」がどんな形でプロジェクトに影響を及ぼすかをしっかり把握し、計画を継続的に改善し、より良いものにしていくことが非常に重要である。
Aプロジェクト進捗管理
 「進捗」とは何であろうか。「計画」に関する度合である。度合と言われてもその尺度は何だろうか。QCDに関する指標等あるが、プロジェクトマネージャは強い意志を持って、「進捗管理」できる尺度を持つべきである。尺度をどう設定するかは、プロジェクトマネージャの腕の見せ所である。プロジェクトの特徴に合った尺度を設定するのである。ただし、そう簡単に良い尺度など設定できるものではない。いろいろなデータを収集し、より良い尺度を創出することが必要である。なお、プロジェクトの変化に合わせ、「計画」を柔軟に見直すと共に尺度も変更することが重要である。
 ところで、良い計画がないままに進んでしまったプロジェクトはどう進捗管理すべきであろうか。多少なりとも余裕があるなら、「計画」を最初から作成したい。余裕がないなら、何かに絞って(顧客が最も望むもの。例えば、納期)、優先度付けをする。悪い計画のまま進んでも良い結果に結びつくことは少なく、こういう時こそ第三者の目を持ちたい。
Bプロジェクトリスク管理
 プロジェクトマネジメントはリスクマネジメントであるとよく言われる。リスクはプロジェクトライフサイクル上の全てで発生しうる。リスクをいかに早く特定できるかはプロジェクトの成功を大きく左右すると言っても過言ではない。プロジェクトの初期段階でできる限り多くのリスクを把握し、リスク緩和策・リスク対応策を予め作成しておくことが重要である。
 PMの実力を確認するのに最も簡単な方法がある。担当しているプロジェクトのリスクは何かを聞くことである。リスクが特定され、リスク緩和策・リスク対応策がすらすらと出てくるようであれば、かなり信頼できる。リスクを特定できないようであれば、ほとんど頼りにすることはできないと言ってもいい。プロジェクトマネジメント能力がない、プロジェクトを真剣に考えていない、又はプロジェクトを理解していないと考えられるからである。
 リスク管理能力は簡単には身に付かない。組織としてのPMOがバックアップすることが重要である。PMOがPMの能力をバックアップし、リスクを特定する際の支援を組織的に実施することができれば、組織全体のプロジェクト成功確率は確実に向上する。リスクを管理するナレッジデータベースを構築し、過去に発生したリスクを組織全体で共有することは非常に有効である。
Cスコープ管理
 プロジェクト管理において管理すべき項目と聞かれれば、ほとんどの方がQCDと答えるであろう。最近のプロジェクトマネジメントでは、QCDとスコープ(プロジェクトの範囲)が重要というのが常識となってきた。
 プロジェクトの業種(IT、建設等)、タイプ(構想立案、設計、開発、保守、運用等)にもよるが、スコープが変わることによるプロジェクトの影響は甚大となることが多い。特にITプロジェクトの開発では顧客とスコープへの認識がずれていたために、コストが数倍になってしまったというケースがよくある。どこまでが業務の範囲であるかをしっかりと顧客と確認し合い、文書に残しておくことが重要である。

 100年に1度の経済危機はそう簡単に終わらないかもしれない。企業は存続をかけ、人員削減・ワークシェアリングを断行し続けるだろう。経費削減で教育費も削られる企業も多々ある。でもこんな時こそスキル向上が必要だと強く思う。ワークシェア等で時間に余裕ができたら、プロジェクトマネジメントに関するスキルを向上させておき、未曽有の経済危機に立ち向かいたい。
以上
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