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派遣切りと内部化 〜酔眼朦朧〜

日本ユニシス株式会社 宮本 文宏:3月号

 先日、知り合いのIT企業のマネジャーとバーで呑んでいて、昨年の9月以降、客先のシステム部門に派遣していた自社社員が契約を切られて帰されるか、良くても大幅な値引き交渉にあっていると、ため息混じりの話が出た。
 そこで思い出したのは、年末から最近までニュースで流れていた、製造業を中心とした所謂「派遣切り」の映像である。世界同時不況の下、多くの企業では規模の縮小化や、今迄外部に出していた仕事を内部化するという動きがうまれている。企業レベルだけでなく、国レベルで「BUY American」のように、内部化する動きがある。
 今回の世界同時不況の原因として、いきすぎたグローバル市場主義化がある。すべてを金融商品化し、市場を通してやり取りするという資本主義の思想と、競争の論理が国を越えて世界中に行き渡り、国や地域の繋がりが弱体化していった。そこにアメリカ発のサブプライムローン破綻という問題が世界中に広がり、世界同時不況になった。
 その不況の自衛策として企業は、無駄を削り、合理化を押しすすめようとしている。その一環として「派遣切り」の問題があり、「内部化」がある。
 派遣という問題を論じるには、制度が産まれた背景や、日本の企業の変化を考える必要があり、今回の「派遣切り」には、株主のグローバル化や政府の政策等、多くの問題が絡み合っているので簡単に触れることは出来ない。しかし、「企業とは社会の公器である」とするならば、派遣社員も含めた社員全体や地域社会に対する企業のあり方を考えた上での判断と決断が必要だということはできる。社会に対して責任を果たすということは、企業活動の維持と税金の納付とともに雇用や地域社会の支えとなるという、本質的な意味でのCSR活動が企業には問われている。
 不況に対する対策のひとつである「内部化」についても同様に、経営としての判断の上でのことだが、極端な内部化は、縮小を産むことになる。外部を活用することで、人や物の流れが発生し、そうした行き来や衝突の中で新たな発展や成長がうまれる。発展や成長する為には、外部の知識や専門性といった多様性を取り込むことが必要であり、均質なメンバの中では「改善」はうまれても、大きな「変革」はうまれない。
 危機の時代こそ、企業は生き残りをかけた変革を迫られており、「変革」の為には前例に縛られない多様な物の見方が必要であり、企業が継続することは即ち、一部の株主からではなく、社会から支持されることである。
 そう考えると、緊急避難的とはいえ、派遣切りや内部化による「合理化」が、現在企業が生き残りをかけてとるべき戦略なのだろうか。長期に将来を見据えた上での、選択と集中の一環として、行っている施策であるならば、納得もいくが、「派遣切り」を行っても、自社と社会の将来像を語る企業は極めて少ない。もっともそれだけの余裕すらない、ということもあるのだろうが。ただし、こうした危機的な状況の時こそ人も企業も普段の時以上に本質的な姿を見せるものであり、その姿は長く記憶に留められるものである。そのことは認識しておく必要がある。
 個人レベルでいえば、自衛の手段として、個々人の専門性を高め、単純な置き換えが出来ない、より高度な知的能力を発揮することが必要である。変化をチャンスと捉えて、感性のアンテナを張りめぐらせ、外に出て幅広いネットワークを築く。新しいものの見方で変化を演出する。知識だけでなく、応用可能な知恵を持った「知的プロフェッショナル」として新しい価値を産み出しつづけていく。

 ・・・それが飲みながら話したことの大筋である。結論がある訳でもなく、数多くの脱線があり、高い血中アルコール濃度による酩酊状態から大経営者にでもなったかのような気分での話であったことを念のために申し添えておく。経営者や派遣の本当の苦労も知らずに、という指摘はもっとも。ご容赦いただいた上でひとつの物の見方として参考にしていただければ幸いである。
以上
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