公共事業再考
PMR 内田 淳二:2月号
【仕組みの大変動】 2009年は、世界規模で仕組みの大変動が起こりそうである。安全・安心を喪失した感のある今の日本では、社会インフラの再整備が急がれるに違いない。日本では公共事業を担って来た官僚組織とその業界の存在意義が問い正される時が長く続いて来たが、昨今では地域再生のキーワードとして水資源の利活用などで改めてその役割が見直されているようである。社会の要請に真に応えることが出来る組織が生き残る世の中がやって来るのではないだろうか。食とエネルギーの問題解決に新しい役割が期待されているのであろう。正月休みを利用して水と文明をテーマにした本を読み漁り、面白い本に出会う事ができた。
【日本文明の謎を解く】 今から5年前に発行された旧建設省の元河川局長が書いた本のタイトルである。公共事業は自然環境を破壊し、税金のムダ使いの元凶のようにマスコミに叩かれ続けられて来たが、この本を読んで公共事業に対する考えがガラリと変わった。客観的な記録とデ―タを駆使して時代の権力を握った者達による治水事業などの意義を判りやすく説き明かし、社会資本整備が担って来た役割とそのあるべき姿が見事に描き切らていた。実に読み応えのある本であった。省益にしがみつく保身に汲々とした姿しかイメージ出来ない官僚達であるが、この本の作者は違った。日本の国土を作り上げて来た先人達の績を、国土作りの専門家の視点で調べ上げ解説してくれている。江戸は、世界に誇れる日本文明の見本であった事もこの本で知る事が出来た。緑と水を思うままに確保することで日本文明は発達してきた。21世紀に生きる我々は、新しい視点で緑と水の文明を再構築する力を養わねばならないと筆者は警鐘を鳴らす。
【モノから考えるエンジニアの出番】 文明の下部構造であるインフラ整備が事業として成り立つ為には、情報公開の優劣が鍵を握ると著者は力説している。公共事業復活にはマスコミとの対話能力を高める必要があることが、様々な事例を持って示されている。そしてマスコミこそが第一権力と筆者は述べている。頭でっかちになった組織や官僚任せではなく、モノを主体にして五感で考えることが出来るエンジニアの出番である。公共事業を取り巻く不信を払拭して日本発の文明創出を何としても成し遂げたいという強い思いが、社会資本整備に携わる役割を担う全ての組織に求められる時代であるとの思いを強くした。
歴史的転回点にある2009年初頭にあたり、P2M関係各位の必読書としてお薦めしたい。
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