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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
〜世界から学ぶ力〜

井上 多恵子:2月号

 「日本企業は、円高をベースとした事業戦略を立て、海外進出を加速させることに成長を見出す方向に進むでしょう。」知り合いのコンサルタントから届いた年賀状に記載されていた文だ。今朝読んだ新聞にも、海外からの調達を増加する企業に関する記事が掲載されていた。前号で紹介した、「グローバル化はもはや、数ある戦略の一つではなく、経営の前提になった」というWorks Instituteのメッセージが実感を持って感じられる。日本国内を飛び出し未知な世界に出て行くことに対し、不安を感じている人も少なからずいるだろう。しかし、グローバル化の流れが止まらないのなら、我々PMも、腹をくくって、その流れを最大限活用することを考えたほうが得策だ。
 Works Instituteの中で、ハーバード大学ケネディ行政大学院シニア・フェローの栗原潤氏が語っている。「人事管理や在庫管理の手法など、海外から学べることはたくさんあるはずです。」私が研修を企画・提供する仕事をする上でも、海外から学んでいる点は多い。特に、双方向的な研修の手法や、研修の成果を実践にどう結び付けるか、については、アメリカで研究・開発されたものを取り入れている。「低コンテキスト文化では、コンテキストに頼らない言語コードを駆使することが期待され、プロジェクトマネジメントにおいても、国際標準で通用する知識体系や理論が早くから整備されている。」*1とP2Mのガイドに記載されているように、アメリカ人は、体系化するノウハウに、長けているからだ。
 文化的背景が違えば、物事の見方も異なる。多様な視点は、新しい発見や発想につながる。日本プロジェクトマネジメント協会も、世界各国から著名な先生方を集めて国際大会を昨年開催した。これもまさしく、国という枠を超えて情報共有しあう、という考えに基づくものだ。昨年私が海外事業所から人を集めて一週間の研修を実施した際の目的の一つにも、これがあった。スペイン、イギリス、スロバキア、北米、メキシコ、ブラジル、中国、タイ、マレーシアから集まった参加者が、討議やワークショップを通じてより広い視野を持ってもらうという試みはなかなか好評だった。昨年7月に開催されたヒューマンキャピタルフォーラムでは、日産自動車常務執行役員の川口氏が、「日産自動車におけるグローバル人財戦略」と題して講演を行い、「色々な価値観を持つ人の意見がぶつかりあうことにより、より大きな価値を創造:違いが力をつくっていく」と語った。
 米国民はオバマ大統領に対し、「変化」とともに、「多様性への理解」に期待している。オバマ大統領は、白人の母親とケニア人の父親の子供としてハワイで生まれ、その後、母親の再婚相手となったインドネシア人の父親とインドネシアの地元の学校に通いながら、数年間を過ごした。オバマ氏が執筆した自伝“Dreams from my father”を読んでいるが、非常に興味深い。アフリカ系アメリカ人として差別を受け、他の黒人や白人と接する中で悩みながら自分のアイデンティティを発見していく過程が描かれている。彼は「冷静沈着でクールな人」と評されているが、現在の心境にたどりつくまでに、日本人である我々には到底わかりえない葛藤の道を彼はたどってきたのだろう。そんな彼が、自らの経験で培った「多様性への理解」に基づいてどんなリーダーシップを発揮するのか、楽しみだ。
 新年になり、新たな取り組みにチャレンジしようと決めた人も多いことだろう。経済状況が厳しさを増す中、「自分に投資する」人が増えているという。中学校・高校となぜ英語を学ばないといけないのか、疑問に思いながら学んだ人もいるだろう。しかし、今、ダイバーシティ時代にプロジェクトマネジメントをする皆さんには、その理由が明らかだろう。一つには、世界から学ぶという機会を最大限に活用するためには、国際公用語の英語が求められるからだ。アメリカで出版される書籍の中で和訳されるものは限定されているし、そもそも和訳されるのを待たないといけないのは、必要な情報の入手という点からタイムリーではない。貪欲に洋書にあたって知識を吸収して欲しい。また、英語を読むことはなんとかできても、話したり書いたりするのが苦手な人は多いようだ。そういう人へのアドバイスは、プロジェクトマネジメントをする上でどんな場面でどんな表現を使う必要があるか、をまず考えること。英語のテキストを一から復習するよりも、業務でのアウトプットを意識しながらインプットするほうが効率的だし、モチベーションも高まる。このシリーズの中で、英語表現を紹介してきたのもそのためだ。ぜひ、活用して欲しい。

 *1  P2M 新版標準ガイドブック (560ページ)
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