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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
〜英語で伝える力 A〜

井上 多恵子:1月号

「米国では、どこまでが賛成でどこまでは反対なのかをはっきりさせ、自分の独創性を示し、明確な『結論』を述べないと、研究論文とは言えない」12月12日付け日本経済新聞の「私の履歴書」で、米国留学の成果の一つとして、日本学士院会員の小宮隆太郎氏が記載していたコメントだ。
 これは、前回述べた、「直線的コミュニケーション・スタイル」の事例と言える。ダイバーシティ時代にプロジェクトをマネジメントする我々は、螺旋的コミュニケーション・スタイル(明確に言語化せず、相手が結論を推察してくれることを期待する)は欧米人には理解されにくいということを認識して、「発信能力」=「受信者が納得できるように論理的にわかりやすく説明できる能力」*1を高めていかなければならない。
 説明を受ける際、欧米人はわからないと、積極的に質問をする。P2Mの大会でも、英語で行われるグローバルトラックでプレゼンテーション後、”What do you mean by…?”(…何を意味しているのですか?)”Can you clarify …?”(…について明確にしてもらえませんか?)といった質問をしたのは、欧米人だった。従って、もしプロジェクトについて欧米人に説明する機会があれば、明確さを目指すことと、Q&Aへの準備はしておきたい。
 アメリカ人は意見を交わしあうことを大事にするので、ステークホルダーやプロジェクトメンバーと、とことん議論をする心積もりもしておいたほうがいい。ABC News-This Week-という番組では、しばしば、対立する立場に立つ2名のゲストを登場させ、議論させる手法を取っているし、立場が上の人に対しても、直球質問をする場面をよく見る。先日コンドリサ・ライス氏に対するインタビューがあった際にも、”What do you consider is your failure?”(失敗だった点は何だと思いますか?)や、”Did you ever consider resigning? Do you feel responsible?”(辞任を考えたことはありましたか?責任を感じていますか?)といった質問があった。前述の小宮隆太郎氏も、「アメリカでは、師弟も学業が終われば人格は対等であり、お互いに遠慮なく論議して相互理解に達する。」と記載している。
 こういった厳しい質問や議論をしても、人間関係自身には大きな影響を及ぼさないのも特徴的だ。次期大統領のオバマ氏がヒラリー・クリントンをSecretary of State(国務長官)に任命したというニュースも、「戦いが終われば、協力して物事を進めていく」姿勢を示している。日本の政治家にも見習ってもらいたい姿勢だ。
 では、議論をする際に使える英語表現をいくつか見てみよう。同意を示す表現としては、”I agree with your opinion.”(あなたの意見に同意します)がある。同意までいかない場合は、”I see your point.” (おっしゃっている点は、わかります)と言えるし、反対の場合は、”I disagree with your opinion.”(私はあなたの意見に反対です)といったような言い方をする。少し和らげるのであれば、”I am afraid I cannot agree with your proposal because it would delay our schedule.”.(スケジュールを遅らせることになるので、残念ながら提案を承諾できかねます)と言うこともできる。意見を言う際の注意点は、曖昧に言わないことだ。「恐らく」を意味するMaybeやPerhapsを使うと、”Do you want it or not?”(欲しいの?いらないの?はっきりして)と突っ込まれたりする。
 先日、(株)リクルートワークス研究所が発行しているWorks Instituteという雑誌の臨時増刊(2008 Autumn)が届いた。タイトルはずばり、「緊急提言 今こそ人と組織のグローバルな進化を」である。世界がつながり、「グローバル化はもはや、数ある戦略の一つではなく、経営の前提になった」ことを受けて、「グローバル化」というテーマで、今改めて、世に問うべきだと考えた、といった主旨のことが冒頭に書かれている。「ダイバーシティ時代にどうプロジェクトをマネジメントしたらいいのか」を考えることは、まさしくタイムリーだと言えよう。

 *1  P2M 新版標準ガイドブック (553ページ)
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