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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
〜英語で伝える力〜

井上 多恵子:12月号

 これまで2回にわたり、多様なバックグラウンドを持つ関係者に対してプロジェクトの目的や重要性を明確に伝える力と、自分自身について語る力について述べた。今回から数回にわたり、英語でこれらを伝える力について考えてみたい。
 P2Mの新版標準ガイドブックは、「プロジェクトリーダーに必要とされる技量の一つとして、「チームを勇気づけ、発展と成長のために率先垂範すること」をあげている。*1「チームを勇気づけ」という観点から大いに参考になるのが、オバマ次期大統領のスピーチ手法だ。アメリカのニュース番組は、“Obama inspired people. ”という表現を使っていた。オバマ氏は人々をinspire、勇気づけた、という意味だ。自信を持って落ち着いて話す、一言一言が聴衆の心にしみ込むように語りかける、“Yes, we can. ”(私たちにはできる)というフレーズを効果的なタイミングでスピーチの中に繰り返し入れることで、聴衆を巻き込んでいく、など彼から学べる点は多い。実際、オバマに合わせ、聴衆が一団となって、“Yes, we can. ”と唱える姿は感動的だった。もちろん、英語を母国語としない我々が彼のように話すことは難しいが、相手の心に届く話し方をするために、訓練によりテレプロンプターの使い方をマスターし、聴衆に向かって話しかける術を習得したオバマの努力を見習うことはできる。
 というのは、上手く異文化の相手とコミュニケーションをとるためには、日本語をそのまま100%正確に英語に訳すだけでは駄目で、相手の文化に配慮した話し方が求められるからだ。つまり、バイリンガルは十分条件では無く、バイカルチュラルであることが必要なのだ。P2Mのガイドブックには、「低コンテキスト文化では、個人は明確なメッセージを構築しなければならない。コンテキストに頼らない言語コードを駆使することが期待される」と記されている*2 別の言い方をすれば、低コンテキスト文化では、「言葉をはしょらず正確に説明する石畳的コミュニケーション・スタイル」が望ましいと言える。ちなみに、日本では、「わかりあえるための必要最低限の言葉を用いる飛び石的スタイル」が一般的に使われている。
 では、具体的な英語表現を見てみよう。目的は、“The aim of this project is to + 動詞”を使って、“The aim of this project is to improve the efficiency of the system. ”(このプロジェクトの目的は、システムの効率を改善することだ)といった風に説明できる。 “In this project, we are aiming to improve the efficiency of the system. ”(このプロジェクトでは、我々はシステムの効率を改善することを目指している)と言うこともできる。目標も同様に、“The goal of this project is to release this system by the end of November. ”(目的は、システムを11月末までにリリースすることだ)や、”In this project, we are targeting to release this system by the end of November. ”(システムを11月末までにリリースすることを目指している)と言うことができる。プロジェクトの重要性は、“This project is important because it bridges the gap between the poor and rich” (このプロジェクトは、貧しい者と豊かな者との間のギャップを埋めるので重要だ)と、becauseを入れるとわかりやすい。“I believe that”(私は信じる)を前につけると、自分の信念を打ち出せる。
 何か問題が生じた際には、例えば、”The completion of this project will be delayed because of the lack of manpower.(人員の不足により、このプロジェクトの完成は遅れる)といった具合に説明しないといけない。特に、欧米ではaccountability(アカウンタビリティ 説明責任)が求められる。政府支援を要請中の米国の自動車大手三社に対し、民主党首脳は、「経営トップが多大な犠牲を払い、経営を大きく変革していくことを納税者に示すべきだ。」“It’s about accountability.”と発言している。我々日本人は、螺旋的コミュニケーション・スタイル(明確に言語化せず、相手が結論を推察してくれることを期待する)を使う傾向にあるが、これでは、なかなかaccountabilityは果たせない。理由をロジカルに説明し、相手の理解と同調を求める直線的コミュニケーション・スタイルを用いる必要があることは肝に銘じておきたい。
 この直線的コミュニケーション・スタイルはなかなか奥が深いので、次回はこの考察から語り始めてみたい。

 *1  (291pg)
 *2  (560pg)
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