投稿コーナー
先号   次号

「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
〜自分自身について語る力〜

井上 多恵子:11月号

 プロジェクトの推進にあたっては、前回述べたように、プロジェクトの目的や重要性を関係者に明確に伝えることが大事だ。それに加えて大事なのが、自分自身について語ることだ。特に、経験や職種や職場が異なる多様な人々と仕事をする際には、自分自身をメンバーによく理解してもらうことは、不可欠だ。
 お互いの性格、考えや強み、弱みやこれまでにやってきたことを知っているメンバーとプロジェクトを推進するのは、比較的楽だ。しかし、同じ社内でも職種や部署が違う人達や、国籍も業界も職種も違う社外の人達と一緒にプロジェクトに携わることになった場合は、意思疎通は容易ではない。使っている用語自体が違う人達に対して、自分がどういう人間で、どんなことが得意でどんなことをそのプロジェクトにかかわることで達成したいのか、わかってもらうためには、かなりの努力がいる。
 P2Mの新版標準ガイドブックは、「国によって『個人主義』か『集団主義』かという相違が見られ、社会活動にさまざまな影響を与えている」と記載している。*1 集団主義が強いとされる日本では、「I=私」が何を成し遂げたのか、ということよりも「We=あるグループに属するところの私たち」が何を成し遂げたのか、ということが重視され、「私はたいしたことをやっていませんから」といった自己紹介に見られるように、謙遜が良しとされてきた。最近でこそ、成果主義やコミットメントという考え方の浸透とともに、スキルや知識や経験を考慮するという風潮が強まり、各人が「組織のミッション達成のために、どう工夫をして貢献をしたのか」といったことを見るようになってきたが、その変化に戸惑っている人達が多いのが実態だろう。小さい頃から自分をアピールする訓練を受けてきた欧米人と異なり、「どう表現すればいいのか」について指導を受けてきていないからである。
 そこで、プロジェクトに関わる皆さんには、今皆さんがやっているプロジェクトや、将来やってみたいプロジェクトを思い浮かべながら、カバーレターと職務経歴書を実際に書いてみることをぜひ提案したい。この重要性は、私が転職支援をしてきた中で、痛感している。書くという作業をすることで、これまでやってきたことや、今関わっているプロジェクトでどういう役割を果たしているのか、また、どういう貢献をしているのか、整理することができる。また、自分と同じコンテキストを共有しない人にわかってもらうためにどう説明すればいいかと考えることで、表現をブラッシュアップすることができる。希望職種に対して自分が適任だ、ということを上手く伝えることができれば、希望職種に就ける可能性も高まる。今すぐ転職や新しいプロジェクトに加わる予定がなくても、こうした訓練をすることで、将来のチャンスを広げることができる。
 では、実際どうやって書くか、だが、貴方が「あるプロジェクト」のリーダーに選出されたと仮定しよう。この場合、職務経歴書には希望職種として、「xxプロジェクトのリーダー」と記載する。その下にくる「資格の要約」には、「xxプロジェクト」のリーダーとしての職務を貴方が遂行できることを裏付ける、具体的な関連実績、経験と資質を記載する。例えば、以前リーダーとして、あるプロジェクトをスケジュール的にも予算的にも質的にも、計画通りに無事完了させたといった実績である。できるだけ定量的に実績を示すことが望ましいが、難しい場合は、例えばクライアントからの評価などを書くこともできる。関連する資格や研修の受講や、携わったプロジェクトでの受賞歴があれば、それらも記載するといい。グローバルなプロジェクトで英語などが求められるならば、TOEICの点数や、実務で英語をどのように使ったかをも記載する。一方、通常職務経歴書につけて送るカバーレターでは、その仕事の内容や自分に求められていることを十分に理解した上で、その仕事に対する熱意や、これまでの経験や資質やスキル等を用いてその仕事に対してどのように貢献できるかを示す。これらの書類をもとにステークホルダーに話をすることで、貴方がリーダーにふさわしいということを理解してもらえるだろう。プロジェクトのメンバーも、貴方の熱意や経験を知ることで、モチベートされるだろう。
 職務経歴書やカバーレターのフォーマットと書き方については、レジュメプロのサイトに日英で「例」を記載している。また、共書「プロが教える英文履歴書の書き方- 自己分析から面接まで」(DHC)には、プロジェクトマネージャーの職務経歴書の例が掲載されている。興味がある方は参考にして欲しい。  こちらを御参照

 *1  (558pg)
ページトップに戻る