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次号

編集長メッセージ
今月から井上多恵子(いのうえ・たえこ)さんにご執筆をお願いしました。
経歴を眺めてからご一読ください。

井上 多恵子:10月号

プロフィール
  幼少期と中学生時代などをニューヨークで過ごす。一橋大学社会学部を卒業後、メーカーに勤務。海外営業、オーストラリア支社勤務、プロジェクトマネジメントなどの業務を経て、現在、国内外の購買担当者を対象とした研修の企画・立案の業務に携わっている。社外活動は「PMSコミュニケーションマネジメント講師」や「レジュメプロ パートナー」など。「レジュメプロ」では、キャリアカウンセラーの資格などを生かし、転職・留学希望者の書類作成や面接のサポートを行っている。( こちらを御参照) 「レジュメプロ」代表との共著に、「英文自己PRと推薦状――磨こう!自己アピール力」(税務経理協会)、「プロが教える英文履歴書の書き方」。

「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
〜伝える力〜
 「ダイバーシティ・マネジメント」という言葉を最近よく耳にする。筆者の勤務先のCSRレポートにも掲載されているし、ウイキペディアにも、「個人や集団間に存在するさまざまな違い、すなわち『多様性』を競争優位の源泉として生かすために文化や制度、プログラムプラクティスなどの組織全体を変革しようとするマネージメントアプローチ」という記載がある。
 プロジェクトの多くが社内の一部署を越えた広がりを持つようになった今、「ダイバーシティ」は、プロジェクトマネジメントに携わる者にとっても、避けて通れない話だ。筆者は現在購買担当者向けの研修業務を担当しているが、「購買」という仕事も、社内外の様々な部署の人が関係するサプライチェーンマネジメントという大きな枠組みを意識しないでは成り立たなくなっている。工場も、国内から海外へ、さらには、西欧から東欧・中国からベトナムなどに移行してきている。アウトソーシングなどのグローバリゼーションの進行を「フラット化する世界」というタイトルで論じた本も話題を呼んだ。
 そんな「ダイバーシティ時代」の中で、プロジェクトを上手く進めていくための秘訣は何だろうか?「P2Mのコミュニケーションマネジメント」にも心構えが書かれているが、このコーナーでは、一歩踏み込んで、「PMとして実践力を高めていく」ための具体的な方法を探っていきたい。
 P2Mの新版標準ガイドブックには、「プログラムとプロジェクトマネジメントは、個人で実行されるのではなく、それぞれの専門家を集め、組織で実施される。得意な分野で活躍しながら、組織内外の人材ネットワークを駆使して成果を上げることのできる能力が最重要視される」*1と書かれている。そして、そのべースとして、「各プロジェクトを実行する多様かつ多数のプロジェクト要員を1つの方向に向けて協同させていく場としてのコミュニティのマネジメントも極めて重要」*2とある。「多様な人々を1つの方向に向けて協同させていく」ために何よりも欠かせないのが、「伝える力」だ。プロジェクトリーダーは、「なぜこのプロジェクトをこのタイミングで、このメンバーでやる必要があるのか?何を目的に行い、どんな成果物を出そうとしているのか?どんな重要性があるのか?」といった問いに明確に答え、メンバーを動機付けなければならない。しかし、高コンテキスト文化の中で育ってきている日本人の多くが、「説明する」訓練を受けていない。コンテキストを共有している人との間では、努力しなくても、「なんとなく」分かり合えるからだ。しかし、これからはそうはいかない。コンテキストを共有しない人たちともプロジェクトを進めていかなければならないケースが増えてきている。
 私が通った米国の中学校の授業では、例えば自分が政府の役員になったと想定して政策を述べるロールプレイやディベートなどをふんだんに取り入れていた。MBAでは、授業中にどれだけ発言するか、が重要な採点基準の一つになっている。1年にも及ぶ期間の中で、数多くの演説、ディベート、インタビューをこなしている米国の大統領候補者は、「説明と動機付ける力」が高い。聴衆を見回し、時には熱く、時にはソフトに緩急をつけながら、話しかける力に長けている。自民党総裁選びが各候補のたった数回のぱっとしない演説とともに、あっという間に終わってしまったのと対照的だ。
 では、我々日本人は、「伝える力」をどうやって高めていけばいいのだろうか。まずは、「伝える力」が弱いということを認識し、「伝えよう」という努力をすることが大事だ。低コンテキストの人たちと比較すると、はるかに少ないと言われている、コミュニケーションにかける時間を増やすこと。プロジェクトの概要をメンバー以外の人に説明してみて、相手がわかるかどうか、試してみること。だらだらと思いついたまま話す癖がある人は、「目的」「目標」などの項目に分けて、要点を箇条書きし、要旨と話の流れを最初に言うといい。「何を伝えたいのか」が、話の最後までよくわからない人は、相手をイライラさせがちだ。「今日お伝えしたいことは3点あります。まず、、、次に、、そして最後に、、」と例えば「3つの点に絞って」話せば、わかりやすい。英語でのプレゼンテーションで、よく推奨される方法だ。英語が得意な人なら、英語で一度書いてみるのも一案だ。日本語で多用される、何を指しているかがはっきりしない「それ」や「あれ」や、何をお願いしているのかわからない、「よろしくお願いします」といった曖昧な表現は、英語では使えない。英訳する過程で明確にせざるを得ず、その結果、研ぎ澄まされた表現になるだろう。外国の人が関係するプロジェクトの場合には、外国語などの力が更に求められるが、まずは、日本語で伝えることを目指そう。次のステップについては、次回以降、考えてみたい。
 
 *1 (40ページ)
 *2 (25pg)
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