今月のひとこと
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「悪い習慣は化け物、よい習慣は天使」 (1)

オンライン編集長 渡辺 貢成:2月号

『習慣というものは、悪い行いに対する感覚を麻痺させてしまう化け物ではあるけれども、一方、よい行いに対してもお仕着せを与え、次第に身に付けるようにしてくれる天使でもあるのです』。ハムレットのセリフが1月23日の日経「春秋」コラムに書かれていました。

私は石油精製プロジェクト、原子力関連プロジェクト、宇宙開発プログラム等の経験をしました。これらのプログラムは大型で失敗を許されないものでしたが、発注者側のプロジェクト責任者が優れていたことによって無事に完了できたことを痛感しています。この時代に学んだことはビジネスの基本でした。

基本の第一は何だと思いますか。契約です。ビジネスは契約から出発します。契約では発注者、受注者は対等です。発注者は発注者の役割とその責任を全うすることが当然の義務として契約書にうたわれています。そしてその逆も然りです。要約すると契約は発注者、受注者のそれぞれの役割と責任範囲を明確にし、リスク分担も明確にすることによって成立します。新しい開発や新規のように仕様が決めにくいものは一括発注を避けて、実費償還型で契約を結びます。新規プロジェクトの多い米国は実費償還型が多いという傾向にあります。
そこで発注者は正しく契約をするために、プロジェクトライフサイクルでいう構想計画を確立させる必要があります。PMBOK以前の構想計画は発注者にとって最も大切です。

宇宙開発仕事を終えたとき、縁あってPMAJの前身である日本プロジェクトマネジメントフォーラムの事務局長を5年間務め、その間に小原先生を中心に「P2M」を世に出す仕事のお手伝いをしました。P2Mの目的は発注者のためのPMをつくることでした。そこで構想計画であるスキームモデルを重視したPMがつくられました。

事務局長時代に痛感したことは、日本企業のITプロジェクトの業務習慣が気になりました。日本のIT業界はPMBOKを主体に仕事を進めています。そして構想計画なしで、いきなり業務を進める習慣です。また、契約書なしか、正確な仕様書もない契約書で仕事を進めている習慣でした。よく観察すると『悪い行いに対する感覚を麻痺させる化け物に取り付かれている』ように見えました。ITプロジェクトの失敗原因を調べますと80%は顧客原因によるものです。構想計画をしないでプロジェクトを進める方式は欧米の企業から見たら、そら恐ろしい習慣です。工場で汚水物を川に流し、水に薄めて放出し、その大量の汚染水を下流で他社に処理させるやり方に似ています。処理に膨大な費用が掛かるやり方です。

欧米流のPMを実践してきた立場で見ると次のことが言えます。
『欧米人は複雑なものを単純化して問題を解決していく。日本人は単純なものを複雑化して仕事を進めている』
よくよく観察すると単純なものを複雑化してことを進めると、うまくいかなかった場合に誰も責任をとらなくていい仕事の仕方であることがわかりました。この習慣はITだけではなく、日本全体にはびこる商習慣です。

この習慣には二つの問題があります。単純化してする仕事の2から3倍費用がかかります。昔はともかく、スピード化された社会ではマイナスです。日本の知的生産性が低い理由の一因となっています。
二番目はグローバルに通用しないことです。世界のビジネスの常識から逸脱しているからです。簡単にいうと「自分が金を出して投資するプロジェクトは自分が求める仕様を自分で決めるのが世界的な常識だからです。でも、当事者はお客様には逆らえないと唯々諾々としていることです。これはお客様にとっても、受注者にとってもマイナスだという認識が必要です。

やっと、最近になって経済産業省は構想計画(超上流)から始めることを勧めており、要求仕様は発注者の業務といい始めました。これにJUAS(情報システム・ユーザー協会)もこの方針でマニュアル、標準化の整備に乗り出しています。大変ありがたいことです。しかし、長年のこの習慣が簡単に変わらないかもしれませんが、早く皆さん方が天使のご加護が得られますように願っております。
−この項続く−
以上
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