「プロジェクトマネジャーは賢くなろう」
オンライン編集長 渡辺 貢成:1月号
新年おめでとうございます。本年は不景気の話ばかりであまり冴えませんが、皆が不景気を考えると、不景気は貧乏神と同様に付きまとって離れません。せめて気持ちだけでも明るく振舞うことを考えました。今年のテーマは「プロジェクトマネジャーは賢くなろう」としました。
有名な格言に「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」があります。世の中は不景気だ、不景気だと騒ぎ立てています。ただ、歴史的に見ると景気循環の一つですが、少し違う点は「グローバル化という名の詐欺師」に世界中が引っかかった大きな「ツケ」といえます。グローバル化が悪いわけではなく、悪用した金儲けの達人(金儲けとは欲の深いバカを如何にその気にさせるかと定義しています)に世界中が踊らされたのです。グローバル化地震の発信地は米国ですが、これは直下型の地震ではなく、広域地震です。大切なことは、この危機を如何に乗り切るかという戦略です。
戦略提供となると困ったことが起こります。日本のマスコミ界は長年悪口を戦略としてきましたが、戦略提案となると簡単ではありません。「不景気で困った、困った」と書くことはできますが、「どうすれば、不利を有利に導けるか」という発想が紙面でお目にかかれません。P2Mの発想で言うと@不況対策緊急プロジェクトA日本の優位性(通常から研究していないト緊急時にはアイデアが出てこない)を活かすプロジェクトB有利に展開するシナリオとリスクマネジメントを含めた実現性検討がさしずめ行うプログラムとなります。ここでは「歴史に学ぶ」姿勢が必要と思われます。危機の真っ只中では見えないのですが、時間の経過と共に、どんな手を打つべきであったか、歴史が教えてくれます。歴史は偉大な教師だからです。
話が大きくなったのでここでプロジェクトマネジメント(PM)に戻します。日本のプラント業界は60年の歴史があり、今世界一のプラント輸出国となりました。初期の混乱期を乗り越えてPM成熟度の高い組織を創りあげてきました。60年の歴史の中で学んだ歴史的教訓があります。
(1) 発注者のプロジェクトマネジャーのレベルの低いプロジェクトは成功が難しい
(2) プロジェクトの成功は構想計画で80%決まる
(3) 契約書のないプロジェクトは失敗する
(4) 変更の多いプロジェクトは成果物の品質が下がる
(5) プロジェクトライフサイクルコストが安いプロジェクトが最高である
私は石油、原子力、宇宙開発プロジェクトに参画してきましたが、困難といわれるプロジェクトほど上記5つの教訓が守られていることを痛感しました。そしてプロジェクトマネジャーは素直に人の話をよく聞きます。プロジェクトの怖さをよく知っているからだと思います。
残念ながらITプロジェクトを実体験したことがありません。IT業界のPMに問題があることは周知の事実です。原因もある程度わかっています。調べてみますと上記5つの教訓を知らないで、残業に残業を重ね、努力をされた結果、成功率は低いものの、今日の日本社会のIT化に貢献されてこられたことも知っています。
近年は経済産業省が発注者は@契約を正しく行いなさい、A3つの要求仕様(事業仕様、業務仕様、システム仕様)を発注者は書きなさいと指導しています。これに応じてJUAS(日本情報システム・ユーザース協会)も会員のための標準化に力を入れています。
しかしながら、日本の社会では、「お客様は神様だ」という発想が優先し、正しいPMを実施できにくいことも事実です。ではこの歴史的5原則抜きで仕事を進めると、一番損をするのは誰かご存知でしょうか。それは発注者自身です。残念ながら発注者自身が、それを知らないことも事実です。そして日本企業のIT投資が投資の大きな目的である生産性向上に寄与していないことも、新聞紙上で大きく取り上げられています。
私が講習会でPMの正しい実施方法をお話ししても、お客様が強くて現実にはなかなかお客様を説得できないと反論されます。事実はそのとおりかもしれません。これはプラント系でも日本で仕事をすると同じでした。プラント系は簡単に顧客の言いなりになっていてはプロジェクトが赤字となり、倒産の危機もあります。そこであの手この手で顧客を説得し、正しい方向へ導く努力をしてきました。これは理屈で説得するのではないのです。プロジェクトマネジャーはどの世界でも賢くないとやっていけない職業です。賢く立ち回るには「PMの正しいやり方を理解し、自信を持って、顧客を勇気付けながら、正しい方向に導く執念が必要です。このプロセスには顧客から嫌われず、尊敬される賢さという手法がもっとも大切だ」ということを新年のプレゼントとします。
以上
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