関西P2M研究会コーナー
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“プロジェクトX”と「場」

関西P2M研究会 海蔵 三郎:1月号

1.はじめに
 NHKの人気番組であった“プロジェクトX”の成功要因を探求する、という主旨で始めた関西P2M実践事例研究会の中のプロジェクトX分科会活動も発足後3年目を迎えている。1年目はプロジェクトXに登場するリーダ像に焦点を当てて成功要因をあぶり出すアプローチを試みた。そして2年目の昨年度はリーダからチーム生成に焦点を当てて、その成功要因を探求することにした。3年目の今年度は「難局への遭遇、その時リーダはどう動いたか」に焦点を当て、求めるリーダシップ像、チーム活性化策の分析に取組んでいる。現状は“プロジェクトX”分科会の最終年度に相応しい結論を得ようとメンバー一同、真摯に奮闘している最中である。
 3年目については来年3月までに作成する活動報告に譲るとして、本稿では、2年目の活動報告について結論に至った過程を紹介する。
 分科会の2年目は、1年目の結論からリーダは必ずしも完璧ではない。さまざまなタイプがいる。リーダの不完全さを補うべくメンバーの存在が、プロジェクトを構成するチーム力となって結実してくるのではないか。そのような大胆な推測の基、スタートした。
 ただ当然のことながら、プロジェクトXの題材ストーリーからは、チームメンバー一人一人の役割は読み取れない。昨年のリーダ像解析でも苦心したが、昨年以上に曖昧な不確定な事象と対峙する事になった。分科会活動やチーム力分析の詳細な内容については、分科会成果報告書に譲るが、分科会の最終まとめでは「場」に注目した。「場」を創生し活性化することで、メンバーの漠然とした役割を有効活用出来ると結論付けた。
 そこで本稿では、昨今、巷間で取り上げられる組織上の課題と、プロジェクトXのストーリーから読み取れるチーム力との相違点を、「場」という観点から論じてみたい。
2.「場」とは
 「場」については、専門的な書物も数多く上梓されており、組織活性化においては、非常に重要なキーワードとして認識されている。
 P2Mガイドブックには、プロジェクトマネジメント共通観の一つに「プロジェクトの場」を取り上げている。またコミュニケーションマネジメントの章には、「場」の理論が掲載されており、『「場」とは、人々が参加し無意識のうちに相互観察し、コミュニケーションを行い、相互に理解をし、相互に働きかけあい、共通の体験をする、その状況の枠組みのことである。そこでは、人々がさまざまな様式で情報を交換しあい、その結果、人々の認識(情報集合)が変化する。このプロセス全体が情報的相互作用であり、場とはいわばその相互作用の「容(い)れもの」である』(P2M新ガイドブック:P562引用)と謳われている。この定義は一橋大学教授の伊丹敬之先生の書かれた著書等と同義のものと解釈できる。
 いずれにしても、「場」とは組織が形成されたら、自然発生的に生まれるものではない。「場」を生成する、何らかのトリガーが必要である。
3.「場」の生成について
 昨今、ほとんどの企業においてCSRやコンプライアンス強化、あるいは情報セキュリティの強化策が打ち出されている。社会的信用と企業価値向上のためには、避けては通れないコストとして多くの経営資源が投入されている。加えてJ-SOX法への対処のために、経営の仕組やルールはますます高度化し複雑さを増してきた。このような組織運営上における制度・ルールの厳格化は、時代の潮流でもあり、危機管理の観点からも重要であることは理解できる。
 しかしながら、一方で、このような流れに逆行するかのように、昨今、各種の不祥事や事故が多発している。まさに『ルール栄えて、組織廃れる』と揶揄されるようなモラル低下現象が起きている。グリーンエリアに代表される日本の伝統的な経営組織の構造と機能は瓦解し、モチベーションの低下が著しい。
 そこには一連の制度・仕組改革の過程で「場」という枠組の概念を等閑にしていることに起因するのではと筆者は考える。少なくとも昨今の企業組織の風潮は”プロジェクトX”時代の組織環境やヒューマニズム的な観点から大きく乖離していると思われる。
 さて前出の伊丹教授によると、「場」の生成は、@モノが生む場、Aコトが生む場、Bヒトが生む場の3つのタイプに分類されている。
 この分類に従って、プロジェクトX分科会においては、プロジェクトチームにおいて、「場」が生成され活性化するパターンを、プロジェクトXの題材だけでなく、卑近な事例からも分析検証した。
4.プロジェクトと「場」の生成パターン
 まず一つ目の事例は、プロジェクトXの題材である、ホンダの「低公害エンジン開発プロジェクト」である。このプロジェクトで「場」が生成され、プロジェクトが活性化した時期は、本田宗一郎氏が『2年後にアメリカのマスキー法に対応できる低公害エンジンを商品化する』と宣言した時である。本田宗一郎という稀代のリーダシップにもよるが、分科会では、当事例は「危機感醸成型の「場」の活性化」のパターンとした。上述の伊丹教授の分類に従えば、Aコトが生む場に近い。
 二つ目の事例は星野監督と阪神タイガース優勝プロジェクトである。ダメ虎阪神を見事に復活させ優勝に導いた星野監督の手腕と阪神タイガース復活劇を分析した。当事例は「モチベーション向上型の「場」の活性化」のパターンとした。伊丹教授の分類に従えば、まさにBヒトが生む場であり、星野監督の人間的魅力に起因するものである。
 三つ目の事例は、昨年開催された「プロジェクトマネジメントフォーラム神戸2007」の当日の運営を見事に切盛りした「運営プロジェクト」に焦点を当てて、「場」が形成された過程を分析した。当事例のパターンは「共感共鳴型の「場」の活性化」であると認識した。伊丹教授の分類に従えば@モノが生む場であろう。
 以上のような分析結果から、分科会として、「場」は潜在的に存在し活性化できる。活性化するためには、リーダがリーダシップを発揮し、目標達成への熱意と組織活性化のための適宜なタイミングの見極めが重要であるとの結論に至った。

以上、プロジェクトX分科会の二年目の経過を披瀝し、この稿を綴じたい。
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