関西P2M研究会コーナー
先号   次号

講師業務に活かせるP2M

関西P2M研究会 土肥 正利:2月号

1.はじめに
 P2M講習会や、その他の研修会の講師を担当させて頂くなかで、「自身の講師業務にプロジェクトマネジメントを活用できているか?」との疑問を持った事が本稿を記載するきっかけとなりました。
 受講者には、プロジェクトマネジメント、スコープ、タイム、コミュニケーションマネジメント、「場」の形成が大切だと説明をするものの、果たして講師として受講者を初めステークホルダー満足のためにこれらマネジメントをどのように自分自身が工夫し、とりいれているのだろうかと思ったしだいです。

2.講師業務と関係性マネジメント
 これまでに、Panasonic 人材開発カンパニー主催の「ソフトウェア品質マネジメント(2日間)」を年3回、パナソニックラーニングシステムズ株式会社主催の「PMSプログラム研修会」、「PMC研修会」や、PMAJ主催の「PMS講習会」で第4部 5章目標マネジメント、6章資源マネジメント、8章情報マネジメント、9章関係性マネジメントの講師を経験させていただきました。
 初めてPMAJ主催のPMS講習会で「関係性マネジメント」の講師をおおせつかった時は、テキストの内容を伝えるのが精一杯で、受講者の気分を和らげようと仕込んでいたジョークも発することなく、とにかく与えられた時間を守って話終えることで頭が一杯だったかと思います。
 何回目かの、「関係性マネジメント」の講義の中で、@関係性の設計、A関係性の構築・維持、B関係性の再構築の説明に、「PMS講習会」の企画、実施、フォローの観点から、PMAJ事務局、受講者、講師の関係を当てはめて次の様に説明することで、より身近なものとして理解して頂けたと思います。
@ 関係性の設計:事務局は年間の講習会計画を立て、会場の予約、講師への日程調整、また受講者の皆さんはPMSプログラムの講習会を受講しようと決意され申し込む。そうした中で、ステークホルダーの顔ぶれが揃い、関係者のリストが出来上がり、関係性の設計が行われそれぞれのステークホルダーの役割が特定されていきます。
A 関係性の構築・維持:講習会当日は、講師である私の立場からは、講義中受講者の皆さんとの関係性を良好な状態に構築・維持することが重要となります。
B 関係性の再構築:そして一連の講習会の講義が終了後、受講者の皆さんはPMS試験に臨まれます。試験に合格され、P2Mクラブへ入会された方との再会などは関係性の再構築の機会です。

そして受講者にリラックスしてもらおうと、仕込んできた事例やジョークなどを話すことのできる余裕も少しずつ生まれてきました。ジョークは、今でもよくスベリ、気まずい思いをしていますが、幸いなことにこれまで、聞くに絶えないとの厳しいご意見を頂くこともなく、何とか良好な関係性を維持して講義を終えることができるようになってきました。関係性の再構築においては、実際に、関西P2M実践事例研究会のワーキング活動にて、受講者の方に再びお会いし、オフショア分科会に参加されているAさんや、プロジェクトX分科会に参加されているH氏などと、その後も有益な関係性を継続させて頂いております。

3.その他のマネジメントとの関係
 関係性マネジメントのみに限らず、講習会での講義というものをプログラム、プロジェクトの切り口で眺めてみると次の様に当てはめることができます。
1)プロジェクトの基本属性
@ 個別性:1回毎の受講者は異なります。同一環境、ステークホルダーの関係性配下で実施されるわけではなく、個別性を有します。
A 有期性:講習期間は限られています。初めと終わりのある有期性業務です。
B 不確実性:講義する内容、テキスト・コンテンツは同じだが、受講者の反応、評価の良し悪しはやってみないと分からないといった不確実性を有しています。
2)プロジェクトマネジメント
@ デザイン:テキスト以外に講師自身の経験、事例の紹介などを盛り込み、強調するポイントを絞りこむなど講師が講義内容をデザインします。
A 計画:講義当日までの準備、講義のスケジュール(単元毎の時間、休憩をとるタイミングと時間、1ページ当りの時間)を計画します。
B 実施:講義の当日は上記@、Aにて、デザインしたコンテンツを計画通りに実施します。
C 調整:講義途中は、進捗遅れ・進みすぎの時間調整や、受講者からの質問への対応、理解しにくい箇所をホワイトボードに記載するなどの進め方の調整をその場で行います。また、講義終了後は受講者の理解度テストの結果、受講者からの講義内容へのアンケートに基づき、講義を振り返り、次回に向けた反省を行います。
D 成果:受講者のアンケート結果による講義の評価向上、受講者のPMS試験の合格と言う形で現われます。
3)コミュニケーションマネジメント
最後にコミュニケーションマネジメントの「場」の理論を活用しようと試みた例です。先に述べた「ソフトウェア品質マネジメント(2日間)」では、1日目前半に演習を通じて受講者の自己紹介を、2日目最後にはグループディスカッションを行います。初日の自己紹介では、受講者はお互いによそよそしくまだ十分に打ち解けていません。最後のグループディスカッションまでにメンバー間のコミュニケーションを図り、相互に理解をし、働きかけあい、共通の体験をする状況の枠組みを形成できる「場」を盛り上げることが必要です。いわば、講師は講義実施のプロジェクトマネージャとして「場」を表出させる役割を担うことになります。
下図は2007年度 関西P2M実践事例研究会の「“プロジェクトX”に学ぶ」分科会の中で「仮説の設定と検証」として示された「場」を表出させて、チームを活性化させることができることを示した図です。チームを講師・受講者を含めた研修を遂行している仲間と捉え、「場」(研修の場)に対する意識を高めます。


そのきっかけとして、講義の中で、「眠くなったらα波を出せ!」と題し、α波を出している状態の効能を説明した後、「隠し絵」を休憩時間の前後で受講者に見せ、「アッ そうか!」と脳を活性化させる機会を設けています。見方によっては、絵の中に隠されている人物が見えたり見えなかったりする絵や、若い娘さんに見えたり、老婆に見えたりする絵など不思議な絵です。これが見える人見えない人との間で話が弾みます。
ガイドブック P.562に記載されているように、「人々には「連帯欲望」と言う他人との何らかのつながりを持ちたい欲望がある。場という空間を通じて情報が相互作用する中で、他者との共通部分が発見されると、共振と言う作用が働き、場のエネルギーが高まる。」と、言うことを講義の中で実感することができました。また、同時に、昼から眠くなりがちな受講者には、α波を出すことにより、集中力のアップ、創造力の発揮、記憶力の増大といった効果も期待できました。アンケートでの良かった点、工夫があった点では、「隠し絵」のことが中心で、講義の中身のことを記述してくれないのが良いのか悪いのか分かりませんが・・・・

4.最後に
 講師の機会を与えて頂けることに感謝するとともに、今後ともP2Mを活用し、より良い講義ができるよう努めて行きたいと思います。
ページトップに戻る