図書紹介
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―― グーグル、ユーチューブ、SNSの先に何があるのか? ――
神々の「Web 3.0」

(小林雅一著、光文社発行、2008年08月30日、第1刷、377ページ、952+税)

金子 雄二 ((有)フローラワールド):12月号

ここでWeb2.0に関する本を最初に紹介したのが「ウェブ進化論」(梅田望夫著、2006年6月号)である。Webそのものが世間で話題になったのは、インターネットが使われ始めた1995年頃からであろうか。先の梅田氏の説によるとWeb2.0は2005年頃から始まったという。厳密には、その数年前からアマゾン(Amazon.com)の検索API(Application Programming Interface)が公開されてから急速に発達して今日に至っている。従って、それ以前はWeb1.0で、インターネットからの情報収集が主であった。そのWebが、Web2.0に進化して「情報革命」が起きていると指摘したのが「これから何が起こるのか」(田坂広志著、2007年2月号)である。田坂氏は、その本の中でWeb3.0を一部予測しているが、Web2.0に特化して社会変革の具体的事象をまとめている。現在でもWeb2.0の渦中にあると思うが、時代は急速に進歩している。そこで今回の本の紹介となる。この本で著者は、Web3.0の時代が到来したとはいっていない。題名に「神々のWeb3.0」としたことがそれを証明している。副題にある「グーグル、ユーチューブ、SNSの先に何があるのか」とあるように、現在のWeb2.0の先を予見している。この「神々」とは、現在普通の人であるが、その技術力が図抜けていれば「ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブス、更にラリー・ペイジ(グーグル)、チャド・ハーリー(ユーチューブ)」のように、いつか『神』になる可能性があると書いている。

ここで著者を少し紹介したい。実はこの本を読むまで著者を知らなかった。読んでみて先の梅田氏同様に、Web進化に精通したジャーナリストであることが分かった。巻末の著者紹介では、1963年生れでKDDI総研・リサーチフェローと書いてある。大手情報通信会社の研究所に入社後、日経BP社の記者となり、ボストン大学でマスコミ論を専攻した。その後、読売アメリカのハイテク、メディアの記者となり現在に至っている。今回の本以外の著書に「スーパースターがメディアから消える日」「欧米メディア・知日派の日本論」等がある。
そこで著者は、この本で『ティム・オライリー氏と読み解く「仮想世界」』(日米総力取材)と言っている。実は、2006年にオライリー氏とインタビューしたことがこの本を書くキッカケとなったことを紹介し、そのインタビュー内容が巻末に掲載されている。このオライリー氏は、Web2.0の提唱者の一人として有名である。氏は、コンピュータ関連の出版や会議企画等をするオライリー・メディア社の創業社長である。そういえば、今年7月号で紹介した「ウェブ時代の5つの定理」(梅田望夫著)に、氏のことが書かれてあったことを想い出した。そこで「イノベーターの知識を広げることで世界を変える」と紹介されている。このWeb2.0の提唱者と日本の著者が、これからのWeb動向を書いたものが今回の本である。

Webの進化   ―― WebからWeb2.0への進化の意味 ――
ここで改めてWeb2.0について定義を確認してみたい。先のティム・オライリー氏は、「全ての関係するディバイスに広がるプラットホームとしてのネットワークであり、Web2.0アプリケーションを最大限に活用するもの」と自らのブログに書いている。これではあまりにも抽象的でチョット分かりづらい。具体的な例として梅田氏は「ネット上の不特定多数の人々(企業)を、受動的なサービス享受者ではなく能動的な表現者と認めて積極的に巻き込んでいくための技術やサービス開発体制である」(「ウェブ進化論」)といっている。このことがどうして「情報革命」に繋がるのかについては、先の田坂氏の著書等を紐解いて頂くと分かる。それが更に、Web3.0へと進化する可能性があると、この本では指摘している。ここでそのポイントをもう一度整理してみよう。Web2.0以前のインターネットでの情報の流れは、ユーザーである利用者が検索サイト(データべースを保持している企業、団体等)やポータルサイト(ヤフー、アマゾン、ショッピングサイト)と相互接続するものであった。eメールの交信程度のレベルである。それが先のWeb2.0の定義でもある通り、不特定多数の利用者が能動的にネットを活用出来るような状態(環境)となったというのである。筆者の最近の書籍購入を例にweb2.0をフォローしてみよう。Webマガジンやアマゾンで求める本を検索する。そして購入手続きをして本を受け取る。ここまでは従来と変わらないインターネットショッピングである。所が、これからがweb2.0の新たな予想もしない方向に事態が進展した。それはWeb上の仲間で本の出版までしてしまったのである。

ことの経緯は、書籍購入後自分のブログ(ウェブ・ログの略称でWeb2.0の情報発信例) に図書紹介を掲載した。それを見た友人が相互に情報交換をして、お互いの図書紹介を始めた。1ヵ月後にその仲間が50名以上に膨れ上がった。その内の一人(Webookの主宰者の松山真之助氏)が、それぞれ友人を集めて一人1冊の図書紹介の本を発行しようという話に発展した。お互いに顔も知らない者同士がWeb上だけの繋がりで出版をする話にまとまった。具体的には、一人1冊400字の図書紹介、出資金1万円(10冊の本が配当)で100名集める。代表は松山氏と決まり、後はボランティアで編集、配送(印刷は出版社に依頼)等を担当した。そして2006年2月に「100人100冊100%(この本、わたしのイチ押し!)」(100冊倶楽部mosoプロジェクト著)が完成した。現在その記念の本が、手元に1冊ある。これはまさにWeb2.0の実践版であると、著名なコンサルタントがある講演会で話されていた。Web上のコミュニティが実社会と全く同じ機能を果たし、情報交換、お金の決済(eバンクを活用)をして、自分の書いた原稿が本となり自宅に配送されたのである。これがWeb2.0進化の実際事例(Web上の仮想空間が実社会に反映される)ではないかと痛感した。

今回紹介の本では、この進化が筆者の経験した仮想空間(Web上の繋がり)から現実の社会に戻っていく方向(著者は、Real方向への分岐する)と、もう一方では、より仮想空間化した「ソーシャルグラフ」(インターネット上のSNS:Social Network Serviceで繋がった仮想空間における人間関係)が、「メタバース」(インターネット上の三次元空間)に進化する可能性を書いている。ここで「ソーシャルグラフ」とか「メタバース」とか聞きなれないカタカナがどんどん出てくる。雑誌等で少しは目にした記憶があるが、SNS以外は馴染みがない。SNSはブログでお世話になっているので多少身近に感じるが程度である。このSNSは、アメリカのFacebook(フェイスブック)、日本のmixi(ミクシィ)に代表され、3、4年前から注目されていた。これらがWeb2.0以降のインターネット産業として進化していくことを書いている。副題にもある「グーグル、ユーチューブ、SNSの次にくるもの」がまだ色々あり、その具体的な事象を紹介しているので、Web3.0の前兆を追っかけて見た。

セマンティック・ウェブ    ―― 「グーグル」の次に来るもの ――
グーグルについては、先の「ウェブ進化論」で紹介した。そのグーグルは、現在といっても数年前から「グーグルマップ」(地名とキーワードを組み合わせて、地域の店舗やサービスの検索が可能である。自分の住所を入れると、その地図が表示される)や「グーグルアース」(地球上のあらゆる場所を、衛星画像から地図や建物を3Dで表示する)で話題を呼んでいる。最近ではこの「グーグルアース」を活用する予定なのか、アメリカの次世代電力網の業界団体「DRSG」(Demand Response and Smart Grid)に参加したとのニュースを発表した。それによると、グーグルはこの団体で「気候変動対策、経済開発、災害対策などの分野で貢献したい」とのコメントを出している。その他に「ユーチューブの買収」(2006年10月)やNTTドコモとの業務提携(2008年1月)と何かと話題性の高い企業である。そこでこの「グーグル」(インターネット上の検索エンジンのシェア60%以上で、ヤフーは13%:2007年ComScore調べ)の次に来るものとして注目を集めているのが、「セマンティック・ウェブ」機能に対応したものであると著者は紹介している。次世代検索エンジンは「セマンティック・ウェブ」機能が求められると。然らばどんな機能であろうか。

セマンテック(Semantic)とは「意味・内容」であり、Web上のコンテンツやデータの「意味」データを情報として検索可能にすることだという。具体的事例として、「人間の複雑で曖昧な要求から真意をくみとって必要な情報や、サービスを提供してくれる」検索システムである。このシステムの本質は、データ検索ではなくAI(Artificial Intelligence、人工頭脳)システムそのものである。それもインターネット上で多くの文化や考え方が異なる人々が、検索してそれに答えられるシステムが出来るのであろうか。文化や考え方は、母国語を入力することで翻訳システムと連動させ、そこからデータ検索に繋げる膨大なシステムになることが想定される。その可能性を実現すべく、コンテンツやデータの「意味」情報を「メタデータ」として予め付加しておく方法として、RDF(Resource Descripition Framework)という標準化が現在出来ている。そしてアメリカのWWWC(World Wide Web Consortium)では、それを目指しているという。更に、この日本でもセマンティック・サービスを開始した「スパイシー(SPYSEE )」という会社のことが紹介されている。早速、そのホームページを覗いてみた。そこには「セマンティック・ウェブ技術を使い、ウェブ上から人と人の関係を見つけ出して見える形にする」とあり、東京マラソンで優勝した「尾崎好美選手」と、陸上競技選手のリンクが顔写真入りで紹介されていた。現時点では、試験運用で人的なリンク(登録人数20万人強)だけなので、単純に他の検索エンジン(グーグル等)と比較・評価できる状況にはない。今後どう進化するのか、暫く注目してみたい。

アンドロイド    ―― 携帯電話(モバイル・オープン化)の今後 ――
Web2.0の中でグーグルと同じく注目されているサイトに「ユーチューブ」がある。少しこの件に触れておきたい。ご存知の方の多いと思うが、アメリカの会社(2005年設立)でインターネット上の動画共用サービスをしている。無料で動画をアップロードでき、無料で誰でもその動画を見ることが可能である。現在、8000万以上もの動画があり、当初素人のビデオが主であったが、現在では映画やTV会社もプロモーション映像等をアップロードしている。インターネット上のWeb2.0は、音声・文字・画像情報だけでなく「動画データ」も世界中を駆け巡っている。更にこのユーチューブ社は、2006年10月にグーグル社によって買収されてしまった。ここにグーグル社は、Web2.0の代表的なシステムを手中に収めるに至ったのである。Web時代は、マイクロソフト社のウインドウズ。Web2.0はグーグル社の検索エンジンの独壇場となるのか。こうした背景でのWeb3.0の新技術の模索である。

Web2.0でのインターネット機能で、データ検索以上に使われている電子メールは、PCと携帯電話がある。特に日本では、携帯電話の普及率は1億台を超えており、ワンセグ(地上デジタルの移動体向けTV放映)放送が実施されテレビも見ることが可能となった。携帯電話は、電話だけではなく移動体端末としての機能を十分備えるに至っている。更に、アメリカも日本も、地上デジタル放送の開始によって、現在使用中のアナログ放送用の電波(700MHZ)が開放される。それを携帯用に取り込もうと携帯電話会社のみならず、インターネット業界がいろいろと画策している。その一つがグーグル社の「アンドロイド」機能である。これは携帯電話用のOSソフトで、ミドルウェア、ユーザーインターフェース、Webブラウザ、電話帳などの標準的なアプリケーション・ソフトウェアを全て包含したものだそうだ。それを無償で提供するとしている。マイクロソフト社のWindow Mobileに近い製品といわれている。この本では、他に多くのWeb3.0の技術となる可能性のあるものを紹介している。しかし、その原点を探っていくとグーグルを超えることをターゲットにしているように素人目には見える。そんな単純なものではないが、著者はオライリー氏の言葉から「次に来る大きなパラダイム転換は、今あるWebを超えるはずだ」と、それがWeb3.0であり、「人間関係の解析」まで踏み込むことで更なる飛躍があると結んでいる。(以上)
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