PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(8)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :11月号

エンタテイメント論

第1部 エンタテイメント論の概要
6 日本と海外の観光事業

●日本の観光事業の競争力獲得は可能か
>日本の伝統的観光事業の経営者や各種の遊園地などの経営者は、世界に旅する日本人観光客や日本のディズニーランドやユニバーサル・スタジオなどの大型テーマパークに遊ぶ日本の家族達を、何とか自分たちの観光地に引き寄せたいと強く望んでいる。
>筆者は、これまで様々な分野での相談を数多く受けた。それらの中で最も多い相談は、地方の伝統的観光事業とシャター通りのそれぞれの活性化であった。
>それらの相談に筆者が応え、協力している内に、相談の背後に在る「共通性する問題」に気付いた。今回は、そのことを中心にエンタテイメント論を展開したい。

1)本質的な問題の把握が不十分
>その共通する問題の一つは、本質的な問題を把握するために徹底した議論が行われていないことである。言い替えれば、本質的な問題の把握が不十分ということである。
>どこの自治体も、どこの商店街組合も、何が問題かを様々な観点から議論し、問題点を指摘している。しかし議論された様々な問題を因果関係や相関関係の観点から分析評価し、最終的に最も重要な問題を帰納したケースが極めて少ない。平たく言えば、問題点を羅列しただけに終わっている。
>もし「KJ法のA型図解」の様な「実用的な帰納法」を使えば、羅列された問題から本質的な問題を導き出すことはさほど難しいことではない。
>更に大きい共通する問題は、地元住民の声(声なき声も含め)を代表するとの名目で地元有力者、NPO代表、地元企画会社、地元評論家、地元メディア人など集まって議論する点である。彼らは、その町の有力者達である。しかしアマチャーの様な「ベキ論」ばかりを主張する。その結果、集約されたというか、羅列された問題点が綺麗に報告書に纏められる。そして自治体の首長に報告される。
>またサイレント・マジョリティーの市民の意見吸い上げも一応行われている。しかしそれも適当な質問状を作って地元企画会社に意見集約を行わせ、クリップで纏めて自治体が発表して終わり。本当は、市民が沈黙せず、堂々と発言すべきなのだが、それらの発言は、言いっぱなし、義務を伴わない権利主張ばかり。そして「○○が悪い。△△に問題がある」と批判ばかりで終始している。
>本質的な問題を把握する作業は、アマチャー集団で出来ることではない。その道の専門家を起用すべきである。しかし専門家というと直ぐ○○大学教授、△△経営研究所・主任研究員などが登場する。そして都市開発分野や建築分野の教授や研究員が登場者の主流を占める。しかも彼らは国や地方自治体の首長や官僚に日頃食い込んでいるので、人選に問題なく選ばれる。
問題の本質把握はプロ集団で実施すること
問題の本質把握はプロ集団で実施すること

>おまけに建設会社、ディベロッパー、建築事務所、企画エージェントなど民間企業が日本の観光事業、都市再開発、町作りなどに深く関わっており、上記の専門家達が国や自治体や大学の威光を借りて、それらの民間企業と濃密な関係を維持している。
>この様な構図の中では、地方の観光事業、都市再開発などの問題に本気と本音で肉薄し、追及する人物が出現すると期待するのは無理かもしれない。

2)問題解決の内容が不十分
>本質的な問題点が判明したら、それらを如何に解決するかが次の仮題である。
>全国の数多くの人々は、自らの問題を解決すべく、真剣に、何度も、相当の費用と時間を掛けて検討している。しかし産み出された「解決策」は、多くの場合、抽象論が多い。具体的な解決策と思えて、その内容はとても実現しそうもない事が多い。そうならば抽象論と同質のものである。また膨大な時間と労力と金さえかければ実現しない場合は、やはり抽象論と同質のものである。
>更に問題となることは、役所、地元経済界、地元各種団体などが問題点を整理して解決策を提案すると、その役割が終わったと自己納得することである。そして提案された地元観光事業やシャッター通りの関係者が「自己責任」で問題を解決しなさいと暗黙の前提で考えていることである。
>彼らは具体的な解決策を提案したら、その解決策を達成する「プロジェクト」を立ち上げ、「プロジェクト・チーム」を編成すべきである。これを実践しない限り、何も解決しない。また何も新しいモノは生まれない。また具体的な問題解決策を提案させるだけのために、多くの地方自治体は、「観光事業振興予算」や「シャッター通り解決予算」としてかなりの金額の調査・検討予算を使っている。しかしプロジェクト遂行のための予算までは用意していない場合が多い。
>国も、地方自治体も、観光振興、都市再開発、町作りなどのために「○○観光事業促進機構」、「△△事業創造機構」、「□□産学協同機関」などの様々な組織体を作っている。
>これらの組織体の活動実態を調べて見るとやはり共通する問題がある。それは、観光振興イベントの開催、観光PRの促進、観光フォーラムの実施、事業化育成教育、事業創造講座の開催、地元企業の商品展示会、地元産品の展示会などに膨大な費用、多くの人材、多くの時間を掛けて実行していることである。しかし実際に問題を解決するための「プロジェクト」を立ち上げていない場合が殆どである。
>勿論、某自治体や某都市再開発組織などで問題解決のためにプロジェクト・チームを編成し、検討を行っているケースもある。しかしそのケースでは、プロジェクト・リーダー(統括者)の人材不足、人選のミス、プロジェクト・リーダーとプロジェクト・フォロワーの役割分担の不明確、プロジェクト推進方法の未熟、メンバーの内紛などプロジェクト推進上の問題に悩まされている。
プロジェクト・チームの内紛は命とり
プロジェクト・チームの内紛は命とり

>以上の問題把握と問題解決の両面で共通して欠落している重要なことがある。それは、「遊び核とするエンタテイメント」である。エンタテイメントへの意識の欠落は、伝統的観光事業者やシャッター通りの商店主がエンタテイメントを導入して集客し、問題を解決しようという動きを封じ込めてしまっている。
>遊びを核とするエンタテイメントが無い都市、観光地、町などつまらない。活気も出ない。1年で1回や2回のイベントで活性化には絶対にならない。イベント屋とイベント会場の内装屋が儲けるだけ。その事に気づかず、「文化」、「芸術」の導入ばかり主張する。以上の結果、日本全国の地方都市は、金太郎飴の様な様相を呈している。また観光地も「○○銀座」、「△△平和通り」などどこも同じの様相を呈している。

●日本の伝統的観光事業の将来
>紙面の関係から、これ以上の記述を控えるが、要するに「問題だ、問題だ」と叫び、「問題を解決策はこれだ」と結論付けることで多くの人々は終始している。具体的なプロジェクトを立ち上げておらず、立ち上げても、中途半端な結論を実行することで終わっている。
>観光にとって最も重要な「遊びを核とするエンタテイメント」は、関係者の意識の中に存在しない。日本の伝統的観光事業は、今のままでは、世界的な競争力を獲得し、往時の賑わいを取り戻すことは極めて難しいだろう。
>伝統的観光事業者は、広告代理店が上手な絵を描いて観光PRの必要性を説いた内容にコロリと騙されている。そして何度も何度も大がかりな観光PRをする。高額な金と多くの手間を掛けた観光イベントも実施している。しかし実施した時だけは人が集まるが、終われば、「宴の後」の様に、元の黙阿弥となる。
>地方の事業者は、御用商人の様な学者や批評家が具にもならない地方活性化案をありがたがる。そしてその通りに実践する。一方国や自治体が良かれと進める地方観光振興策もその補助金目当てで「悪ル乗リ」業者が暗躍する。いつまでこんな小手先の観光事業振興策やシャッター通り解決策を続ける積もりだろうか。
>先ず伝統的観光事業の関係者やシャッター通りの関係者が自らの意識を根本的に変えることから様々な秘策を実行すべきである。筆者がこの様な指摘をするまでもなく、既に数多くの地方の観光地や商店街は、青息吐息の状態になっている。そして今後の日本の景気動向とは関係なく、益々厳しい状態になり、今のままでは、落ちるところまで落ちるだろう。

7 岐阜駅前と柳ケ瀬
●地方都市の窮状
>地方都市の中心市街地の衰退現象、特に「シャッター通り」の増加は、地元商業関係者のみならず、地元生活者にとって目を覆いたくなる様な現象である。伝統的観光事業は、上記の通り、落ちるところまで落ちるだろうと厳しい指摘をした。
>筆者自身、衰退する地方都市の中心市街地の再活性化、地元観光事業の復活に、ほぼ10数年間にわたって取り組んだ。その悪戦苦闘の末とその実態の一部を紹介し、如何に厳しい状況を説明したい。

●柳ヶ瀬ブルース
>昭和41年(1966年)に美川憲一氏が大ヒットさせた「柳ヶ瀬ブルース」は、岐阜市柳ヶ瀬(やながせ)商店街を唄ったものである。岐阜の柳ヶ瀬は、岐阜県随一の繁華街にあり、岐阜市の中心市街地にある。
>若い読者のため柳ヶ瀬(やながせ)と「ふりがな」を付け、「柳ヶ瀬ブルース」の歌詞と岐阜・柳ヶ瀬商店街の今も英雄である美川憲一氏のレコード・ジャケットを掲載した。本オンライン・ジャーナルの発行趣旨からこの掲載が著作権違反や肖像権違反にならないと考えている。しかし曲は、レコード会社専属曲とのことでその掲載をやめた。
>この「柳ヶ瀬ブルース」をご存じの方は、是非、この際、口ずさんで頂きたい。そしてチョッピリ、岐阜のことに思いをはせて頂ければ有り難い。何故なら筆者は、以前、岐阜県理事として柳ヶ瀬商店街の活性化に参画していたからである。
>柳ヶ瀬商店街の実態と筆者がその活性化にために取り組んだ内容などを次回に紹介したい。

若々しい美川憲一氏

                                           若々しい美川憲一氏
(つづく)

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