図書紹介
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奇跡のリンゴ  ―― 「絶対不可能」を覆した農家 木村秋則の記録 ――
(石川拓治著、幻冬社発行、2008年08月01日、第2刷、207ページ、1,300円+税)

デニマルさん:11月号

この本は副題にもある「絶対不可能を覆した農家の記録」である。というより、一人のリンゴ農家の壮絶なヒューマンドキュメントである。ここで紹介された木村秋則氏は、「奇跡のリンゴ」に一人でチャレンジして、その不可能を可能にした信念の人である。この本は「奇跡のリンゴ」が生育するまでの過程をノンフィクションライターがリアルにまとめている。この話は、NHKの人気番組「プロフェッショナル、仕事の流儀」で2006年12月に放映された。筆者もその番組を見たが、木村氏は津軽弁の独特なイントネーションと笑うと欠けた歯が優しい顔の農家のオジサンという印象だった。所が、話の中味はとても普通の人が成し遂げたこととは思われない迫力を感じた。どうしてこんな凄いことが出来たのか、その成し遂げたことの偉大さに圧倒された。正に「奇跡のリンゴ」を実感した番組だった。

奇跡のリンゴ(その1)   ―― リンゴの話 ――
現在のリンゴは、野生のものとは全く異なる品種であることをこの本を読んで知った。リンゴと言えば、アダムとイブの時代から、ニュートンの万有引力の法則を経て、アップルコンピュータ(?)までの歴史がある。普段我々が食べているリンゴは、品種改良の連続で大きさや味が人間によって改変されてしまった。その結果、農薬の種類や時期が新聞紙大にビッシリ記載された防除暦の指示通りに農薬散布しないと、病気や害虫に侵されてしまう。リンゴの木独自の抵抗力はなく、農薬無しでは成育できない植物となってしまった。

奇跡のリンゴ(その2)  ―― カマドケシ ――
木村氏は、次男なので集団就職でエンジニアとなったが、結婚して地元青森に戻りリンゴ農家となった。当時は、他の農家同様に農薬を使う普通のリンゴ栽培をしていたが、偶然手にした「自然農法」(福岡正信著)の本から、全く農薬を使わない栽培の挑戦が始まった。その間8年、殆んど収入のない極貧状態。近所では、津軽弁で破産者を意味する「カマドケシ」と呼ばれ、村八分状態であった。所が、偶然に山の樹木から自然栽培法を開眼する。

奇跡のリンゴ(その3)  ―― 絶対不可能を覆す ――
植物は元々農薬等を必要としないもので、自然に成育している。ならリンゴも自然成育が可能であると木村氏は閃いた。それから更に数年、思考錯誤の末に世界にも例がないリンゴの無農薬栽培に成功した。と書くと簡単であるが、更に商品としてリンゴの栽培方法には多くの時間を費やしている。この奇跡のリンゴは、他と比較できない程の美味しさと、自然の生命力があるという。機会があったら一度は食してみたい魅力あるリンゴである。

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