PMプロの知恵コーナー
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プロマネの表業、裏業 (7) 「主役で脇役」

芝 安曇:10月号

芝 安曇がつくりだしたプロジェクトマネジャー自在氏は知恵者である。日本では知恵のないプロマネは長続きしない。欧米のプロマネは日本のプロマネより楽な環境で仕事をしている。欧米のリーダーシップ論を読めばわかる。強い意思と、合理性、行動力で80点以上の成績を上げることができる。日本で紹介されているリーダーシップの本の内容はこの通りである。カタカナ書き本はほぼ欧米の文献を参照してつくられているから、同じにならざるをえない。ではこのリーダーシップ論が日本でそのまま使えるかというとそうではない。極端に言うと欧米流のリーダーシップは基本(必要条件)であるが、日本社会では十分条件ではない。

日本の社会はゆがんでいる。正論が通らない社会である。和を尊ぶ社会である。基本的に和は大切であるが、組織に和の習慣が蔓延すると、和が正論を凌駕する。最近の社会的不祥事は組織の和が優先し、誰も不正に反対できない事象である。上司が間違っていても反論できない。顧客が無理難を言っても逆らえない。更に困ったことに、この和の社会では、表面的な和と潜在的な嫉妬が内在する。日本で活躍するプロジェクトマネジャーは実のところ薄氷を踏んで仕事をしている。成果を上げすぎると嫉妬され、何か失敗すると、この機会にと、後ろから矢を射掛けられるからである。

そこで日本社会における自在氏流プロマネの心得を提供する
  1. プロマネは正しくはリーダーでなければならない。しかし欧米流のリーダーであってはならない。
  2. 日本人は会田流リーダーシップの採用しなけらばならない
    注:会田雄二京都大学教授は日本式リーダーシップ論で、リーダーは損をしなければならないといっている。これは出る杭は打たれる習慣からの防衛策である。その方法は色々とある。
    @ 身銭を切る(これは喜ばれる。評価が高くなる)
    A 人の2倍働く(働くの見える化残業である。手当てがつかないから、損をいとわず働いていると評価される)
    B 人の嫌う仕事を引き受ける(トラブル処理、顧客への謝罪等、嫌な仕事をすることで評価される)
自在氏は身銭を切るほど金に余裕がないから@は採用しなかった。
自在氏流は「Time is more than money.」である。金より時間が惜しいからAを嫌った。
しかし、マネジャーがさっさと帰るわけにいかない。残業時間帯は新しい企画、読書である。
実行したのはBである。トラブル処理と客先への謝罪である。腹を決めるとトラブル処理も顧客への謝罪も自己のレベルアップに大きく貢献する。Bの効用の第一が顧客に信頼されること。第二が部下でも上司でもこの嫌な仕事が好きではないらしく、折角のチャンスを多くの人は譲ってくれる。それも、申し訳ありません、私はこんなにやるべき仕事が多いので、恩に着ますから是非自在氏さんにやっていただきたいと逆に推薦してくれる。これで自在氏は人々に多くの「貸し」をつくっておくことができる。

 お分かりのようにプロマネはここで確固たるリーダーシップがとれる。これが表業である。では裏技は何か。皆さん考えてください。自在氏は残業が好きでないから、部下ができるやさしい仕事は権限委譲と称して譲って歩く。難しい仕事を譲られたお礼である。ここまでは裏も表もない。裏業とは何か。お分かりかな。部下の業績をほめて歩くことである。プロジェクト成功の主役は部下よと言いふらすのである。チームは活力が増し、プロジェクトは成功に向かってまい進する。

 プロジェクト遂行もツールドフランスと同じである。プロマネが常に先頭を切って働いていたのでは体が持たない。権限委譲とは責任の委譲でもあることを強調しつつ、困ったときは何でも相談しなさいと念を押す。そこでプロジェクトのスタッフはプロジェクトで発生する多くのトラブルを処理してくれる。でも本当に困ったときの保険を与えているから、安心して仕事をしている。この状況ではプロマネが責任先頭を果たすときは1回程度である。プロマネはゴール間際で先頭責任を果たせば万々歳である。

 プロマネはかくのごとく人に喜ばれて、最後に勝ち取る人種である。あなたはできているかな。
以上
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