PMプロの知恵コーナー
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プロマネの表業、裏業 (6) 「プロマネに大事なのはコンテキスト」

芝 安曇:9月号

コンテキストという言葉は日本語になりにくい。日本語では文脈と訳している。日本語も一つの単語で多くに意味を持っている。私たちが文章を読むと無意識に読んで、勝手にその単語を理解している。それは著者の意図が理解しているからで、単語の意味を文の流れとして捉えることができる。
プロジェクトも同様で、顧客の業務の背景(コンテキスト)を知ったプロマネはいい仕事をする。顧客に評価されるプロマネは少ない言葉で顧客の意図を掴み的確な回答をする。この場合のコンテキスト(ここではプロジェクトコンテキストと命名する)は顧客の業務の理解と、そこから発生する顧客の意図するプロジェクトは何かという内容がそのもののである。

ここで、プロジェクトチーム内のコンテキストは何か考えてみる。マトリックス型で業務を遂行する組織では、マトリックスに関係する人々の役割と必要とする情報に関する理解が、プロジェクトスタッフの中にないと、必要な情報の流れが阻害されてプロジェクトをスムーズな業務遂行ができない。プロジェクトを取り巻く背景情報(コンテキスト)には社外(含む顧客)に関係する社外コンテキストと社内の業務遂行に関する社内コンテキストがある。

プロジェクト関係者の中では役割によってプロジェクトコンテキストを理解する程度に落差がある。プロマネが最も詳しく、次がプロジェクトスタッフである。次が専門技術者である。最後が協力会社スタッフとなる。ここまで詳しく書くと賢明な読者はすぐ理解すると思うが、プロジェクトチームの役割の一つにプロジェクトコンテキストを必要な部署に必要な部分だけ、伝達することでプロジェクトは「正しい仕事」をすることができる。チーム内のコミュニケーションが重要だといいながらコミュニケーションがうまく出来ないのは、何をコミュニケーションするかについてのコンセンサスが出来ていないからである。

話を変えてプロマネとしての接待とは何かを考える。顧客も酒が飲みたくて接待を受けるわけではない。接待とは顧客と業者のビジネス関係における距離間(一般にビジネスの距離間は1メートルといわれている。それ以上近づくと拒絶される。男女の仲は30センチ以内に入らないと成功できないといわれている)の短縮作業である。このお客さんはどの範囲まで、接近を許してくれるかの距離を測っているともいえる。上司とて同じである。どの程度までなれなれしくできるかという境界線を見極めることが関係性構築で最も大事である。これは裏技の部類である。

母校が同じということで仲良くしてくれた顧客がいた。肝の据わった人で、後輩として面倒を見てくれた。この顧客は名門の出で学生時代からゴルフをしていたから、ゴルフはうまかったが、ある日オールインワンをした。驚いたことに初めてだという。記念品をいただいた。

あるとき私がプロマネの現場で火事を起こしてしまった。これは大変なことで客先の社長の首が飛ぶかもしれないと客先は大騒ぎである。責任者の私は札幌でその情報を聞き真夜中に現場に駆けつけ、現場の所長からこっぴどく絞られた。責任者は責任を取るための存在である。腹を決めた。人間に生まれたときは裸だと。問題は朝7時のテレビで報道されるか気になった。テレビにかじりついていたが、テレビの画面はスペースシャトル「チャレンジャー号」打ち上げ失敗で爆発したニュースが目に入った。これでローカルのぼやは放映されなかった。幸いなことにマスコミの対象にならず、命拾いをした。

後処理である。顧客の本社対応はプロマネの私、現場対応はベテランの建設所長経験者に豊富な軍資金をつけて任せた。本社の窓口はホールインワン氏である。お陰さまで面倒を見て貰った。10年後私がオールインワンをしたとき、ビジネスの関係はなくなっていたが、記念品を持って回顧録にふけった。ゴルフを裏わざとしたお陰で、当時の関係者は数年後には役員や副社長にまで出世されていたり、学者先生ではその分野のトップで新聞やテレビ上でお目にかかる。

表業は何か。プロマネは顧客のコンテキストを知ることで卒のない仕事ができる。部下に正しい情報を与えることができる。緊急時には消火活動に入る「助っ人」に、業務に必要な情報を与え、即戦力として活躍してもらうことができる。

プロマネの重要な仕事は技術の仕事ではなく、情報の出し入れが重要で、その判断にもコンテキストが不可欠である。これがプロマネの幅である。無駄な幅が面白い人間をつくり上げる。この幅がないと顧客も付き合ってくれない。酒を飲んでも話しが面白くないと続かないし。客の努力をほめることもできない。彼らの嘆きを黙って理解してあげることも重要な任務である。
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