「日本を再生する人材活用のPM」 (5)
−ユーザー・イノベーションの展開−
オンライン編集長 渡辺 貢成:10月号
年々日本の世界的な評価が下がっています。この統計的数値を捉えて、多くの評論家は日本の先行き不安を訴える人が増えています。日本の多くの評論家は日本の悪いところを指摘し、米国と比較してここは駄目だといっています。一方日本はこれからよくなるよと、日本のよさについて論拠を挙げて解説する評論家たちもいます。どちらもなるほど、なるほどです。私たちはたいへん勉強家です。ですが、周囲を見回すと多くの人々は、勉強はするが、行動は習慣通りのことしか興味がなく、ただ先送りしている気がします。そこで首記のテーマを続けてみました。長くなりましたので、4月号からの流れをまとめ、修了することにしました。
4月号では日本のよさを再発見しようよと提案しました。
5月号では資格者をもっと活かすことを社会や企業に考えて欲しいと訴えました。幸いなことに、ポストドクターを就職させる目的でつくられた文部科学省企画の技術経営(MOT)講座の選考を通った東北大学の高度技術経営塾でPMを教える羽目になり、PM以外の他のカリキュラムとの組み合わせで、この塾は成果を出すことができました。資格者が社会で活躍するには、企業文化の改善が必要なことはもちろんですが、同時に資格者は社会や会社が求めているものに対する感度を高め、それに対応させることが必要だと思います。言い換えると双方で頭の切り替えが必要だということでした。
6月号では人材を活用するには社会や企業は何をするべきかを考えて見ました。製造業における米国社会と日本社会の相違を比較して見ました。米国はテーラーによる科学的管理法が20世紀全般にわたって主流を占めました。簡単に言うと頭を使うトップと頭を使わない労働者で成立していました。そのお陰で大量生産方式が米国で発達し、国力が著しく飛躍しました。ところが20世紀の後半は日本が躍進した時代でした。この時代は日本の現場力が高く評価され、日本式の改善方式やカンバン方式が米国ビジネススクールで高く評価をされました。
7月号では日本流の現場力を解説しました。日本の現場力はトヨタ方式が評価されていますが、強化した張本人はデミング博士です。デミングの思想の中心に2つの概念があります。「システム」と「コラボレーション」です。デミングの言う「システム」とは、仕事は様々な部分からなり、その全体はシステムによって繋がっている。現場の人が自分の仕事にしか興味がなく、また周囲がしていることに関心がないと全体として成果が上がらない。自分と繋がっているのは誰か、自分の仕事で影響を受けるのは誰かを知り、全体を俯瞰する目がないと良い製品はできない。全体を知って「コラボレーション」することで全体の中の相互のつながりができ、知恵を出し合って、問題を解決していくというのがデミングの思想で、この思想と日本人の習性・気質が結び付けられた成果といえます。言葉をかえると、デミング博士の思想は米国で行っても、日本で行ったほど成果を出せなかったとも言えます。ここに日本の現場力の特徴があります。
8月号では従来からの人材育成と違うことをする必要を説きました。ボトムアップの時代を卒業すると、組織は個人の育成をしても、組織能力が向上しないという事実があります。シリコンバレー発の発想で組織IQという提案です。どんなに有能な人材を集めても、組織が市場の変化に連動して成長しなければ成果は出せないという発想です。連動して変化できるには組織のIQレベルの高さが問われ、企業のIQレベルを調べる指標があることを伝えました。
9月号では現場力とは何かを眺めてみました。よく日本の現場力が衰えている声を聞ききます。実は理由は簡単であると図で示しました。現場力と経営力は相互作用を持っています。経営力が強くないと、現場力を発揮できません。逆に現場力がないと、経営者が頑張っても成果を上げることはできません。ここでは熱力学の第二法則が適用でき、経営者からの熱き理念、戦略、使命がないと、現場力はエントロピーが増大する方向に動き、現場のエネルギーを価値創出に向けることができません。今の官庁組織は優秀な人材をそろえていますが、国家戦略もなければ、将来の発展を願う方向性を持ったミッションがありません。税収をハブ空港、コンテナ船専用ハブ港湾施設をつくる代わりに、不採算な地方空港、多くの漁港、大土地農業を阻害する政策。IMD(国際経済競争力ランキン)は日本の競争力低下は政府管掌のインフラの遅れが、要因として指摘しています。民間ではどうでしょうか? 経営者に活力がない。グローバル化の時代に目先志向です。現場に力が入らない実体はこのようなものです。
10月号課題は、「企業は何をするべきか」、「国民は何をすべきか」です。4月号から9月号までをベースに各位に考えていただくことでした。ここではヒントだけを提案します。
- イノベーションのジレンマ
イノベーションのジレンマという2001年初版、2008年5月で24版という売れ筋の本があります。大企業は自己を破壊するような、破壊的イにベーションはできない。破壊的イノベーションは新しい企業が新しい概念で行い、これが既存の会社を食って伸びるというものです。日本が後進国としてその道を歩んできました。そして今中国がその道を歩み、巨大化しています。
- 米国はベンチャー企業に期待している
ベンチャーは過去にとらわれず新しいことができる。そこで米国の大企業は成功したベンチャーの買収をします。日本ではベンチャーに100%の成功が要求します。この要求はベンチャー育成を阻害する要因となります。発想の転換が求められています。
- 後進性からの出発とユーザー・イノベーション(この項が重要)
大企業がイノベーションのジレンマに陥っているとしたら、日本の中の後進性を対象に、新しいビジネスを展開することができます。破壊的なイノベーションを採用しても、彼らは破壊されるものがありません。新しいことを実行するならば、日本の弱みを批判することしかできない評論家を排除して、日本のよさを発見できる人が中心になり、新しい展開を図るべきではないでしょうか。ここにユーザー・イノベーションという概念が出されています。
考えてみてください。日本人は素晴らしいものを持っています。世界一素晴らしい「舌」を持っています。フランスのシェフも舌を巻いています。これからは日本食が世界の流行になります。高級志向です。ファーストフードもおいしいという特徴があります。
亭主はかみさんがいなくとも、食うに困りません。今のデバ地下は最高に素晴らしく輸出可能です。日本の農業生産物は世界最高においしいという評価が出されています。農業はメーカーイノベーションで取り残されたのですが、ユーザー・イノベーションでは勝利者になっています。これを如何にビジネスにするかという展開です。
更に素晴らしいのは消費者のセンスのよさです。2,000年間で鍛えられたセンスです。日本では伝統のセンスを工芸品といって、芸術より下に見ています。この発想が誤りです。日本のエリートは国内エリートで、グローバルでは劣等感の持ち主です。「日本は駄目で、外国が素晴らしい」。この発想に問題がありました。日本の消費者からの発想が求められています。発想を切り替えればやることはたくさんあります。若手からの発信に期待したいですね。エリートが阻害しないことを希望します。
以上
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