「日本を再生する人材活用のPM」 (4)
オンライン編集長 渡辺 貢成:9月号
先月号で組織IQということに触れました。組織能力といえば日本企業は現場力を頭に描きます。高度成長期時代の現場力は世界一でした。今でも世界一と思われます。しかし、何故世界一なのか正しく解説されていません。
世界一の現場力はトヨタが証明しています。でも、トヨタの現場力で有名なのは「なぜ、なぜ5回で問題の本質を捉えよう」です。では皆さんが「なぜ、なぜ5回」をすると現場力が強化されるのでしょうか。現状の現場力が強い場合は強化されると思います。もともと現場力が弱い場合は「なぜ、なぜ5回」を実行しても多分強くならないと思います。そこで最近は現場力に関する本が出始めました。「現場力を見える化する」ことによって、現場の人たちが問題点を把握し、自律的に行動するようになるというものです。これも「なぜ、なぜ5回」と同じ論法です。私たちは現場力とは何で構成されるか考える必要があります。
原点に戻って考えて見ます。「組織とは人々が秩序ある仕組みの中で行動し成果を上げるために組まれたものである」と定義することができます。そこで次の図を見てください。
この図は現場と現場力いうタイトルの図です。この図で強調したいのは現場とは独立して強化されるものではなく、経営力と現場力の相乗効果でつよくなるというイメージ図です。
現場だけ強くしようとしても、成功しない。トヨタの強さは最初に強い経営の意思があって、現場に「なぜ、なぜ5回」を実行させ、意識改革と業務プロセス改革を実施している強さです。
これを頭に入れて、経験則を並べてみました。
第一法則: |
現場は経営トップからのエネルギー(ビジョン、ミッション、戦略)を吸収し、顧客の求めるニーズを認識し、活力を増殖しながら、顧客満足というプロダクトを創出する |
第二法則: |
現場は熱力学の第二法則が適用される。
(経営トップからのエネルギーが注入されると、自律的な活力ある現場力が発生し、注入されないとエントロピーが増大する方向へ推移する |
第三法則: |
現場力の原動力は集団、と個人のモティベーションである。 |
私が感じる現場力の弱体化とは、トップマネジメントの弱体化が第一ではないかということです。米国社会はトップマネジメント第一です。日本ではトップマネジメントの弱さを現場力でカバーしようと多くのミドルは大胆に考えているようですが、企業はトップマネジメントに優れた人がいないと、トップ以上の成績を上げることはできません。優れないトップがいる会社は社長より能力の高い人の活動を制限する傾向にあります。能力の高い人はリスクのある仕事に挑戦する気概があります。能力不足の社長はリスクを避ける傾向があり、任期中は怪我をしたいと考えません。これでは現場力の発揮する領域が限定されてしまいます。
そのことを書いたのが第二法則です。集団はエネルギーが注入されないと、各人の努力を集中することができず、集団が発散型になって行きます。エントロピー(Q/T)の増大となります。たくさんの熱量があっても温度が低い熱は利用価値が少ないわけです。自然界はエントロピーが増大する方向に推移しています。組織も同じでトップからの活力を注入しないとエントロピーが増大し、現場力が成果物を生み出さなくなります。ここでQは熱量です。Tとは絶対温度です。現場力でいうTとは何かをしてやろうという現場の意欲の大きさです。いい人材を多く抱え熱量が多くても意欲がないと生かしきれないという意味になります。
組織は同じことを繰り返していると惰性に流されエントロピーが増大していますが、それが当たり前の仕事のやり方と思い込んでしまいます。既得権益がエントロピー増大の産物です。
次回はこの法則を基に企業は何をするべきかを考えて見ます。
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