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ハイリターン・マネジャー ― チーム力を高める「5つのスキル」 ―
(金澤透/佐藤通規著、東洋経済新報社発行、2008年07月24日、253ページ、1,600円+税)

金子 雄二 ((有)フローラワールド):10月号

今回紹介の本は、組織におけるマネジャーの役割を纏めたものである。この本を手にして、改めてマネジャーの果たす役割の重要性を再確認した。筆者の現役時代は、プロジェクトマネジメント(PM)に没頭し、マネジメントといえばリソース・マネジメント、タイム・マネジメントだけに労力を費やしていたことを反省している。その延長線上にPMBOKや、PMAJがあったことが、せめてもの救いである。矢張りマネジャーは副題にもある通り、チーム力を高める観点でマネジメントすべきであった。昔、マネジャーの辞令を受け取った時は、管理者として「自分はいかにあるべきか、組織をどうリードすべきか」等々、自分を主体に考えていた。この点が問題で、主役はスタッフであり、構成メンバーである。マネジャーは管理者(当時、組織管理職として処遇されていた)という認識が違っていた。今更、マネジャーを定義する必要もないが、その本質的な意味を表しているのが、学校の部活でのマネジャーであり、芸能界のマネジャーである。共に主役は選手や役者であり、マネジャーは、スケジュールの管理、他部門との調整役であり世話役である。決して自分が主体ではない。だから主役の力を引き出すための努力が不可欠である。筆者の場合、上司がシニアー・マネジャーで、その責任者がジェネラル・マネジャー(部長)であった。この辺りが管理思考に走り、現場思考のチーム力向上に努力できなかったのかも知れない。

その意味で一般的にマネジャーなるものが、どう使われいるのか少しネットで調べてみた。現在、マネジャーと言えばケアマネジャー(720万件)であるが、PMマネジャー(13百万件)のヒット数の方が多い。これは歴史的経緯と、文献や著書、関係者が多いためであろうか。他にパソコン用語のタスク・マネジャー(220万件)や、アセット・マネジャー(資産管理者)やファシリティマネジャー(施設管理者)等々がある。マネジャーを管理者と称する言い方は、以前からあった。最近では、マネジャーが必ずしも管理者でないケースが出てきているので、現場リーダとか業務責任者をカタカナでマネジャーということが多くなっている。それはリストラ等で業務効率を上げるために、プレーイングマネジャーを管理者にするする企業が多くなったためか。これも一種の管理者であるが、管理職であるかどうかは、企業によって異なる微妙な問題がある。管理職は管理者であるが、管理者が管理職でないケースがあり得る。ここでいうマネジャーは、部門組織を管理し、部下を育成するミッションを持った中間管理職である。会社組織の現場にあって、中間管理職の果たす役割は大きい。そこでこの本からハイリターンを高めるノウハウを学び、管理者個人やチームメンバーも共に評価を上げて、会社のリターンを大きくする方策を探ってみたい。

ハイリターン・マネジャーとは     ―― チーム力向上を目指す ――
この本の著者である金澤、佐藤両氏は、アメリカ大手の戦略実現コンサルテイングファームの日本支社でコンサルタントをしている。共に経営にIT構築を戦略的に立案して、企業変革を支援している。その関係で多くの企業マネジャーやPM関係者とも会い、マネジャー(中間管理職)の現状とその役割の重要性から、この本をまとめたと書いている。ここで論じられているマネジャーは、ミドルマネジメント(中間管理職)からエクゼクティブを視野に入れた幅広い人材を対象にしている。これはかなり理想に近い状態だと思うが、目標は高い方がいい。だからハイリターン・マネジャーと称している。具体的に求められる役割は、「組織のパフォーマンスを最大化でき、成果を継続的に出し、不透明な環境下でも方向性を打ち出し、やり切れる人」と定義している。これを読みながら、過去の自分の実績と対比してしまった。多少これに近い部分もあったが、「成果を継続的に」の箇所が引っ掛かった。PMを40年以上も続けていると山あり谷ありで、辛うじて計画内に納まったものばかりだったが・・・。当時は、顧客とのトラブル(納期、予算、機能、性能等)を最小限度に押えてプロジェクトを完了させ、開発メンバーとそれを共に喜ぶことに生甲斐を感じていた。その意味では、顧客も開発メンバーも満足してハイリターンを享受したと思う。この本では、ハイリターンを「短期的には、仕事の達成感」「中期的には、QOL(Quality of Life:生活、人生の質の向上)の達成」「長期的には、市場価値の向上」と纏めている。

マネジャーが組織的にスタッフやメンバーを抱えて、ある結果を出すにはチーム力が必要であり、その結果がハイリターンに繋がる。このチーム力は、自然には生れない。マネジャーや管理者が意図的にチームワークを良くする方策をいろいろと実施しないとチーム力は発揮されない。団体スポーツやグループ活動等でみられる通り、纏まりのある団体は、リーダやマネジャー(ここでは責任者)の指導力がものをいう。会社組織でも同じ経験をされていると思うが、指導者の役割はこのチーム力を如何に発揮させるかに掛かっている。この本では、「リターン=基本能力×チーミングレベル×実現レベル」と公式化している。ここでいう基本能力とは、「現状の作業効率・品質で処理することが可能な単位あたりの作業量」である。所謂、個人の処理能力から組織全体の能力をいっている。次のチーミングレベルであるが、これは「複数のメンバーが一つの目的を持って、心・技・体が一体となって結果を高める能力」といっている。これを定量化して何段階目にあるか、冷静に評価しなければならない。マネジャーが組織評価して出す方法もあろうが、第三者か上司が公平に評価してレベル測定した方が客観性に富み、正確な結果が出されると思うがどうであろうか。このレベルは、時間と共に進化することも頭に入れておく必要がある。最後が、実現レベルだが、現状から期待値まで多くの段階ある。これらは作業効率とモチベーションによって結果が大きく異なる。マネジャーはこの変化を読んでチーム力を高める努力が必要である。各々の項目の結果は、積算なのでバランスを考えることもポイントである。

ハイリターン・マネジャーの要素   ―― 求められる5つのスキル ――
次は、この本のハイライト「ハイリターン・マネジャーの5つのスキル」である。実は、ここまでに至る過程で、既にこの5つのスキルのエッセンスは述べられている。即ち、先の「リターンの公式」の各項目を細かに分析するとその答えに到達するようになっている。5つの全てのスキルに興味のある方は、是非この本を紐解いて頂きたい。ここではその触りの部分だが、非常に重要なハイリターン・マネジャーの基本的な物の見方を探ってみたい。
一番目は、マネジャーとしてスタッフの基本能力を如何に高めるかである。先に述べた基本能力は、個人と組織の処理能力である。ということは、個人のスキル、経験等の基本能力に、マネジャーとしての統括力(リーダーシップ)を加味してのチーム力の向上がポイントとなる。一人ひとりの能力は変わらないが、その和が期待以上に大きくなるかである。この時のマネジャーの役割は、昔から軍隊や組織論でいろいろ述べられている「目標設定の徹底と役割分担の明確化、情報の共有化等々」である。この方法で直ぐに結果が現れる訳ではないが、日々チームを運営する過程で目的を共有しながら培われる。プロスポーツ界で監督が変われば、チームは見違える程の力を発揮するのは、この範疇である。マネジャーの役割は、一人ひとりの基本能力を見極めて、チームとしての結果を出すことである。
その過程で重要なポイントは、マネジャーが出すのではなくチームメンバーの和が一丸となって出した結果である。マネジャーは主役ではない。いい結果を引き出す裏方である。

二番目がチーミングレベルである。これは組織内メンバーの目的(ゴール)共有である。この共有化で必要な方法は、マネジャーが発するメッセージ(ゴールに至るプロセスと時間的なターゲット=目標)をメンバーに徹底すること(=「@コミュニケーション」)である。このコミュニケーションは、単にメンバーに情報を伝えるだけの単純なものではない。更に、コミュニケーションを通じて、メンバーとの人間関係を深める重要な要素が含まれている。極端に言えば、チーミングレベルはマネジャーとメンバーとの人間関係ともいえる。このコミュニケーションが頻繁に図られて、チームとしてのゴールが明確化されれば、メンバーの果たすべき役割が自然にハッキリする。これはチームとしての方向性(Aベクトル)が一致したことを意味する。しかし、チームは個人の集合体であるので、一度ベクトルが合ったからといって、そのまま問題なくゴールにたどり着くとは限らない。その場その場でお互いのベクトルを確認するための「コミュニケーション」を欠かしてはならない。人間関係の維持・構築は、地道なコミュニケーションの積み重ねである。その結果が、チーム力としての成果(B確実性)を生み出すのである。この@からBがチーミングレベルを向上させるドライバーとしての役割となる。三番目が実現レベルだが、この構成要素は、一人ひとりの意欲とチーム全体の力(Cモチベーション)と限られた期間内(=時間)で、リターン(D効率性)が実現される。このCとDが実現レベルのドライバーとなる。これら@〜Dがハイリターン・マネジャーの必要なスキルドライバーであるという。

ハイリターン・マネジャーになれるか    ―― タイプ別マネジャーの対応 ――
この本の最後の部分に、マネジャー(中間管理職)を幾つかのタイプに分類して、ハイリターン・マネジャーになれるかの「簡易診断とそのタイプ別の特徴と対処法」が書かれてある。ハイリターン・マネジャーは、先の必要とされるスキルから高度なマネジャーを意味している。その関係から一般のマネジャーとハイリターン・マネジャーの差は大きい。そこでこの自己診断と対処法から、ハイリターン・マネジャーになる可能性を探ってみた。簡易診断では、先の5つのスキルがどうなっているかをチックすることから始まる。5つのスキルにそれぞれ5項目の質問があり、それぞれ4段階で答えるものである。その答えを得点計算して、5つのスキル別に集計する。その結果、5項目だから五角形のレーダーチャートが完成することになる。この本では、そのレーダーチャートの図形分布によって、6つのタイプに分類している。先ず、自分がどんな能力分布になっているかを調べる。自分では分かっている積りであるが、占いをする気分で実際にやってみると面白い。質問1〜5は、構想力(先にチーミングレベルの向上ドライバーは「ベクトル」で述べたスキル)である。設問の全てを列記できないが、例えば「活動目標の書類から社内に説明できる」の質問に対して、(当てはまる、多少当てはまる、多少外れている、完全に外れている)を答える。それぞれを点数化して集計し、構想力の得点をレーダーチャートにプロットする。

以下、他の4項目についても同じことを繰り返して、全ての項目の得点を線で結ぶと、五角形のある形が出来上がる。これが自分の診断結果であることが分かるのだが、6つのタイプに分類する方法がユニークというか一般的である。先ず、6つのタイプであるが、政治家タイプ、学者タイプ、実務家タイプ、コミュニケーションタイプ、やらされタイプ、ハイリターン・マネジャータイプになっている。政治家タイプは、構想力とモチベーションが高く、コミュニケーション力が少し高い。学者タイプは、政治家より時間管理能力(効率性)が高い。実務家タイプは実行管理能力(確実性)と時間管理能力が高い。となっている。従って、全ての項目がバランス良く高得点の人が、ハイリターン・マネジャータイプである。これに対して、全ての項目の得点が半分以下でモチベーション力が低い人が、やらされタイプとなっている。ここまでは常識的なタイプ分類であると思っている。しかし、コミュニケーションタイプの判定が、コミュニケーション力だけが高く、他の項目が低い人となっている。コミュニケーションタイプとは、どんな人であろうか。コミュニケーションはチーム力を高めるには必要不可欠なものであるが、それだけ突出していても困る。因みに、この場合の問題点は、「タスク管理が出来なく、責任感が弱い」傾向があると指摘している。だから実行管理能力と、自分のモチベーションを高める努力が必要であると対策が書かれてある。こうした自己分析をして、ハイリターン・マネジャーを目指すのも一つの方法である。己を知りチーム力を高めることはPMには不可欠である。(以上)
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