PMRクラブコーナー
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「北京オリンピック開催に思うこと」

仲野 隆:9月号

このPMRコーナー執筆の依頼があった時点で北京オリンピック開催が間近であったことからすぐに主題のテーマを考えた。

オリンピックは4年に一度の一大イベント。今回の北京オリンピックは204の国と地域から約11,000人の選手が参加したという。この4年に一度の大イベントをテレビで見るにつけつくづくオリンピック開催はまさに一大国家プロジェクト・プログラムだと感じる。オリンピック開催が決まってから(実際にはそれ以前の招致活動からとなるのであろうが)約7年後の開催まで主催国のオリンピック組織委員会はどんなプロジェクト・プログラムを考え遂行するだろうかと、テレビで観戦しながら考えてみた。

オリンピック開催を実現するのに必要なプロジェクトをざっと思いつくままに拾い出してみても、施設建設(競技施設、選手村などの関連施設の整備・建設)、電力・水などのユーティリティーシステムの整備、交通システムの整備・建設(道路、鉄道施設など)、オリンピック関連施設と調和する街づくり、競技運営(事前の関係者の教育・トレーニングを含む)、セキュリティー対策、ヒューマンリソース対策(ボランティア依頼・受け入れ含む)、外部団体との調整(自国政府、内外関係団体との調整)、聖火リレー運営、宣伝・広告、関連商品やチケットなどの販売、財務管理、・・・ 等々があろう。

これらのプロジェクトはおそらくオリンピック委員会だけでは行えず国や地方の行政機関と一体となって進められるのであろうが、ばらばらに行っていては統一性がなくなるとともに多分開催日までに間に合わないことになろう。全体を一つの調和の取れたプログラムとして考えなければならない。まさにP2Mの考え方が求められる。その上オリンピック開催は国家の威信がかかっており失敗は許されない。さらに上記のような種々のプロジェクトに参画する人々の数は数万人(あるいは数十万人?)になろう。ここで筆者が最も重要だと考えるのはプロファイリングと如何に全体の調和を図りながら大組織をスムーズに運営するかということである。

オリンピック組織委員会のミッションは、ありのままの姿、即ち開催が決定した時点(或いは招致を決定した時点)において必要なインフラなどの整備状況の実態をよく見極めた上で、あるべき姿、即ち20XX年Y月に必要な施設が整い、国内外の競技関係者や観客を向かえ競技が開始できる状態にし、期間中大きなトラブル無く競技を完了できるようにすること、である。このありのままの姿からあるべき姿に至る実現可能なシナリオを描くことが重要だ。このシナリオ描きがどれだけ十分に練られているかがこのプログラムの成否を決めるわけだが、それと同等以上に如何に組織全体が一つにまとまりシナリオ通りに進められるかが重要だ、と筆者は考えるのである。

というのも、自分自身が10年ほど前、約3年間に亘り中東の某国向けプラント建設工事のPMを拝命したが結果的に失敗に終わったことがあり、その最大要因がまさにこのプロファイリングと組織マネジメントの不足によるものであったと後に自覚したからである。

そのプロジェクトは中東の難しい顧客であった。種々発生する問題点について契約書に照らし合わせて議論するがどうにも見方の違いがあり、また契約書付属の技術図書類にも曖昧な点が多々あり彼我の解釈の違いが最後まで埋められず苦労した。その上現地のサブコンは追加の請求だけを考えているかのような会社で神経をとがらせる毎日で、スケジュールは大きく遅れた。採算的にも厳しい結果となった。

今から考えると、その当時は急にこのプロジェクトのPMに任命されたこともあり遂行シナリオを十分に練ることもなく次々と発生する問題解決に奔走していたように思う。組織マネジメント、特に人のモチベーションを上げ組織力をどう高めるかに関しては十分に考えが及ばなかった。プロジェクト・プログラムは人間が組織を作って動かすものであるということの重要性を十分に認識できていなかった。何故ならプロジェクトの規模が大きくなればなるほど参画する人数も多くなり組織マネジメントやコミュニケーションマネジメントの重要性が一層増すからだ。

またいざという時、苦しい時にはチームの上に立つPMの人間性、人格が問われることになると考える。なぜなら人間性に優れたリーダーでないと人は素直にはついていくことが出来ないからだ。この時の経験を基にそれ以降は社内・外のプロジェクト関係者(特に顧客)との関係性を維持しながらチームビルディングとリーダーシップに心を配り如何にプロジェクト組織のベクトルを進むべき方向に導くかに腐心してきた。

さて、北京オリンピックに戻って、この一大プログラムをリードしてきた人々は表には現れていないが、これだけの大組織を運営しなければならず多くの苦労があったろうと推察される。そうした関係者の努力の結果、これまでのところ競技運営に関する限り大きなトラブルは報道されていない。そして、テレビの前で夢中で手に汗を握りながら日本人選手の活躍に一喜一憂する。一時の愛国主義者になり日本人選手のメダル獲得に胸を熱くする。そうして、4年に一度のオリンピックもあっという間に過ぎ去って行った。
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