「プロジェクトマネジメントと労働安全衛生管理」
薦田 光郎:8月号
1. まえがき
会社で働く労働者の高齢化や偏った業務効率化等により、企業での労働災害や過重労働が社会問題となっている。昨年、労働安全コンサルタントの資格を取得したので、今回のウェブジャーナルへの投稿機会に企業における労働安全確保の重要性をプロジェクトマネジメントの側面から以下に述べる。
2. 労働災害の推移
1) 死亡災害事故
我が国における死亡労働事故の推移を図−1に示す。昭和47年の「労働安全衛生法」の成立を機に、全産業での年間死亡者数は5000人超の大台から2000人前後に低下し、平成17年以降は1500人を下回るようになっている。
また、死亡事故が最も多い建設業においても、安全対策の進展と公共事業の低下と相まって平成17年に初めて500人を下回り、昨年においては461人となっている。
2) 過労死等
「脳・心疾患、過労死及び精神障害等に係わる労災認定件数」は、図−2に示す様に毎年増加しており、平成19年度は脳・心疾患で392件、精神障害等で268件、合わせて660件の労災認定を受けている。
3. 労働災害による影響
企業における労働災害はリスクとして捉えることができ、主に人的損失と社会的損失が考えられる。
1) 人的損失
事故による身体的損失や後遺症、最悪の場合にはかけがえのない命を落とすと言った損失は、本人はもとより家族や遺族の方々にとっても甚大な損失を被ることは周知の通りである。
2) 社会的損失
労働災害は、企業においては事業停止などの機会損失はじめ信用力失墜、ブランドイメージ低下など会社の存続に係わる程のダメージを与える。 また、人的補償を伴う場合は慰謝料の負担などの経済的損失も免れない。
4. 労働安全衛生法の改正
労働災害をリスクとして捉え、その対策を事前に講ずべく平成18年4月の「労働安全衛生法」の改正の中で、リスクマネジメントの実施が事業者の努力義務として盛り込まれた。具体的には同法第28条の2第1項において「事業者は、(中略)危険性又は有害性等を調査し、(中略) 労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。」と定められた。更に、厚生労働省からも「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」はじめ関連の指針や通達が告示されている。このように労働安全の確保が法的にも事業者の責任として定められている。
5. 労働契約法の成立
一方、平成20年3月1日に施行された「労働契約法」の第5条において、使用人による労働者への安全配慮義務が規定された。従来は労働者への安全配慮義務は判例に基づいて適用されてきたが、同法の成立によって企業の労働者への安全配慮義務が法律として明文化された。
6. P2Mにおける労働安全管理
プロジェクトマネジメントにおいて、労働災害の防止や工場等での事故災害の防止は狭義的にはリスクマネジメントの一部として位置付けることができ、人的損失や社会的損失を未然に防止する事が重要である。
プロジェクト活動における安全の確保は従業員のみならず、全ステークホルダーの願いでもあり目標でもある。プロジェクトは価値創造活動であり、企業が存続・成長して行くための経済的価値の確保が企業としての必要条件でもあり、第一の価値と言える。
また、企業が豊かで文化的な社会の成立へ向けて貢献して行く事が社会的価値であり、企業としての十分条件でもあり、第二の価値と言える。
さらに、安心・安全の確保は企業として第三の価値と位置付けることが出来る。労働安全衛生法や労働契約法等の法令遵守は、企業風土として根付いていることが大切である。プロジェクトチーム当事者の安全確保はもとより、組織としての安全文化の醸成やステークホルダーの安心感の獲得、ひいては信頼関係の確立が価値獲得を使命とするプロジェクトマネジメントとして重要である。
以上
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