PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(4)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :7月号

エンタテイメント論

第1部 エンタテイメント論の概要
4 下呂温泉旅館のその後

●下呂温泉のその後
筆者は、約10数年前、岐阜県の下呂温泉街の地元有力者達から「温泉街の活性化」と題する講演を頼まれた。

その講演の中でいつからでも実行可能な「金の掛からないエンタテイメント」と「金が掛かるエンタテイメント」の導入による集客方法、そして「やるべき事(Positive Clause)」と「やってはならない事(Negative Clause)」をそれぞれ具体的に提案した。

その講演を機会に地元有力者が筆者の提案を実現すべく立ち上がった。最初は、発起人達が中心になって周囲の賛同者を集め、あるレベルとあるコンテンツのエンタテイメントが実行された。

しかし殆どの温泉旅館主は、現状を変えることを拒み、新たな活動に強い懐疑心を持った。そして「周囲の動きを薄目で見ながら自らが先頭に立って動くことを一切しない」という態度であった。余談であるが、「薄め目で他人を見る態度」を岐阜人自ら自虐的に「岐阜県民性」と語る。

その態度の結果は、明らかであった。筆者の提案は、その後下火になり、従来のままに戻った。

●下呂温泉の現在
筆者は、岐阜県理事から新潟県参与になり、岐阜県を去った。しかし今も岐阜県の動きや下呂温泉の現状を直接・間接に聞いている。そして残念だといつも思う。

現在の下呂温泉街は、筆者が講演した頃の賑わいすら無くなっている。そして日本の多くの温泉街が抱えている問題とほぼ同種の多くの問題を抱え、苦悩している。

5 新潟県の温泉街
●新潟県の温泉街
新潟県には多くの温泉街が存在する。しかし二極分化している。お客が来る温泉はそれなりに栄え、来ない温泉はますます衰退している。

筆者は、新潟県参与に就任後、幾つかの市町村の関係者から「温泉街の活性化」について相談を受けた。

一例として新潟県阿賀野市の「五頭温泉」である。それは、出湯温泉、村杉温泉、今板温泉から成り立っている。新潟県内で歴史のある温泉である。しかし温泉客の減少に悩まされ、経営が苦しいため相談を受けた。
どんなに良い湯や環境があっても、それだけではお客様は来てくれない
どんなに良い湯や環境があっても、それだけではお客様は来てくれない

●温泉街の活性化
筆者は、温泉街を代表する温泉街組合長や有力温泉経営者と会い、@思い切った温泉街改革を温泉経営者達が一丸となって実行すること、A日本中に温泉は溢れかえっている。東京のど真ん中のお台場にさえ温泉施設がある。従って世間の注目をあびるために、ビックリする様な名前を温泉街に付け、全国の温泉好きの人達を呼び込むこと、B365日休み無くライブ・エンタテイメントを実行すること、C経常的エンタテイメントを確立した上、ビッグ・イベントを行うこと、Dビッグ・イベントだけを実施しても殆ど効果がないことなどを具体的に提案した。

ビックリする名前として筆者は、例えばの話であるがとことわり、「ゴジラ温泉」ではどうかと提案した。この名称は、商標権、肖像権など法的問題が生じる。それで阿賀市役所の某職員が「ゴリラ温泉」という案を筆者に提示してきた。この名前は、阿賀野市にある「5頭連峰」の名前にある理屈を付けて合成したものである。

また経常的エンタテイメントを実践するには、温泉街経営者が共同でエンタテイメントの実践空間を作ること、または持ち回りで温泉旅館の一角を使うことを提案した。更に地元のセミプロや引退プロなどをエンタテイナーとして活用することも薦めた。

●提案後の動き
筆者の提案を熱心にメモし、「是非実行します」と言い残して去った当該関係者は、その後、何の連絡も、問い合わせもせず、月日だけが経過した。地元でいろいろ議論されたと聞くが、何か具体的な活動をしたとは聞いていない。予想通りの結果であった。

地方格差問題が叫ばれ、地方を救えと多くの国家的支援がなされてきた。また地方の活性化に関して数多くの提案や議論がなされてきた。しかし期待した程の効果は生まれていない。

多くの地元関係者は、何か良いアイデアがないか、何か良い実践策がないかを追い求めている。一方有名学者、有名評論家、TV露出有名人などは、「したり顔で、偉そうに、抽象的な活性化案をあたかも具体的な案の様に言い換えて主張する」。それを解説者、司会者、ニュースキャスターが「先生の仰る通りです」と輪を掛けて強調する。

地元関係者も、都会の有名人も、何か良いアイデアや街作りの良いマネジメントなどを実行すれば良い効果を生まれると幻想している様だ。そんな都合の良いものなどあるはずがない。また街の衰退への危機感が不足しているとか、実行力がないとか精神面の指摘も多い。しかしどこの温泉街関係者も、シャッター通りの商店街主も、都会の有名人なんかより遙かに強い危機感を持っている。
つづく

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