今月のひとこと
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「資格者を活用できる仕組みつくり」

オンライン編集長 渡辺 貢成:5月号

 PM資格者の育成に力を入れてきました。お陰さまで多くのPMC、PMSやPMP資格者が増えました。増えたら増えたで悩みがあります。PM資格者が活躍していないと苦情をいう企業が出てきました。

 昨年はNHKのクローズアップ現代で「ポストドクター問題」が取り上げられました。ポストドクターとは文部科学省の肝いりで日本の再建には科学技術系人材の育成が必須との考えで、全国で10,000人のドクターを育成しました。しかし、大学には人員枠がありますので、大学へ残る道は狭い門です。就職先は民間企業か研究機関です。ここで問題が発生しました。「ドクターは歳の割りには使い勝手が悪い」という評価です。各大学はこれらの問題の解消にドクターにも経営の勉強をさせたらということになり、大学でMOT(Management of Technology)の講座を開設し始めました。PMAJも依頼されて、この講座の中のPM部門でお手伝いを始めました。

 このような現実に直面すると奇異な感じがします。世界ではドクターは名前の前にドクターをつけて呼ばれるステータスの高い人種です。世界ではドクターが活躍しています。MBAも同様です。国内ではMBA資格を取って会社へ戻っても、資格を使う仕事がないというのが現実です。仕方がないのでこれら人材は外資へ流れていきます。

 米国での資格問題を考えて見ます。PM資格で言えばPMPがおおよそ30万人近くいます。MBAでも10万人以上存在します。米国は職業別にユニオンがありますから、MBAは戦略を含む企画、構想計画を担当します。PMPは構想が決まったプロジェクトの実施を担当します。領域が明確に分かれていますからPMPは構想計画を担当しません。

 日本のIT産業はPMBOKを主体にしていますのでPMP資格者が多くのですが、最近はPMS資格者も増えています。IT産業は引き続き失敗率の高さを解消できないでいます。原因を調べてみますと、発注者が構想計画を策定せずに、受注者に要件定義を書かせています。受注者は構想計画を知ることなしに、発注者の曖昧な言葉(文章でなく)を聞いて要件定義を提案しているところが多いと聞いています。米国はMBAがいますから発注者は企業戦略から構想計画を策定し、要件定義を行い発注しています。米国では発注者の役割と責任、受注者の役割と責任が明確でそれぞれ責任を果たしています。これが世界共通のビジネスルールです。それでも変更が多いITの仕事を、米国では実費償還型で請け負わせ、決して受注者に発注者の責任を押し付けることはしません。

一方国内のIT発注者の多くは構想計画を立てません。そして変更も含めて一括受注方式で受注者にその責任を負わせる方式を取っています。責任を取らないのであれば構想計画の必要もなく、MBAも必要がないわけです。しかし、構想計画を策定しないことによる損失は現実には発注者に振りかかっています。年間の補修費がIT投資の70〜80%といわれています。そしてIT投資の効果がでていないというお粗末さです。効果が出たというためには評価基準が必要ですが、構想計画がなければ何をもって効果が出たか判断する基準がありません。発注者が自分の責任を受注者に負わせるという正しくない仕事の方式で、正しい成果の出るわけがありません。

次に受注者について考えて見ます。米国は国内またはグローバルスタンダードが整備されています。この社会で共有できるスタンダードを基準に仕事を進めています。このスタンダードを使える資格者はすぐ仕事ができます。そこで資格者は社会が評価しているわけです。米国の知的労働者の生産性が高いのは組織が生産性を高くする標準化、マニュアル化、テンプレートの整備、過去のデータの整備ができているからです。国内では業界標準が整備されていませんから、国内企業は資格者にも、非資格者にも同じ仕事をさせています。これでは知的生産性が低いのが当たり前です。大企業は社内基準をつくっているところのありますがグローバル化時代に、企業基準では発展性がありませんし、仕事を切り分けてアウトソースすることも困難です。米国はバリューチェインの一部を切り分けて他国に発注しています。

国内で「資格とは足の裏の米粒」、「その心は?」、「取っても食べられない」というジョークがあります。日本では資格者が役に立っていないと、自社の組織の整備不足を棚に上げて、資格者を非難する人事部や、資格者の上司がいます。このジョークは次に「資格者を使えない日本企業は食べられなくなる」となることでしょう。このままではIT産業は確実にインド、中国の後塵を拝することになると思います。

 日本IT業界もそろそろグローバル化とは何か真剣に考え、世界的な人材不足の中で資格者を大いなる活用するシステムを構築しようではありませんか。
以上
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