社会を劣化させる「小さな正義」、社会を活性化する「良いところの発見」
オンライン編集長 渡辺 貢成:3月号
何時の頃からか、テレビを見ても、新聞を読んでも、誰かを非難する言葉で満ち溢れています。「賞味期限」問題を初めとして日々問題を見つけては非難報道をしています。テレビには評論家なる人種が数名登場して、その解説をしています。これを本職とする人種が問題点を解説しますから、なかなか説得性があり、そうだ、そうだと頷いてしまいます。
最近のワシントンは日本を「緩やかに衰退する国」と認定しました。私も同感です。「少子化問題」、「IT産業の3C化問題」、「農家がなくなるという問題」と大きなテーマがたくさん横たわっていますが、日本政府に戦略がないというのか、誰も手をつけず、先送りという戦略だけが横行しています。
これら大きな問題を解決するにはその問題の本質を捉え、長期展望で対策を策定しなければなりません。マスコミこそリーダーとなって日本再生に向かわなければなりませんが、マスコミは読者受けする小さな問題を取り上げ、「小さな正義」を振り回しています。勉強しなくても「小さな正義」を振りかざし、正義を主張することでマスコミの役割を果たしたと自分を欺いています。
問題は「小さな正義」を振り回すと誰も反対できません。そこで「小さな正義」は多くの有能な人材を消してきました。企業の社長もマスコミの前で謝罪を要求され、時には辞任します。その結果社会が保守的となり、何もしないことが本人の延命に繋がるため誰も何もしなくなる社会現象を生み出しています。
一方「大きな正義」を主張することは相当量の勉強が必要です。また発表することによってある種のリスクを伴います。新しいことを始めた人が成功すると、マスコミは話題として取り上げますが、この結果、旧勢力は危機感から、些細な問題を取り上げ、「小さな正義」を見つけて、新勢力をつぶしてきました。ポスト小泉の日本を見て、緩やかな衰退との見方が出るのは当然ですが、マスコミは何故か興味を示しません。反論できる準備もしていないからだと思います。
私は今後継者育成に力を入れています。「考えるPM」という講座を各方面で実施しています。東北大学でポストドクターのための高度技術経営塾でPMの講座を担当させてもらっています。できるだけ考えさせて教えない講座です。テーマを与えてグループで考えさせ1ヵ月後に発表させます。例えば「技術とマネジメント」、「人材を人財にするにはどうするか」、「農業ベンチャーの設立計画」などです。このような大きなテーマも見事に纏め上げて生きます。最初の3週間は暗中模索の時間であり、最後の1週間で意見がまとまり立派な発表となります。このことは感想文の中に書かれているため、彼らの苦労のプロセスがつかめます。同時に満足感も高くなります。
このテーマはグループによって違いますので発表後、別のグループに対し、質問か意見を出させます。この講座でわかったことは「日本人は相手の弱点を発見する」ことに優れています。しかし残念ながら、人の弱点から学ぶものは少ないということです。弱点を突いた討議は議論を良い方向に展開することができず、議論が発展しません。
正しくは「何が良い考えか」、「自分にとって何処が勉強になった」ということに興味を示とこの講座から多くのことを学び取ることができます。そこで講師として、「この講座は相手の弱点を見つけるためのものではありません。人から如何に多くを学ぶかの講座です。その視点を養うように。教育とは基本的に本人が他人から多くを盗むことで成り立っています」とファシリテートします。ここで受講生の態度が代わり、「目からウロコ」がはがれ、講座ごとに著しく成長していきました。
これからの日本は「小さな正義」を振りかざすのではなく、日本の良さ、組織の長所、個人の努力を取り上げ、個人や組織のコンピタンスを伸ばす方向に進んでもらいたいと考えています。
以上
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