PMプロの知恵コーナー
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海外でのITプロジェクト実践 (11)
「海外駐在」

向後 忠明:2月号

 今月からは海外駐在におけるいろいろな出来事、仕事の上での失敗談などを取り上げてみます。
 T国中央銀行よりハードウエアーの設置完了の報告があり、いよいよ現地での作業が始まる時期にきました。そして、システム開発に関係した人達を引連れてT国へ赴くことになりました。今回のT国行きは出張ではなく駐在です。短い人で3か月、長い人でも6カ月ぐらいとなる予定です。
 この時になっても、「本当に海外経験のないこの人達で大丈夫なのか??」との不安が頭の中をよぎってました。
 しかし、すでに人選もおこない、出発するほかに手立てもなく、「何とかなるだろう!!」と開き直った気持でT国に出かけました。

 T国への旅程は、当時では直行便もなかったのでフランクフルト経由で、T国入りとなっていましたので乗り換え時間も含め15時間以上かかります。
 海外が初めての人もいましたが、長旅にも関わらず物珍しさもありあまり苦情も出ませんでした。

 T国での住み家は中央銀行の幹部用社宅でした。ホテルのような豪華さもなく、小さい部屋にベットとソファーがあるだけの簡易なものでした。
 ただし、プロジェクトマネジャの部屋はベットの部屋と応接間があり、他のプロジェクトメンバーの人達とは違った待遇でした。

 職場はこの社宅から車で5分ぐらいのところでしたが、途中の町並みの探索や現地人との触れ合いなどの可能性等を考え、歩いていくことにしました。

 業務開始の最初の日はプロジェクトメンバ全員の紹介を総裁、副総裁そしてその他の主だった人達に表敬訪問となり、その後は中央銀行のプロジェクト担当者達と打ち合わせとまりました。
 その後は通常の業務に入り毎日社宅と職場の往復を繰り返すことになりましたが、心配していたコミュニケーションの問題も思っていたほどではありませんでした。
 中央銀行の人達もわれわれ日本人に気を使い、T国の名所旧跡や有名レストラン等に月に2回ほど招待してくれ、そこで双方の密な関係を保つこともできました。
 このようなこともあり、心配していた「海外初めて人間」の人達にもあまり不満は出てきませんでした。
 ところが!!!。
 日が経つにつれて意外なところで不満の声が聞こえてきました。
 それは@食事に関することとAホームシックです。
 食事は、朝は固いパン、固いチーズ、そしてオイル漬けオリーブや酸っぱいヨーグルトが同じパターンで出てきていました。
 昼間は町中のレストランで食事をとりましたが、日本人の味覚に合うものがあまりありません。その中でも最初のころは珍しさもありドネルケバブ( 屑肉を固まりにし、回転させながら焼いたものを削ぎ切りした肉)や魚料理を好んで食べていましたが、これも毎日であると飽きてきました。
 日本人の味覚に合う料理といえば中華料理ぐらいでしたが、味の方は「いまいち」であり、店の数もそれほど多くありません。その中でも「まあまあ」といった店に通うことになりました。
 夜もほとんど同じパターンでした。
 このため、何とかしなければいずれ大きな問題になると感じ、中央銀行に話をし、少なくとも夕飯だけは、それぞれ日本から持ってきた調理道具(電気コンロ、鍋、炊飯器等々)を使い、そして社宅のキッチンの使用許可により好きな料理を作れるよう要請しました。最初は社宅管理者の反対もあったが総裁への直談判の結果これは許可になりました。
 (実は、休みの日などは、中央銀行側には黙って私の部屋で電気コンロを使い、ビールを買ってきて、料理なども作り宴会をやってました)

 不思議なもので、そうなるとがぜん張り切って料理をする人が出てきました。
その人は単身赴任で長く自分で料理を作っていたようです。確かに腕もよく美味しくいただきました。このようなことができるようになってから食事の不満もなくなりました。

 次の問題であるホームシックは食事を含め、不慣れな文化、習慣、そしてままならぬ日本との通信や情報不足からくるものが多いようでした。
 仕事がつらいということはほとんど聞きませんでしたが、ホームシックという症状はメンタル的なものでそのケアーには難しいものがありました。
 そこでこれも総裁に談判し、私の部屋にある電話を国際通話を可能にしてもらい、皆に使用させ、日本の家族に直接電話できるようにしました。

 このようなことから、プロジェクトマネジャの役割が仕事に関することだけではなく、メンバー内に不満も出ず、そして楽しい雰囲気の下で仕事に集中できる状況を作り出すことも大事な仕事と改めて思った次第でした。
 もう1度、本エッセー(3)コミュニケーションで示した次ページに示す図「海外プロジェクトの特徴」を参照してください。
 改めてここに示す項目がいかに重要であるかがわかると思います。

海外プロジェクトの特徴

 今月号は、駐在の主たる目的である結合テストについては話のできる大きな事象は発生しませんでした。それは、本システムに関する日本での疑似結合テストが十分なされていたことが良かったのかと思います。
 まさに「転ばぬ先の杖」です。
 そのため、ソフト開発会社の社員は予定より早く帰国することになりました。

 今月号はこの辺までとし、来月はこの続きとします。
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