海外でのITプロジェクト実践 (10) 「プロジェクト遂行」
向後 忠明:1月号
2008年元旦
あけましておめでとうございます。
本年もこの「PMプロの知恵コーナー」でお付き合いさせていただきます
いよいよ、今年からAP系の重要な作業であるプログラム製造工程に入ります。この段階に入るとプロジェクトマネジャはあまり介入する部分はそれ程多くありません。
この段階はプラントビジネスで言えばメーカによる物品の製造工程に属するものと考えられます。
プラント関連プロジェクトと異なるところは、すべての作業は人に頼ること、そして要求仕様の意図するところが実際のプログラムに落とし込まれているかどうかの確認を各作業(コーディング)毎にデバッグといった作業とその検証です。
すなわち、メーカの工場に入ってすべての工程を製造完了まで、発注側の担当が工場に張り付いて検査するということです。
この作業は各コーディング後の単体テスト、プログラム結合テスト、システム結合テストと3段階のフェーズにわかれて行うことにしました。
単体テストはプログラムの一番小さい単位のコーディング結果の検証であり、デバッグを含めて非常に細かい作業となり、多くの人間がここに携わります。
これまでの説明でもわかるようにプログラム製造は労働集約的事業なので、人件費の多くがここに投入されます。その一方ではこの作業を管理する責任者の特質としてよりよい職場環境を作り上げ、部下を鼓舞させることのできるパーソナルマネジメントが重要な要素となってきます。
最近はオフショアーと言って人件費の高騰もあることからこの部分は中国やインドに発注することが多いようです。このプロジェクトを進めている時期はまだインドも中国もそのような時代ではありませんでしたのでこのことは考慮しませんでした。
一方、プログラム開発会社のプログラマの各種事情および我々のAP開発型プロジェクトでのスキルレベルを考え、プログラム製造は日本国内でわれわれの手の届くところで作業することにしました。
このプロジェクトの場合はスケジュールとワークボリュームを考え、下請け1社では問題があったので2社に分担し、東京と静岡のプログラム開発会社にお願いすることにしました。
当然われわれの担当者もそれぞれの会社に常駐し、作業進捗と課題解決のためこの2社の責任担当者と毎日のように協働しました。
そのほか、週に1回程度プロジェクトマネジャが参加して担当者では決められない課題についての会議を定期的に開催し、問題の解決をしていきました。
最初の単体テストによるコーディングミスの発掘はプログラム開発会社の担当者の優秀さや課題管理の適切な実行により無事完了することになりました。
そして、次のステップのプログラム結合フェーズに入ることになったのですが、このフェーズではただ単に単体プログラムを結合するだけではありません。結合した結果が実際の要求仕様に示すような運用上の問題や仕様に表せない暗黙知、言葉で言い切れないコンテキスト等が含まれていなければなりません。
よって、顧客であるT国中央銀行の運用担当者と一緒に議論する必要があります。
さて、読者諸氏にはこのことがどのような意味をもつか容易に想像することができると思います。
「そうです!!!コミュニケーションの問題です。」
単体のプログラム製造はプログラム開発会社のプログラマがコーディングを行っています。そして、その単体プログラムの中身のデバッグを含めた検証は結合される幾つかの単体を統括してみる責任者がいます。このプログラム結合ではこの責任者が我々にとっては重要なのです。
第一はこの段階の作業をどこでやるかが問題です。
第二の問題はプログラム開発会社の事情や派遣される人材の英語力です。
そこで作業場所は契約ではどうなっていたか?を確認したところ、非常にあいまいな記述であり、どちらともとれるようなスコープとなっていました。
ここでプロジェクトマネジャの出番となるのです。
T国の顧客側の事情を調べたらハードウエアーのセッティングが完了していないことがわかりました。
プログラム開発会社としては人材、特に責任者を海外に派遣することには問題なかったのですが英語ができないことそして海外で長期に彼らを駐在させることの不安もあるようでした。
その結果をもとに顧客との話し合いを行い、最終的には顧客が日本側にきてこの作業の検証を我々と一緒に共同作業としてやることになりました。
「蛇足ですが、顧客側の担当者も日本に来たがっていたようでした!!!」
そのようなことからT国中央銀行の人たちが日本に駐在し和やかに我々社員や下請けのプログラマと仕事を進め、このプログラム結合に関する仕事も問題なく順風満帆といった雰囲気でした。
しかし、最終段階になった頃、T国中央銀行もハードウエアーの設置も完了し、プログラム結合テストに続きシステム結合を実施する環境も整ったとの連絡が入ってきました。すなわち、中央銀行の新しく設置された実機を使用してのプログラム結合テストも行うようにとの要求が出てきました。
さて!!プログラム開発会社の誰を何人程度T国に駐在してもらえるかが大きな問題となりました。これまでの中央銀行側の日本側駐在員との付き合いから、このころではプログラマもそれなりに彼らと仲良くなっていることで、以前よりはT国駐在に対しては違和感を持たなくなっていました。
しかし、駐在する場所は中央銀行の社宅のようなところで、周りの環境や食事に関することは日本のものとは全く異なり、自分のこの国でのこれまでの駐在経験からでもまだ彼らがどの程度我慢できるか、などの不安は残りました。
日本での作業においても以下のような問題も発生しています。
「われわれの社員がプログラム結合試験計画時にプログラム開発会社の担当者を入れずに顧客のカウンターパートとのみ話をしてその計画を決めていたことがありました。
この時、社員は「プログラム開発会社の担当者はコーディングやデバッグで忙しい」ということで彼らだけで計画してしまったようです。
数ヶ月後、実際の結合試験が近付き、この計画書を関係者に説明したところ、プログラム開発会社の担当者から猛烈な非難を浴びることになりました。
しばらくの間、プログラム開発会社の人たちと険悪な状態になり、仕事もストップしてしまったことがあります。最終的には顧客とも話し、プログラム開発会社の意見も入れ、遅れも残業で取り戻し、事なきを得ました。」
日本国内でさえこのようなコミュニケーションミスが発生するのに、海外では??との不安がどうしても残ります。
この続きは来月号とします。
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