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PM投稿 「テロ環境下でのプロジェクト遂行(その3)」

岡本 敦:11月号

テロ環境下でのプロジェクト対応

◆ 対応(2) : 「指針の理解・浸透」
 先月号では、テロ環境においてプロジェクトマネージャーはContingency Plan(緊急対応計画)とともに、危機安全管理の指針を早急に示すことが重要であると申し上げました。 しかし、それだけでは絵に描いた餅で終わってしまいます。 「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ではありませんが、テロが起きたときの生々しい記憶も日がたつにつれ風化し、だんだんと警戒心は薄らいでいきます。 私にテロリストの心の内が分かるわけではありませんが、専門家によるとテロリストはいろいろな標的の中から一番のソフトターゲットを狙い100%成功する時と場所を選ぶというのが一般的だそうですので、警戒が厳しくなっているテロ発生直後よりも それから時間が経過してからの方が再発の危険性は高いとも言えます。
  時間と共に危機意識が薄らいでいく中で、危機安全管理の指針をチームスタッフの隅々にまで浸透させておくためには、例えばContingency Planによる模擬訓練が有効ですが、もうひとつの条件として常に最新の治安情報を収集・分析しチーム内に周知させておくことが重要と考えられます。 例えばテロ組織の主なターゲット、背景、攻撃の手口、政治・社会情勢、危険地域・場所、危険な時期、政治や宗教の対立、といった情報です。
 こういった情報はさまざまなルートで入手しますが、例えば外務省の海外安全ホームページから得られる情報はなかなか有効でした。 また、現地の大使館・領事館とは日ごろからコンタクトをして情報を収集することも重要です。 現地の新聞・テレビ、地域の日本人社会なども有効な情報ソースです。 更に、我々のケースでは事務所スタッフ、ドライバー、コック、客先や下請け業者など、毎日数多くの現地人と接していましたので、貴重な生の情報を得ることができました。 実際、彼らの助言をもとに、宿舎から現場までの通勤ルートを変更することも度々ありました。

◆ 対応(3) : 「チームビルディング」
 よく言われることですが、一般に外部からの大きな危険に遭遇すると組織の結束は固まります。 身近でテロが発生したプロジェクトチームの場合も、初動さえ間違わなければ一致団結して対応しようとチーム内は結束します。 そこまでは良いのですが、問題はそこからです。 
 通常、現地でのプロジェクト遂行には精神的ストレスが付き物です。 特に慣れない海外においてはメンバー各人が日本とは比較にならないほどのさまざまなストレスを日々感じています。 このため日本では仲良く仕事をしていたスタッフ達でも海外の現場では怒号が飛び交う、といったケースも珍しくありません。 その上にテロによる緊張が加わるわけですから、こういった環境下でプロジェクトを遂行していくためには スタッフの精神上のケアが非常に重要となります。 ストレスへの耐性は個人差が大きいですから、プロジェクトマネージャーにとって「大したことではない」と思えるような状況でもストレスに押しつぶされそうになっているスタッフが居るケースもあります。 そういった人の日常生活の中に見られるちょっとした兆候も見逃さず、相談に乗ったり必要に応じて休暇をとらせたり、といったケアをタイムリーに行っていく必要があります。 程度によっては道半ばにして日本に帰国させるという苦渋の選択を余儀なくされるケースもあり得ます。 なおその場合には 帰国が今後本人にとっての不利益にならないように適切な理由をつけてあげることが、プロジェクトマネージャーとしての義務だと思います。
 また先月号で、「危険に近づかない」という危機安全管理指針のポイントに言及しました。 しかし、不安があるという理由でホテル、レストランその他の施設に近寄ることをすべて禁止することは、短期間ならともかくプロジェクトの長丁場では現実には不可能です。 各人が通常とは異なる大きなストレスを抱えているわけですから、たまの気晴らしは精神衛生上必要不可欠であり、このあたりの極めて人間的なさじ加減は大局的に見たバランス感覚の問題かもしれません。 前述のアフリカのプロジェクトでは我々の宿舎のすぐそばに 簡単なレストランとバーとディスコを兼ね備えた社交場がありました。 私自身、夕食後にそこで現地人とビリヤードをするのが楽しみでしたし、64歳にして現場で大活躍してくれていたベテランスタッフは 夜はそこのディスコの帝王に君臨していました。 外国人も来ますので さすがに同時テロが発生した直後はそこへの出入り禁止にしましたが、その後「自己責任」を条件にあえて制限はしないことにしました。 その決定を下したプロマネの私自身、実はプロジェクトメンバーの中で一番ストレスに押しつぶされかけていたのかも知れません。

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