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PM投稿 「テロ環境下でのプロジェクト遂行(その2)」

岡本 敦:10月号

 先月号でも申し上げましたが、プロジェクトがテロに巻き込まれるリスクがあると判断された場合に、いざと言うときのContingency Plan(緊急対応計画)を立てておくことに加えて、プロジェクトマネージャーは下記の点に関して対応策を考えるべきだと思います。

テロ環境下でのプロジェクト対応

◆ 対応(1) : 「明確な指針」
 最初に挙げたプロジェクトの「危機安全管理に関する明確な指針」を早急に示す目的には大きく3つあります。 まずスタッフがテロのリスクを回避できるようにすることがもちろん第一義です。 更に、プロジェクトチームがスタッフの安全を真剣に考えているというメッセージを送ることで、浮き足立ったスタッフの精神を落ち着かせる目的もあります。 3つ目の目的、これが意外と重要ですが、本社サイド(あるいは本国)への発信です。
 有期組織体であるプロジェクトのスタッフは、一般にプロジェクトマネージャー以外にラインにも上司を持っています。 スタッフの実質的な人事権を握っているのは本国に居るその上司であり、スタッフはプロジェクト業務に平行して その上司への報告もしなくてはなりません。 テロ事件が起こるとニュースが映像と共に瞬く間に本国に伝わり、そのショッキングな面だけが強調されて報道されがちです。 現実にはプロジェクトには全く危険がないような場合でも、現地のプロジェクトチームからの発信がないと その上司は部下からの個人メールやニュースなどの限られた情報に過敏に反応し、場合によってはスタッフを強制帰国させようと動くこともあり得ます。 こういった面からも、「テロ事件が発生したが被害はなく、リスクはアンダーコントロールである。」という意味のメッセージを遅滞なく本国に送ることが重要となります。

 爆弾テロの場合、自分たちが標的になって被害を被る可能性は、おそらく宝くじに当たるよりも小さいでしょうが、このケースで重要なのはテロの巻き添えを食わないことです。 私が担当したアフリカのプロジェクトの場合、現場近くで起こった同時多発テロの標的がイスラエル(及び英米)であり、首謀者がアルカイダであろうことは地元警察などの発表で明らかになっていましたので、それを踏まえて私が提示した危機安全管理指針は以下のような内容でした。 要は「危険に近づかない」ことがポイントでした。
NOTICE (1) :
@ 下記に示すような危険・不安地域には極力近寄らないこと。
- イスラエル及び西側諸国(特にアメリカ)の政府関係機関、権益設備
- ホテル・レストランなど不特定多数が集まる場所(特に外国人が集まる場所)
- 政治集会・デモ・パレード等
A 居場所を常に明確にすると共に、外出の際は携帯電話を携帯し容易にコンタクトできるようにすること。
B 地元警察などによる検問等が予想されるため、外出する際には身分を証明できるもの(例:外国人証明書、パスポートのコピーなど)を携帯すること。
C 治安情報に注意し、普段と異なる危険な兆候を見落とさないよう常に警戒を怠らないこと。

 一方、危険の内容が爆弾テロではなく誘拐や襲撃の場合には、どこで事件に遭遇しうるのか現実には事前の推測・特定はほとんど不可能ですから、ここでは外務省の提唱する安全の3原則(@目立たない、A行動を予知されない、B用心を怠らない)が重要となると思います。 ポイントは「隙を見せない」ことに尽きます。 前述のプロジェクトにおいては、夜間に現場事務所の近辺で銃による襲撃事件が連続して起こったため、以下のような内容の通達を出したこともありました。
NOTICE (2) :
@ やむを得ない場合を除き 暗くなるまでに(遅くとも7:30pmまでに)事務所を出る。 できるだけ2台以上で事務所を出発すること。
A 夜間は○○付近、及び△△〜◇◇間では緊急時以外 車を絶対にストップさせない。
B 乗車中は常に車の中からロックをする。
C 万が一襲撃された場合、無用の抵抗をしない。(賊は殆どの場合拳銃を所持している。)
【来月号へ続く】

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