PMプロの知恵コーナー
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海外でのITプロジェクト実践 (8)
「プロジェクト遂行」

向後 忠明:11月号

 前月号ではプラントエンジニアリングの分野で育った人間が、心機一転して本格的な中央銀行といった高度な金融システムの開発プロジェクトに挑戦する気持ちになった事の話をしました。
 会社としても日本としても初めての海外での本格的なシステム開発型プロジェクトの輸出です。
 “誰も教えてくれる人はいません。”
 “誰も相談する人はいません。”
 しかし、海外におけるプロジェクトはプラントエンジニアリングの世界で十分経験しています。そして、システム開発はすでに述べてきたようにコミュニケーションスキルが重要な要素だということもわかってきています。
 問題は中央銀行といった特殊な世界の業務内容の把握です。この点は兄弟会社のND社の経験に頼ることにしました。
 一方のプロジェクト全体のマネジメントは私がこれまでのプラントエンジニアリングで培ってきたスキルで何とかなると思っていました。

 このような状況で詳細設計に入ったわけですが、まずは開発に当たって必要なプログラム言語、ハードウエアーの種類の選定が必要となりました。
 中央銀行のシステムは故障や事故があっても絶対止まってはいけません。
 日本銀行などの既存システムはコンピューターハードを並列にして一つが止まってもそれをカバーするため、もう一つが予備で置いてあります。これはこの当時の技術での開発であり、ハードウエアー技術がまだ十分でなかった頃のシステムであり、我々のプロジェクトではコストがかかりすぎてこの方法は使えません。
 そこで考えられたのがノンストップ型のコンピューターハードでした。これを供給するメーカはいくつかありましたが、調査の結果、IBMのフォルトトレラント型コンピュータを選択しました。よって開発言語もこのコンピュータの持つOS(オペレーションソフト)にあったものになります。

 しかし、ハードウエアーメーカの決定がなされたまでは良かったので次のような問題が出てきました。
 その一つは、IBMであるので当然、英語でのコミュニケーションは十分と思っていましたが、“何と!!!”IBMのSE(システムエンジニアー)が技術説明を英語でできません。
 その上、ハードウエアーの日本からの供給はIBMの販売戦略としてT国は欧州IBMの担当地域であり日本IBMからの供給ができないこともわかりました。
 そのため、顧客と相談し、輸出入業務は我々がやることとし、現地の受け入れや設置及び関連する技術的な打ち合わせは顧客にお願いすることにしました。
 一方の、日本側でのハードウエアーに関わる打ち合わせは、限定的なサービス内容でしたが、日本IBMの協力で何とか設計作業に反映はすることが出来ました。

 このようにヨーロッパ、T国、日本の3カ国を結ぶ密なコミュニケーションが必要となり、思いもよらない状況になりました。幸いに、海外の顧客を対象としたプロジェクトなのでプロジェクトスタッフは優秀で英語に堪能であったので、それほど大きな問題にはなりませんでした。

 二つ目はプログラムを製造するソフト開発会社の選択に関することでした。
 本プロジェクトが採用するハードに組み込まれたOSに基づいて開発・製造のできるソフト開発会社はこの当時はあまり多くはありませんでした。
 その上、すでに何度も述べていますが、英語のできるSEもプログラマーもソフト開発会社にはいません。
 この時まで、私はコンピューター技術はアメリカから来ているもので、それに対応するSEの人たちは当然英語に堪能な人が多くいると思っていました。
 ところが調べてみると大手のND社も含め、SEやプログラマーで英語のできる人は僅かしかいないということがわかりました。
 対象ハードウエアーをベースにそして英語も理解できるSEやプログラマーをそろえている会社となると、全くいないという現状でしたので、ここでも英語によるコミュニケーションの問題が発生してきました。
 それでも何とか自社の英語能力とあわせて開発は何とかできるとの判断で開発業務を開始することになりました。
 ところが、実際の開発に入ったところで、プログラムのテスト環境をどうするかの問題が出てきました。
 ソフト開発会社が当然持っていて当たり前と思っていたテスト用のハードウエアーの機種は処理容量も小さい旧型機器でありかつOSのバージョンも古く開発とテスト双方に不都合ががありました。

 このようなことは、IT関連の業務に携っている読者諸兄には当然、常識的な話として考えるでしょう。何せこの分野の素人ゆえの初歩的な“抜け”であり、まさに「間抜け」な仕事のやり方と馬鹿にされてもしょうがないものでした。
 「スタッフの中に教えてくれる人はいなかったの!!」と思う読者の方もいると思いますが、残念ながら誰も気がつかなかったのです。
 この種のプロジェクトで実践経験のないプロジェクトマネジャが失敗するのはむしろこのような事なのでしょう!!私にとっては全くの盲点でした。

 このことから、我々がテスト用のハードウエアーを買わざる得なくなりました。
 しかし、プロジェクト予算はこのことを考慮していなかったため、予算もすでに契約がランプサムにしてしまったことからその措置も取れず窮地に陥る事になりました。

 この続きは来月号とします。
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