PMプロの知恵コーナー
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「夢工学(61)」

川勝 良昭 [プロフィール] :11月号

悪夢工学

第11部 危機に直面した日本

2 優れた人材を失う愚

●日本式経営方式の調書?
 日本の多くの経営者や学者などは、声高に「実力主義の人事」、「業績主義の人事」を主張している。また「欧米式経営方式」でない「日本式経営方式」の長所も訴えている。

 筆者は、その様な主張や議論に接する度にシラケタ気持ちになる。何故なら人物の性格を分析し、キチンと人物評価が出来る識別能力を人の上に立つ人物が手に入れことが全ての主張と議論の出発点である。しかもその分析評価を組織として、システムとして生かされる実態を確立することが先決である。

 「我慢に我慢のサラリーマン人生」を強要し、長い年功の末にやっと部長、取締役、社長の地位が得られるという「日本的経営方式」のどこに長所があったというのか。またあるというのか。

 人を蹴落とし、社内力学などでのし上がった様なサラリーマン経営者、事業の第一線で闘った経験など皆無の有名大学の経営学の教授、マスコミで有名になっただけの理由で有名大学の教授になった元官僚や元政治家など、彼等の主張や議論に、シラケを通り越し、怒りすら感じる。

 悪夢工学の観点から、日本の人事評価、人事昇格・降格、人事異動、人事賞罰、組織編成、組織運営、組織改編、組織改革などの実態を考察すると、いろいろな問題が浮かび上がってくる。紙面の関係で詳細に述べられないのは残念であるが、出来るだけ簡潔に述べる。

●アテにならない人事
 筆者がショックと思うことは、日本の多くの企業のアテにならない人事評価のため、年齢や性別などにかかわらず、優れた人材が次々と失われていることである。

 優れた人財を失う愚を避けるためにも、日本の終身雇用制や年功序列制の長い歴史の中で構築された組織論や人事論を今こそ根本的に見直す必要がある。

 例えば、某プロジェクトや某事業が失敗したとき、当事者の責めに帰すべき失敗なのか、B1などによって密かに失敗工作が行われたための失敗なのか、当該企業にとって避けられない外的事由による失敗なのかをそれぞれキチンと判定しなければならない。それがキチンとなされない場合は、「正義や公平さに欠ける」と憤った社員は、間違いなく当該企業を去ってゆくだろう。


 またプロジェクトや事業が成功したとき、正しい功績評価がなされないと成功したにも拘わらず、優秀な人財を失う。日亜化学工業の元研究員・中村修二氏の青色LED裁判と裁判に至るまでの当該企業での中村氏の苦悩と人事処遇などは日本の人事評価システムが抱える根本的な問題を象徴的に物語っている。特許係争だけが問題の本質ではない。人事評価と人事処遇も問題の本質である。民、官、学、国(自治体)は優れた人財を失う愚を犯してはならない。

3 日本の危機
●日本の危機
 更にショッキングなことがある。それは、日本が明治維新と戦争時期を除き近世史上初の危機に直面したことである。

 この危機の内容とその原因を述べることは、本誌の主たる目的にやや外れるため割愛せざるを得ない。しかしこの危機は、政治、行政、経済、経営、教育、医療、福祉、環境、家庭などあらゆる分野とその分野に従事しているあらゆる階層の人々に襲い掛かっているのである。

●危機の内容
 この危機の中で最も深刻な危機は、以下の通りである。我々は、この危機から如何に脱出すればよいか。
(1)多くの日本人が夢を持っていないこと、または夢を捨てたこと。
(2)日本が「カネとコネ」が支配する社会構造に変質し始めた頃から、実証は不可能だが、Aタイプの人物が激減したと思われること。
(3)同じ頃から実証は不可能だが、政治家、官僚、企業人、メディア人、学者、評論家など日本をリードする支配層の中にbタイプ、Cタイプ、Dタイプの夢破壊者が激増したと思われること。
(4)多くの日本人が日本をリードする支配層の人物を本音では信用しなくなったこと。
(5)多くの日本人が他人を信用しなくなったこと。
(6)日本にはJapanese Dreamが極めて少ないこと。またそれが生まれ難くなっていること。
(つづく)
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