PMプロの知恵コーナー
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「夢工学(62)」

川勝 良昭 [プロフィール] :12月号

悪夢工学

第11部 危機に直面した日本

3 日本の危ない人事と組織

●日本の危機
 筆者は、前号で「日本は、明治維新と戦時を除き、近世史上初の危機に直面した」と述べた。本音を言えば直面どころか、既に危機に突入しているということである。

 しかし日本危機説、日本人問題説など聞きたくないという人々が結構多い。そして危機よりも夢工学の提唱する「夢の実現や成功」という明るい話を聞きたい様である。そのため筆者は、敢えて、危機に直面したと述べている。

 以下に危機に直面している数多くの状況のほんの一例を述べる。

●日本の企業や官庁の人事評価
 日本の多くの大企業は、依然として年功序列的人事評価システムをかなり温存させている。年次を飛び越した昇進は、社内ニュースになるだけでなく、社外にも話題になるくらいである。特に 国や自治体では典型的な年功序列人事評価システムを基に官僚の人事評価と昇進をいまだに行っている。

昇進したぞ!!!
昇進したぞ!!!

 「年功」の「年」は年次である。若い年次の人物は、古い年次の人物の評価を越せない仕組みの意味であることは説明の必要もない。「功」は功績があっても年次内の被評価者間での相対評価が判断基準になっている。年次を越え、幾つかの年次の被評価者の間で評価され、数段上に昇進させる様な人事システムはあまりない。

 しかし最近、これらの従来型の人事システムは、企業組織に於いて劇的に変化し、年次を超えた評価が増えている。しかし国や自治体の官僚組織に於いては劇的な変化はない。しかし少しずつ変化が起こっている。その変化の一例として筆者の私事を以下に述べる。

 今から10数年前、岐阜県梶原前知事は、筆者を直接スカウトした。筆者は、地方公務員試験に合格して民間企業からいきなり知事、副知事、出納長に次ぐ県の準三役の県理事に就任した。こんな人事は、戦後の地方県政では珍しく、梶原 拓岐阜県知事でなければ成しえない人事であった。しかし新潟県泉田知事は、岐阜県梶原前知事と古田現知事の事前了承を基に、筆者を新潟県参与に就任させた。県から県に直接変わった珍しい人事である。

 今後、益々民間人起用は増加するであろう。従って官僚の世界に安住していた公務員には厳しい世界が待ち受けている。しかし民間企業の社員からみれば当たり前のことであろう。

●相対的人事評価の世界
 さて日本の長年にわたる年功序列人事評価システムは、年次内の被評価者間での「相対的人事評価」の考えを助長し、その制度を定着させた。更に人の欠点は、目に付き易いため、欠点を比較する傾向も強め、所謂「減点主義」の考えが人事評価の主流を占める様になった。

 長所と評価される功績の比較は、年次内だけでなく、功績に貢献したと考えられる年次を跨がった人々の中で厳密に比較されねばならない。そうなると「絶対的人事評価」が必要になる。しかし長年、「相対的人事比較」と「減点主義」に馴れ親しんだ人事管理幹部や社長にとって絶対的人事評価は、簡単ではない。

 本人の欠点や失敗などを基準に優劣比較をするのは楽である。しかしこの欠点評価も悪夢工学の観点から見ると全く当てにならない。またこの失敗評価も本当の失敗原因を厳密に追求した上で失敗者を特定した評価したのであれば納得がゆく。しかしB1などによって失敗させられた人を失敗者と評価したら納得できないばかりか、悲劇を招く。またその様に評価された人物は、既述の通り、その会社を去るであろ。

●絶対的人事評価力の消失
 日本の多くの企業の人事部や原局部門は、欠点評価、失敗評価という楽な相対的人事評価に長年慣れる一方、年次を跨った絶対人事評価をする必要も殆どなく人事を運営してきた。おまけに米国などと違い、日本の企業の上司は、その部下に自らの人事評価結果を知らせる必要さえなかった。

 その結果、日本の多くの企業に於いて部下は、上司の評価に依存する一方、年次が優先することに文句も言わず、また文句も言えず、ひたすら年次が上がることを望み、長年我慢に我慢を重ねてきた。

 この様な人事運営は恐るべき結果を生みだした。それは、日本の多くの企業の人事部や原局部門が年次を越えた真の実力者を絶対的に評価できる能力を失ったことである。更に顕在的な能力に関する絶対的評価力だけでなく、潜在的能力に関する絶対的評価力まで失ったことである。

●大丈夫か、日本の人事評価
 日本の企業は、年功序列人事評価システムを構築する過程で様々なスタイルの能力評価、実績評価、人格評価などを編み出した。それらはいずれも通常の環境下で行われる人事評価基準やマニュアルなどである。しかし悪夢工学の観点から見ると、その様な方法ではB1の本性を見抜くことは不可能である。
B1は、No1の評価を受け易い
B1は、No1の評価を受け易い

 B1は、既述の通り、極めて優れた各種の能力を持っている。そのため当該企業に於いてB1は、極めて高い人事評価を確実に獲得することになる。と同時にB1は、帰属会社の利害より自者の利害を優先する結果、他者の成功を妨害したり、他者の失敗を誘導することで自分の成功を獲得し、昇進を図る。

 悪夢工学の観点から敢えて言えば、「日本の人事評価システムは大丈夫か」ということである。
(つづく)
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