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PMRコーナー 「秘書のお仕事とP2M」

月島機械 川崎 淳(PMR二期生):10月号

■はじめに
 標題を見るとPMRコーナーの寄稿としては違和感があるかも知れませんが、実はこういう分野の仕事でもP2Mの知識が役立っていることをご紹介します。申し遅れましたが、筆者はPMR受験組の二期生であり、(現時点では)最も多い受験生を排出した中の一人です。受験の動機はむろん秘書としての実力を磨くためではありません。当時、勤め先でITを使った業務改革プロジェクト(BPR)を推進しており、それまでの実業での経験とPMSとして得た知識がどれだけ通用するか、いわば受験を絶好の腕試しの機会とするためです。厳しい試験の末、なんとか合格証をいただきましたが、その喜びもつかの間、幸か不幸か秘書室へと異動になり、かれこれ2年の月日が経とうとしています。

 ■秘書のお仕事
 秘書と聞くとどんな仕事を想像されるでしょうか。企業によって秘書機能の在り方が違うため一概には言えませんが、私のような男版秘書であれば、経営TOPの政策補佐が主たる業務となります。とはいえ、年がら年中、重要政策を考えたり、忍者のような極秘行動をしているわけでもないので、実際のところは経営TOPが日常の中で遂行するオペレーションのアシストと、その傍らで経営上の特命事項を担うというスタイルです。仕事の割合とすれば、前者と後者で7:3ぐらいかもしれません。

 ■秘書機能を補完するP2Mの知識体系
 上述の前者(=アシスト業務)と後者(=特命事項)では、全くと言ってよいほど求められる資質が異なります。前者の方は多種多様な仕事への対応力が必要であり、求められる資質は、@機転、Aカラダの軽さ、B全方位的に広く浅い知識などです。特にBについては、業務の知識や業界動向はもちろんですが、新聞ネタや週刊誌ネタ、銀座のクラブ事情など情報収集は多岐にわたります。週刊誌ネタが乏しくてボスに怒られることはまずありませんが、当社のようなPJを生業としている企業では、管理部門と言えどもプロジェクトに係わる用語が分からなくては仕事になりません。ですから私が着任した早々は、「プロジェクト個別マネジメント編(下巻)」が座右の友となりました。よくよく読むと実に中身が濃く実業で使ってこそ、P2Mの本質を知ることができます。
 一方、後者の方は経営上の重要施策であるM & Aやグループ企業の統廃合、事業再編、研究開発、株式対策などへの対応力が必要であり、求められる資質は、@専門性、A価値創造力、B論理的思考力、C実践力などです。もうお気づきのことと思いますが、経営上の重要事項を推進する上での方法論はまさにP2Mなのです。私が最近経験したM&Aに関する仕事でも「プログラムマネジメント編(上巻)」をずいぶんと参考にしながら進めていきました。ご参考までに、私が当時この仕事を進めるに当たってP2Mを下敷きにして整理したものです。識者の方から見ればもしかしたら間違いがあるかもしれませんが、実際にこういう形で複雑系の仕事を整理すると、それぞれのアクティビティで何をすればよいか分かりくなります。

アクティビティ/整理する事項 P2M視点
○○社の△△事業との事業統合(XPJと命名) ・スキームモデルとしての変革プログラム
両社の検討チーム発足、キックオフミーティング ・チームビルディング
・プログラムの憲章作成
そもそも何のためにこれをやるのか ・全体使命の明確化
フラッグとロードマップの作成(目標=有るべき姿と活動指針の掲示) ・プログラム統合の4原則(特にゼロベース発想)
・プログラムマネジメントの共通観
実施事項の抽出(基本合意までの施策の切り出し) 施策は次の通り → (事業分析、切り出し対象範囲、分割スキーム、資本構成、新会社事業計画、アドバイザー選定、デューデリ、バリューエーション、労務、労組、IT、各種届出・建業法、税務、プレスリリース、会社設立、銀行取引、株主総会) ・モジュラープロジェクト
施策を実行単位に括る(プロジェクトの切り出し) プロジェクト数は原則5つとする → @事業企画PJ、A経営企画(IT含む)PJ、B財務検討PJ、C法務検討PJ、D労務検討PJ ・モジュラープロジェクト
・個別マネジメント
プロジェクト管理(遂行・監視・制御、PJ間調整) ・プロジェクトマネジメント
・プロジェクトガバナンス
プロジェクトを有機統合(プログラムマネジメントの集成としてデザインパッケージを作成) ・プログラム統合マネジメント
経営会議、取締役会建議 ・価値評価
統合に関する基本合意 ・価値評価
・システムモデルへの移行準備(2ndプログラム)

 ■企業革新とP2Mへの期待
 当社のように成熟産業に属す企業にとっては、今後どういう方向に成長の活路を見出すか重要かつ喫緊の課題です。一つの方向としてはハコモノのハード売りから、サービスやライセンスビジネスといったソフト売りに転換を図ることなのかも知れません。あるいは、ハード売りを続けるにしても受注産業の経営を安定化させるベースロード事業を創ることが重要なのかも知れません。いずれにせよ、容易でない成長路線を描き、軌道に乗せていくためには企業戦略を確実に変革プログラムに置き、実践していくことなのだと思います。P2Mがより多くの経営の現場で活用されることを期待しています。
(おわり)
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