PMプロの知恵コーナー
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「夢工学(59)」

川勝 良昭 [プロフィール] :9月号

悪夢工学

第10部 悪夢工学の観点からみた企業不祥事

3 食品業界の不祥事

●チョコレート菓子「白い恋人」
 札幌市の大手菓子メーカー「石屋製菓」は、チョコレート菓子「白い恋人」で賞味期限の改ざんなどを行っていた。同社の石水勲社長(63歳)は、8月17日夜、同市内で記者会見し、社長を辞任すると発表した。

 石屋製菓は、売れ残った商品の賞味期限を商品の在庫状況によって5〜6か月引き延ばし、その表示を書き換えて出荷していた。しかも賞味期限の延長を11年前から今回の発覚まで密かに行っていた。しかもこの不法表示は、11年前から石水社長の了承の下で行っていた。

 2002年1月に北海道の食品メーカー「雪印食品」の牛肉偽装が発覚した。また2007年6月に「ミートホープ」の牛肉偽装も発覚した。これらの企業が不祥事によってどの様な結末になったかを石屋製菓の同社長も、社員も十分に承知していたはずである。

 にもかかわらず平然と賞味期限の延長など違法行為を続けていた。何故だろうか。その答えは、悪夢工学の中に在る。B1タイプに代表されるBタイプの人物は、本性として他者を見下し、信用していない。一方自分が最高の人物と認識している。

 同社長は、「愚かな経営者だから企業不祥事を発覚させているのだ。俺は、そんなヘマをやらない」。「不祥事が漏洩しない様に部下を十分に管理しているから大丈夫である」。「仮に発覚しても十分対処できるだろう」などと考える。だからこそ平然と賞味期限の延長など違法行為を続け、また続けさせていたのである。

●食品に関わる不祥事
 食品に関わる最近の不祥事を列挙してみよう。

 2002年1月23日 雪印食品の牛肉偽装が発覚。2002年4月25日 2002年4月30日 雪印食品解散。2002年5月18日 雪印食品の役員逮捕。 2002年6月28日 日本食品の牛肉偽装発覚。2002年7月30日 日本ハムが買い取り申請を取り下げた牛肉の無断焼却発覚。 2002年8月6日 日本ハムの牛肉偽装・隠蔽発覚。2002年9月30日 西友元町店(札幌市東区)偽装肉返金事件 2004年4月17日 ハンナンの元会長など11人を詐欺の容疑で逮捕。 2004年5月7日 ハンナン元会長を補助金適正化法違反ならびに証拠隠滅教唆の容疑で再逮捕 2004年6月18日 大阪地検は、ハンナン元会長を補助金適正化法違反ならびに証拠隠滅教唆の容疑で追起訴。2004年11月8日 名古屋市内の牛肉卸社長など7人逮捕。 2004年12月23日 ハンナン元会長の保釈請求が通り保釈される。保釈金は、日本での史上最高額となる20億円。2007年6月20日 ミートホープの牛肉偽装発覚。

 今後、まだまだこの種の不祥事件が起こるだろう。何故ならBタイプの社長や管理者が多くの企業の上層部に数多く存在するからである。
我々の命や健康に直接影響する食材を偽装したり、バイ菌混入を放置する
ことは詐欺罪などではなく、殺人に次ぐ極めて悪質な犯罪行為である。

●内部告発支援会社の企画
 筆者は、某企業と組んで、内部告発者の訴えとその身分を保証するため「ウイッスル・ブロアー会社(仮称)」を立ち上げる動きをした。

 この会社は、内部告発者の訴えを処理する会社である。内部告発者に代わって内部告発者が帰属する会社の不祥事を未然に処理し、発生した不祥事を円満に解決する方法を検討する会社である。

 ウイッスル・ブロー会社は、内部告発システムのサービスを受けることを求める加盟企業からの加入金と年会費で運営される。加盟企業は、その会社の社員にいつでも内部告発できることを知らせる。この会社は中立性が高い企業などによって維持運営される。なお加盟組織は民間企業だけでなく、官庁、各種団体などもその範囲に入る。

 筆者は、以上の内容を事業企画案にまとめ、いろいろな企業に提案した。「どれくらいの売り上げになるのか」「儲かるのか」などを徹底的に議論された。そして十分に事業性があることが結論付けされた。にもかかわらず、結果は、惨憺たるものだった。この会社を作ろうという動きをした会社は一社も無かった。法令順守、企業不祥事の防止などを本気と本音で実行しようという会社は筆者が知りうる限りでは存在しないことが分かった。関心や建前はあっても、本気と本音でない以上、この会社をたとえ設立しても事業が失敗するだろう。

●法令順守や不祥事の防止は可能か
 多くの日本企業は、「法令順守を実践しています」「企業不祥事の種の一掃に努力しています」など声高に宣言し、社内に法令順守部門を設置している。しかしこの様な各社の動きによって本当に法令順守が保証され、内部告発者の身分が保証され、内部告発の効果が上がり、不祥事を防ぐことが出来るのであろうか。筆者の結論は「極めて疑問」と言わざるを得ない。

 何故なら法令遵守部門を持つ企業の社員や内部告発者の本音を聞くと直ぐ分かるからである。彼らは「自社の法令順守部門に内部告発する馬鹿はいませんよ。そんなことをしたらどうなるか分かったものではない」と異口同音に語った。

 筆者は、だからこそ社内ではなく、社外の中立的企業にウイッスル・ブロー会社の仕組みを考え、事業性のあることを被提案会社が認めたにもかかわらず無駄であった。この事実が何を意味するのか。聡明なる読者なら分かるはず。
(つづく)
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