PMプロの知恵コーナー
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「夢工学(58)」

川勝 良昭 [プロフィール] :8月号

悪夢工学

第10部 悪夢工学の観点からみた企業不祥事

2 再度、企業不祥事の原因を追求する。

●中国の多くの民は、暗黒時代に生きている?
 前号で企業不祥事は、組織でなく、ある特定の人物が起こし、ある特定の人物達が従うことで起こること、またその対策についても一応指摘した。

 しかし筆者は、どうもまだ言い足らない気がして、敢えて今回もこの問題を取り上げた。その理由は、日本で毎週の様に企業不祥事が起こり、テレビや新聞で報道されているからである。しかも最近は、日本人に直接影響する中国の食品問題も起こっているからである。どうしてこうも不祥事を起こす人物がいるのだろか。人間の「性」のなせる結果であるが。

 中国の食品問題とは、食品への有害物の添加事例、不適切又は有害な食材による食品製造・販売事例、廃棄最終段階の不純物混入油を危険な食料油に単純濾過・販売事例、非衛生「偽天然水」の飲料水タンク又は飲料ボトルの販売事例などが起こす問題である。

 上記の不法行為の首謀者は、中国では「死刑」の判決を受け、直ちに刑の執行が行われる。筆者は、中国の法律と法制度の実態を知って身震いした。中国は、日本の様に「罪刑法定主義」と「公正裁判制度」が完全に確立されていない様である。

 自白が唯一の証拠の場合は、証拠と出来ないこと、犯罪行為の挙証(立証)責任は、例外なく全て国側にあること。これらは、日本の憲法で保障されている命に関わる最も重要な「基本的人権」である・しかし中国では確立されていない。もっとも日本で挙証責任が誤解されている。刑事物のテレビ番組で刑事がアリバイの証明を被疑者に求める場面がよく放送される。これはとんでも行為である。この様に制作されたTV番組が日本人の多くの人々に誤解を与えることは由々しき問題である。何故、日本の法曹界の連中は、テレビ局に苦情を言わないのか。

 肉まんじゅうに段ボール紙を6割、肉を4割混ぜて製造、販売した人物が死刑になる中国は、ある意味で恐ろしい国である。中国は、日本人が安心して旅行できない国であり、住めない国である。この事実を多くの日本人は、知っているのか。

 もしBタイプの人物が中国共産党の上層部を占めているとしたら、多くの中国の民は、戦前の日本と同じ様に、「暗黒時代」に生きていることになる。冤罪の罪で死刑になった多くの日本人が居たと同様に、「文化大革命」が昔物語になった現在の中国にも、冤罪で無念の死を遂げた人物が大勢いるに違いない。

 筆者は、中華人民共和国・教育部の「文教専家」の称号を持ち、中国政法大学の「客座教授」をしている。前者は、中国の近代化に貢献可能な専門家を世界中から中国に集めて国費で招聘する制度に合致した人物に与えられる資格とのことである。後者は、客員教授の意味で、筆者はその初めての日本人とのことであった。

 筆者は、上記の中国の法律と制度の問題に関して教育部の役人や同大学の法学者と議論しようとした。しかし彼等は、驚きの表情と困惑の表情を筆者に表した。下手に議論して問題を起こしかねない話題のようであった。その証拠に同大学での筆者の「夢工学」の講義は、キャンパス内で評判を呼んだ。しかし「悪夢工学」の講義は、評判にならなかった。そんなはずはない。中国人学生は、「夢工学」によりも遙かに強い関心を「悪夢工学」に示したのだから。

●日本の社長や管理者に何故、不祥事が多いのか。
 この答えは悪夢工学の観点から何度も述べているので明らかである。Bタイプの社長や管理者が自分の地位向上、地位保全、利益誘導、失敗糊塗のために企業不祥事を起こすのである。

 彼等は、学歴も、知識も、経験も、人脈も、経済力も、社会的地位もある。もし不祥事を起こせば身の破滅を招く可能性があることぐらい分るはずである。もっと冷静に客観的に考えれば不祥事を起こさなくても、もっと最適な別の方法を考え付いたはずである。

 にもかかわらず彼等は、実際に不祥事を起こした。しかし元来優秀なBタイプの彼らが軽率な判断で不祥事を起こしたとは到底考えられない。ならば何故起こしたのか。

 その答えは次のことしか考えられないのである。(1)その実行が不祥事に該当しないと考えたこと、(2)該当すると考えても絶対にバレないと考えたこと、(3)たとえ社内でバレても社内限りで十分対応出来ると考えたことである。

 極めて優秀なBタイプの社長や管理者は、上記(1)の判断をするだろうか。従って(2)か、(3)であろう。Bタイプの社長や管理者は、「俺が言った様にやれば絶対に問題はない」とCタイプの部下に命じる。又はBタイプの部下が「私の申し上げる様にご命令下されば絶対に問題が発覚することはございません」とBタイプの社長や上司に勧める。いずれのケースでもBタイプの人物は、「自者への絶対的肯定性と他者への絶対的否定性」を持つ。言い換えれば他者を見下し、自分を絶対視することが災いして不祥事を生んだと考えられる。
「俺が言った様にやれ」 「大丈夫だろうか」
「俺が言った様にやれ」 「大丈夫だろうか」

●何故、有名企業で不祥事が多いのか。
 最近、有名企業又は全国にその名が知られた企業の不祥事が多い。不祥事を起こす人物が有名企業に数多く集まっているからだろうか。

 有名企業の不祥事は、ニュース・バリューがあり、学歴も、知識も、経験も、人脈も、経済力も、社会的地位もある企業の社長や管理者が不祥事を起こしたのだから人々の関心は高くなる。一方日本の中小企業の多くは無名企業である。しかもその数は、日本全体の約9割を占める。しかしマス・メディアは、無名企業の不祥事を報道しても話題性が乏しいからあまり扱わない。

 有名企業だからメディアが好んで記事に取り上げるため有名企業で不祥事が多い様に印象的付けられるだけである。実際は無名企業で無名な人物が起す不祥事は、有名企業のそれよりも遥かに多く、信じられない数に達していると思われる。我々の周囲を見渡せばそのことが容易に分かるはずである。不祥事は、有名、無名関係なく、起こっていると考えるのが我々の経験や常識に合致する。もっとも無名企業でも、何か不祥事を起こせば、急に有名企業なる。困ったものであるが。

 さてA、B、C、Dのそれぞれのタイプの人物は、どの様な割合で存在するだろうか。この定量分析があると、上記の不祥事問題の解析に大変役立つ。しかし人々の本性を探る作業は、人権問題や個人情報保護などの観点から容易に実行できない。またその種の調査をするためには膨大な調査費用が必要となるので実行できない。

 筆者は、新日本製鉄勤務時代に、MCAユニバーサル映画ランド(USJ)プロジェクトを日本で初めて企画し、指揮した。その時、当該映画ランドへの集客予測も行った。無作為抽出で3000人の人物に個別・密着インタビューを行い、現金謝礼も出した。そして「本音と本気」で同ランドに遊びに来るか否かを探った。そのために掛かった費用は、1億円である。1社1事例でこれほど高額な現金を払って市場調査をした実例は、日本であまりないであろう。

 上記の市場調査というか、本音と本気を聞き出す所謂「本性調査」に1億円が必要ということは、悪夢工学的性格分析評価という「本性調査」も最低1億円が必要である。この様な多額の金を出してくれる人物は、今の日本に居るとは思えない。大学や国の調査費でも1億円は、極めて多額である。大学も国も無理だろう。まして悪夢工学が一銭の金も生まないと思う企業には、悪夢工学的性格分析評価の調査に金を出すはずがない。

 従ってA、B、C、Dのそれぞれのタイプの人物がどの様な割合で存在するのかを確かめる作業は、現在のところ不明である。現在、金が掛からない調査方法を考えている。読者諸兄の智恵を是非頂きたい。

(つづく)
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