PMプロの知恵コーナー
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「夢工学(57)」

川勝 良昭 [プロフィール] :7月号

悪夢工学

第10部 悪夢工学の観点からみた企業不祥事

1 企業不祥事は組織でなく、人が起す

●悪夢工学の観点からみた不祥事
 悪夢工学の考え方では、「組織」とは「人の集団」であって、それ自体は「抽象的な存在」であると考える。その「人の集団」を支配するのは、ある人物の意思決定と行動によって行われるという考えに立脚する。従って組織を云々する前に、集団の構成員である個々の人物の意思決定や行動に注目する。

 悪夢工学の観点からみた「企業不祥事」の原因を分析すると以下の通り、従来の議論と大きく異なる。

 日本に最近、やたらに企業不祥事が多い。直近では、豚肉を混入させた牛100%の偽装ミンチで問題となった「ミートホープ」の事件である。また外国産牛肉を国産と偽るなど20年以上前からの偽装が発覚した。しかも農林水産省北海道農政事務所がミートホープ社の元役員から「偽ミンチ」の物的証拠を添えた内部告発を平成6年春に受けていた。にもかかわらず、同事務所はそれを放置した。

●不祥事が多い原因
 悪夢工学の観点からみると、企業不祥事が多い原因は、明快である。不祥事を起こす人物が多いからである。しかも企業不祥事を見て見ぬ振りする人物が多いからでもある。そして企業不祥事を未然に防ぐ勇気ある行動に出る人物が極めて少ないからでもある。上記のミートホープの場合、勇気ある元役員がいた。しかし監督官庁の官僚はそれを放置した。ミートホープの社長より悪質な人物かもしれない。

 筆者は、「ある学者」が主張する「ある考え」に同調しない。ある考えとは、「誰でも違反の条件さえ整えばルールを犯す」というものである。筆者は、企業不祥事を起こす人物が多いと主張しているが、「誰でも犯す」可能性があるから多いとは主張していない。

●組織的不祥事と組織的犯罪
 悪夢工学の考え方では、組織的不祥事や組織的犯罪という考えは存在しない。

 組織的不祥事も、組織的犯罪も、その実態を精査すれば、当該組織をリードした、あるタイプの人物(指導者)が存在し、その人物が命令を下し、あるタイプのフォロワー(追随者)がそれに従っていることが分かる。上記のミートホープの社長が命令を下し、社員が従ったことがその実例である。

 またあるリーダーが実行すべき命令をしないことで、フォロワーが不作為を決め込む。上記の農林水産省北海道農政事務所の放置がその実例である。

 企業不祥事の事件が報道される度に、「会社ぐるみ偽装」、「組織ぐるみの不祥事」、「組織的犯罪」などの表現が行われる。しかし企業や組織が犯罪を起こすことなど出来ない。企業や組織は、あくまで企業であって、組織である。この様な問題のとらえ方は、問題の本質を見誤らせる。

 もしあるタイプの人物が社内の抵抗を物ともせず、不祥事工作や破壊工作に身を挺して抵抗し、内部や外部に告発すれば、この種の不祥事や犯罪は、当該企業で起こらない。何度も繰り返すが、組織不祥事とか組織犯罪という表現は、あたかも組織そのもの、組織の在り方そのものに問題の根本原因があって、不祥事や犯罪が生まれるという認識を与える。これは誤りである。

 組織の特別事情を生み出したのも、不祥事や犯罪を起こさせたのもすべて特定の人物に起因する。組織の特別事情、組織風土など抽象的な概念で事件を精査するのは止めるべきである。本質は企業内に張り巡らせた首謀者のリーダーと追随者のフォロアーの実態を精査することである。特別事情も、企業風土も、所詮、人が作り出したものである。
企業不祥事は、社内に悪夢をもたらす


●悪夢工学の観点からみた不祥事解決策
 企業不祥事や組織的犯罪の根本的な解決策を以下に概説する。
(1)悪夢工学的性格評価分析のBタイプなどの人物とCタイプなどの人物が企業の社長、役員、管理者にそもそも選抜されていることに不祥事の発生の根本原因がある。従って彼らを識別し、その組織から排除することが根本的解決策である。

しかし彼らを識別しても排除することは極めて困難である。そのため彼らの誰かが不祥事を起す。それが表面化するかどうかは、勇気ある内部告発者がいるかどうかによるだけ。実際には不祥事はなかなか無くならない。

(2)組織は所詮「人の集団」である。強烈な指導力を持つBタイプの人物は、その人物に徹底的に忠誠を誓うCタイプの人物が存在すれば、どんなことでも実行できる。従って不祥事を対症療法でなく、根治療法で無くす以外に根本的解決策はない。

そのためにはBタイプやCタイプの人物が当該組織の中で選別され、昇進されない仕組みを完備することだ。その具体的な方法として「夢工学的人事組織論」と「悪夢工学的人事組織論」を提案したい。この理論に基き、新しい人事組織の在り方を開発し、新しい人事組織の運営舞台と基本構造(プラットフォーム)を構築し、あるべき人事と組織の運営を行うことである。

(3)Bタイプである経営トップ層が複数存在する場合、社内で必ず醜いい政治的争いを起こす。そして他のBタイプのトップ層を蹴落とすため不祥事をデッチ上げたり、不祥事になりそうなことを外部に暴露させたりすることがよくある。

 内部抗争は本質的に自己増殖機能を持っており、どこまでもエスカレートする。そして不祥事の発生と相俟って最後には当該企業を崩壊させるところまで進む。この様な実例は枚挙のいとまがない。Bタイプの人物を企業トップ層に持った企業は、社内に悪夢をもたらすだけでなく、企業崩壊の道を確実に歩む。ミートホープ社の今後の成り行きを注視したい。
つづく
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