PMプロの知恵コーナー
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「夢工学(56)」

川勝 良昭 [プロフィール] :6月号

悪夢工学

3 B1が企業のボトムの場合
●役に立たない人事論や人事手法
 世の中に数々の人事に関する理論や手法が紹介されている。

 一つは自分より上に向かっての人事に関して、「如何に上司を説得するか」、「如何に上司と付き合うか」、「如何に上司をその気にさせるか」、「如何に嫌いな上司と仲良くなるか」などである。

 もう一つは、自分より下に向かっての人事に関して、「如何に部下を管理するか」、「如何に部下とコミュニケーションするか」、「如何に部下に働く意欲を起こさせるか」、「如何に部下に働き甲斐を与えるか」などである。

 しかし自分より上がB1である場合、また自分より下がB1である場合、世の中に数多く存在する人事に関する理論や手法は、殆ど期待される効果を発揮しない。しかもB1には従来の人事論や人事手法は役立たないどころか有害な場合もある。言い換えればB1は、それらの人事論や人事手法を逆用して、誰よりも早く高評価を獲得し、誰よりも早く出世階段を駆け上ってゆくのである。

 何故その様なことになるかは、今まで縷々説明してきたことを思い出せば分かる。B1は、恐るべき優れた能力を獲得しているからである。そして彼や彼女がB1の性格を持っているからこそ誰にも負けない能力を獲得する様に密かに「汗と涙と血」を流すからである。

●B1担当者を侮るな
 部下は、上司の命令に原則として服従する。服従する意志が部下にない場合でも面と向かっ上司には逆らわない「面従腹背」をする。

 一方B1担当者は、原則として「面従腹背」する。しかも例外はない。B1担当者にとって自分がすべてあるからだ。B1担当者は、上司を手玉に取るくらい朝飯前である。また周囲の同情を得て自分の意志と計画にそぐわない上司を孤立化させ、無能化させることも平然とやってのける。この様なB1の部下を持った上司は悲劇である。

 この様なことが現実に起こっており、どこの職場にも存在する。にもかかわらず、何故日本の人事論や人事手法は、この様な現実と存在を真正面から取り扱わないのだろうか。悪夢工学的前提に立脚した人事論や人事手法が何故存在しないのか不思議である。どこまでも性善説で貫きたいのかもしれない。

 悪夢工学は、性悪説にも、性善説にも立脚していない。それは、人間の「性」に立脚している。いずれにしろB1担当者を侮ることなく、慎重に対応し、慎重に管理することである。
部下を侮らず、本性を見抜く
部下を侮らず、本性を見抜く

●B1担当者の破壊工作
 B1担当者の場合、上司である自分は、B1がミドルの場合より排除行為はやり易いと思うだろう。やり易い場合もあるだろう。しかし問題も多い。

 B1担当の破壊工作が社内に影響する違法行為に相当する場合や社会的影響を持つ悪質な違法行為に該当する場合は、一刻も早く内部告発か、外部告発せねばならない。しかしB1部長の場合と同様に周到な準備だけでなく、勇気と決断を要する。下手すると身の危険も覚悟せねばならないからである。感情に走り、愚かな告発行動は、己の身を滅ぼす。何故ならB1担当者は、B1社長やB1部長のスパイになっている場合が多いからである。

 B1担当者の破壊工作を排除する場合は、当然のことながら社長や直属上司がB1でないかどうかを事前に確かめておかねばならないが、もし社長や直属上司がB1の場合は、排除行動を直ぐに取らない方が賢明であろう。しかし違法行為の場合は、放置できない。ならばどうするか。それを決めるのは、自分がどのタイプの性格かによって決まる。

●B1担当者の追放の難しさ
 B1担当者の破壊工作を排除するための内部告発や外部告発をした場合、その社長や上司がB1でなければ、告発を真撃に受け止め、その排除行動を真剣に取り上げるだろう。

 しかしB1の社長又は上司の場合は、排除命令、異動命令などは期待できないだろう。それどころかその告発者は、現実の職場で不利な扱いを受ける可能性がある。従って告発者は周到な事前検討、大胆な意思決定、そして相応の覚悟が求められる。正義を実現するのには何とリスキーな意思決定と行動を要求されることか。
つづく
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