PMプロの知恵コーナー
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「夢工学(55)」

川勝 良昭 [プロフィール] :5月号

悪夢工学

2 B1が企業のミドルの場合
●B1部長が直属上司
会社には社長の下に副社長、専務、常務、取締役、課長、係長、担当者と多くの階層の経営者や社員が存在する。しかし本稿では説明を簡単にするために、トップは「社長」、ミドルは「部長」、ボトムは「担当者」と3者のみを取り上げて説明する。

B1が帰属組織のミドルの場合、B1がトップの場合よりは排除行動をやや取り易い。しかし実際には困難な場合が多い。

B1の社長が存在し、B1のミドルである部長が直属上司の場合は、最悪のケースと考えてよいだろう。従って可能ならばその様な会社を早々に去った方が得策である。何故なら大きな社内問題や社会問題が発生した場合、真っ先に責任を取らされるのは自分だからである。

何度も説明した通り、B1は、その性格の故に驚くほど優れた能力を持っている。従って社内に高い信用と畏怖の念を植え付けている。その結果、出世も同期の中で抜きん出て早く、重要ポストに就く。その様な人物が部長になっているのである。
驚くべき能力を発揮するB1部長
驚くべき能力を発揮するB1部長

B1部長は、社内的問題や社会的問題をそう易々と引き起こさない。しかし引き起こした場合、スケープゴートを直ぐさま用意するなどによって十分対処できるとの自信を密かに持っている。しかし発生した問題がその様な巧妙な逃げを許さない場合がある。それは、当該問題が外部に漏れて、メディアが「不祥事」として取り上げ、世の中が騒いだ時である。

●内部告発のリスク
さてB1部長の破壊工作を発見した場合、B1部長の直属上司である常務、専務、社長に内部告発するか。

もしB1部長の上司である社長がB1の場合は、幾ら周到な準備をして、勇気と決断を持って対処しても無駄なことである。その内部告発が成功するか否かにかかわらず、告発者の地位と身分は直ちに風前の灯火になるだろう。そして左遷や解雇の危険を覚悟せねばならない。

不当に左遷や解雇されたなら裁判に訴えればよいではないかと考える人が多いのではないか。しかしその人は、余程のお人好しであり、世間知らずの人といえよう。

何故なら日本の裁判は、注目を浴びた社会的問題の場合は審議が早い(ホリエモン事件)。しかし一介の企業の名も知れない内部告発者の不当左遷や不当解雇は、社会が注目しない。そんな状況での裁判は、間違いなく長期化し、その結果、多額の裁判費用が掛かる。しかも左遷や解雇された人物は、裁判のための時間を割く一方、裁判費用などをすべて自己負担せねばならない。

●日本は一種の無法国家
今から100年前の明治時代の裁判官は約1500人であった。今は約3500人である。100年たっても2倍にしかなっていない。明治時代と平成時代の世の中の変化と規模を考えれば、裁判官は、絶対的に不足していることは一目瞭然である。また検察官、弁護士などを含めた法曹人口は、絶対的に足らない。しかし一向にその面での司法改革は進まない。裁判官の不足こそ裁判長期化と裁判費用の高騰を生んだ元凶である。
裁判による「正義」の実現を阻むもの
裁判による「正義」の実現を阻むもの

人間社会の「正義」は、行き着くところ個人の「道徳」「倫理」などによって実現される。しかし「正義」を蹂躙するB1の様な人物を裁く方法は「裁判」しかない。米国の様に何かと裁判に訴えるのはやや行き過ぎであるが、日本の様な場合も行き過ぎである。

裁判による国民の権利と義務の実現に余りにも多くの時間、労力、費用などが掛かる様では「正義」は到底全うされない。日本は「正直者が損をし、B1者が得をする」という国である。従って日本は一種の「無法国家」であると言わざるを得ない。

内部告発が失敗して左遷や解雇になっても裁判に訴えることで対策にならない。だからこそ「内部告白」は、極めて慎重に準備し、あらゆる角度から観て問題がない様にしてから実行に移すべきである。

●B1部長の追放
B1部長の破壊工作を排除するための内部告発が社長やB1部長の上司によって真剣に受け止め、その排除行動を取り上げた場合のみ、社長又はB1部長の上司は、B1部長の排除命令、異動命令、転籍命令、時に解雇命令が可能となる。

しかし社長やB1部長の上司がその内部告発を信じるかどうかは、信じるだけの物的又は人的証拠を用意できるかどうかである。上記の通り、B1部長は、驚くべき能力を持った人物である。めったなことで破壊工作の証拠を捕まれる様なヘマはしない。B1部長が排除されることは、むしろ稀なケースと考えるべきかもしれない。
つづく
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