PMプロの知恵コーナー
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「夢工学(54)」

川勝 良昭 [プロフィール] :4月号

悪夢工学

第9部 夢破壊者が上司ならどうするか
 B1を代表例として、もしB1が企業の最高権力者(トップ)の場合、中間管理者(ミドル)の場合、 担当者(ロー)の場合、それぞれどの様にして夢破壊者又はその破壊工作を排除すればよいか を考察した。

1 B1が企業のトップの場合
●慕われる最高権力者の社長
 ある人物は、夢を持ち、ゼロから事業を起ち上げ、新しい事業基盤を建設し、新しい事業の運 営を成功させた。この所謂「オーナー社長」と言われる人物は、夢工学が主張するVPM〜PM〜OMの一貫した実務経験者である。と同時に新事業を実現させ、成功させる過程で、この人物は、 ほぼ例外なく、数多くの夢破壊者による破壊工作に遭遇し、数多くの辛酸を舐めるという経験者 でもある。

 しかしこの人物は、他者を信じ、自分を信じ、他者からの温かい協力を得て初めて事業が成功 したことを知っている。そのため成功者になり、最高権力者になっても、人々のことを忘れない。 そのため逆に人々から慕われる。この人物は、最高権力者であっても、暴君ではない。そしてB1 でなく、A1か、A2か,A3かを問わず、Aタイプのため人々に慕われ、人徳があるので人々の協 力を得て事業が益々発展し、成功する。もしこの様な社長の下で働く場合、最も幸せなサラリー マン生活を送ることが出来る。

●恐れられる最高権力者の社長
 ある人物は、自分だけを信じ、他者を信用せず、他人や他社を蹴落とし、手段を選ばないやり かたで新しい事業を立ち上げる。そして新しい事業基盤を建設し、新しい事業の運営を成功させ た。この人物は、人を人と思わぬ扱いで働かせ、協力させ、恐怖政治、超軍隊式官僚主義、超ノ ルマ販売主義で事業を運営し、成功させ、最高権力者の地位を得た人物である。

 その会社で最も怖がられる、この種の最高権力者は、たとえ事業が成功し、その後も順調な経 営が行われていても、重役はおろか社員のすべてを信用できず、いつ自分が騙されるかと恐れ を持つ。そして遂に社員の自宅まで盗聴器を繋がせ、身の安全を図る様になる。いくら成功して も飽き足らず、ますます成功を積み重ねることに全精力を注ぐ。この様な社長が誰か、そして成 功している会社は、どの会社か容易に分かるだろう。

 この様な社長こそまさにB1そのものである。B1が最高権力者にいる場合は、悪夢工学の表 ワザでは効果がない。ウラ技の排除法でなければ当該社長を会社外に追い出すのは極めて難 しい。

 またメディアなどの社外からの力を借りるB1排除法もあるが、余程マスコミを騒がせる様な内 部告発でない限り排除は難しい。この場合、排除を企てる人の身の危険を当然覚悟せねばなら ない。もし自分がこの様な会社に勤めていることが分かれば、さっさと別の会社を探して辞めるこ とが得策である。それが出来ない場合、我慢して働く以外にないか?
恐ろしい最高権力者
恐ろしい最高権力者

●サラリーマン社長
 俗にいうサラリーマン社長と言われる様な社長がいる。大・中企業の会社の中で他者を騙し、 蹴落としたり、裏切ったりしてのし上がってきたB1タイプのサラリーマン社長は、日本に結構存在 する様に思われる。最近の日本で何故これほど不祥事が多いのか。その根本原因はB1の社長 が居るからである。

 なお如何なる組織的不祥事論や組織的犯罪論を学者諸氏が展開しようともB1の凄い組織運 営力と人事運営力にかかればそれらの理論を簡単に空論化するだろう。

 さてサラリーマン社長がB1の場合は、さっさと当該企業から逃げた方が得策かもしれない。余 程緻密な排除作戦を実行しないとB1のサラリーマン社長排除作戦を成功させることは難しい。も し失敗したら、己の身を滅ぼすになりかねない。

 B1のサラリーマン社長は、物凄い緻密で信頼性の高い社内情報網を確立させている。要注 意人物である。また主要な部門には数多くの社内スパイを配置させている。この種の社長を排除 することを計画する場合は、「用心に用心を」と警告したい。

●オーナー経営者のボンボン息子や娘の社長
 オーナー経営者の息子、娘、孫息子、孫娘などが社長になっている場合がある。もし彼や彼女 がB1の場合、本当に困ったことだが手の付けようがない。

 オーナー社長の息子、娘は、父親や母親であるオーナー社長の猛烈な働きのため幼年期から 青年期に両親から十分な愛情を受けられず、金には困らぬが愛情には困った生活を送る場合が 多い。そして「金にモノを言わせる」、「人を人と思わぬ」様な教育を受けた場合、彼らは大人に成 長する過程でB1になる可能性が高い。そして成人してから問題を起こす。

 彼らほぼ例外なく高学歴を持つ。多額の寄付を基に別枠で日本や海外の有名私立大学や有 名大学院に入学する。また金にモノを言わせて、物凄い優秀な家庭教師や物凄い進学塾に通わ せ、東京大学に入学させる。その結果、東京大学は、もはや貧乏人の子弟が入学不可能な大学 に変質してしまっている。彼等は、金にモノを言わせ、優雅に学生生活を過ごす。そして「汗と涙と 血」を流したこともない象牙の塔のペーパー・ドライバーの様な大学教授から立派なMBAの卒業 証を貰う。

 有名大学を卒業しても、親の経営する会社に入社した息子や娘は、先ず他の社員と同じ様に 厳しい丁稚奉公してゼロから仕事を覚える。これが昔の馬鹿息子や馬鹿娘の教育方法であった。 しかし最近はその様なことを殆どしなくなった。ボンボン息子、ボンボン娘は、オーナー社長が用 意した会社の要職へのルートを進み、極めて短期間で要職に付く。他の社員や重役は彼等を表 面はともかく、水面下で特別扱いをする。そして彼等は重役ポストや社長ポストを受け継ぐ。その ため彼等は、経営に関してペーパードライバーになることが多い。

 高学歴の彼等は、外国の経営理念や経営手法、米国式トップダウン経営、最新経営戦略論な どに傾注し、ペーパー・ドライバーの様なコンサルタントや学者の主張を丸呑みにする場合が極 めて多い。ハーバード・ビジネスのケース・スタディーは既に古いと言われていることも知らずに。 しかも彼らがB1社長に就任する場合、社員が離反するだけでなく、会社経営そのものを危うくさ せることもある。

 以上のことを実名を上げ、実際のケースで説明すれば、迫力があり、説得力のある主張が出 来るのだが。しかしこれを公表すると大問題になり、その影響はあまりにも大きい。

●勇気ある戦いをした人達
 B1が帰属組織のトップの場合は、部下が社長の破壊工作を排除する命令も、異動の命令も、 転籍の命令、解雇の命令も出せない。従って破壊工作を排除することが最も困難なケースである。 この破壊工作の排除を企てる部下は、その地位、身分、将来をかけて戦わなければならない。失 敗すれば最悪のケースになる。

 しかし最も困難で最悪のケースであっても、勇気ある決断でB1社長を追放したケースが少な いながら日本に幾つか存在する。このケースでは、B1社長が自己利益のみを追求し、帰属会社 の利益を無視して多大な損害を与えた場合であった。そのため某会社の取締役会のメンバーが 密かに団結し、取締役会で突如、某社長を解任する。そして同時に株主総会で社長解任議決を 勝ち取ったのである。

 またB1社長が帰属する会社の持ち株会社や親会社にB1社長の不祥事や破壊工作を不満と した訴えが頻繁に行われた。その結果、B1社長は、持ち株会社や親会社によって追放されたケ ースもある。

 いずれにしろB1社長の場合、その破壊工作を内部告発したり、外部に訴えることはなかなか 勇気と決断を要する。B1社長は、自らの地位を守るため、殆どの場合、社内にスパイを配置し、 社内の批判勢力の動きを監視している。知的、計画的、組織的な内部告発でなく、普通の内部告 発をしようとすると、事前に察知され、簡単に潰されてしまう。ひどい目に遇うのは内部告発者で ある。
つづく
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