PMプロの知恵コーナー
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「夢工学(53)」

川勝 良昭 [プロフィール] :3月号

悪夢工学

第8部 夢破壊者を如何に排除するか
2 排除命令


●排除命令
 B1の破壊工作が明らかになれば、B1の上位者は破壊工作を排除する命令を下すことが可能になり、その通り命令を下し、B1が従えば、問題は解決する。
 しかし現実は簡単ではない。B1の特定と破壊工作の証明の問題がある。従ってたとえB1を特定できても破壊工作をしたことを具体的に証明出来なければ、上司は排除命令を下すことが難しい。また当然のことながら排除命令を下しても、B1の釈明や排除への抵抗が考えられる。理屈通り簡単にはゆかない。

●疑わしきは罰せず
 もし「疑わしきは罰せず」の考えが当該組織にあれば、余程の確証がない限り排除命令は下せない。これが表技としての排除命令の限界である。従ってB1は、このことを知っているはずなので破壊工作を悠々と実行できる。

 もし幸運にもB1を特定出来て、破壊工作が証明されれば、躊躇なく排除命令を下すことだ。時機を失すれば破壊工作は、その後のB1とその子分のC1の抵抗工作で、破壊工作の排除は出来ず、事態をますます悪化させる。


3 異動命令
●異動命令の効果
 B1の特定と破壊工作の証明がで出来れば、排除だけでなく、B1の上位者は、異動命令を下すことができる。

 異動命令は、B1の帰属組織内の別の部門への異動命令と帰属組織の外部関連組織への異動命令の二通りがある。

 異動命令は、破壊工作を具体的に証明出来ないが「極めて疑わしい」場合に適用できる排除法である。B1を他部門や外部関連組織に移動させてB1が除かれた後の帰属部門の状況を観察すること出来るからだ。一方B1が新たな異動先の部門でどの様な行動をとるかも観察できるからだ。この両方の観察結果によってB1の破壊工作の実態が明らかになる。
異動?、転籍?、解雇?

●疑わしきは罰する
 B1の破壊工作を証明出来ないが、「疑わしきは罰する」考えがある組織あるならば、B1に異動命令だけでなく、転籍命令をしたり、解雇命令したりする可能性が高くなる。しかしもしその排除命令が誤りであったら取り返しかつかない事態になる。勿論、裁判に訴えられる場合もあろう。

 そのため「疑わしきは罰する」という企業でも、取りあえず異動命令をする。その上で更なる観察で疑いの有無を明確化するのである。異動命令は、転籍や解雇の間違いが起こす深刻な問題を未然に防ぐ効果を持つ。また上記の排除命令より巧妙で現実的なやり方であろう。もっとも役所の様に2年から3年で部門が次々変わる組織は、別の問題を引き起こす。

4 転籍命令
●転籍命令
 転籍命令は、B1を帰属組織外又は帰属組織の外部関連組織外に出すことを言う。転籍命令は下記の解雇命令と違う点は以下の通りである。いずれにしてもB1の排除や破壊工作の排除としての手段に使える。
(1) 転籍命令は帰属組織がB1の転籍先を保証し、転籍先を予め探してそこに転籍することを命じることである。解雇命令は、転籍先を保証しない。
(2) 転籍命令は帰属組織が解雇する法的根拠を持たない場合に本人を排除する措置であることである。解雇命令は解雇できる法的根拠を持つ。B1が転籍命令を不服として拒絶すれば、解雇する法的根拠を持たないので解雇命令に変えることは出来ない。従って異動命令しか出来ない。なおB1が破壊工作を疑われたのを契機に社内の早期退職優遇などを活用して自己都合退職する場合はあり得る。
5 解雇命令
●解雇命令
 企業が危機的経営難でリストラを実行する場合は法的根拠を持つ。その機会をとらえB1への解雇命令を下す方法がある。B1の破壊工作が犯罪構成要件を満たした場合は、B1に即刻解雇命令を下すことが出来ることは言うまでもない。

 また破壊工作が組織内だけでなく、社会的問題を引き起こし表面化し、多大な経済的損害や帰属組織の社会的評判を落とすなど重大な被害をもたらした場合は、B1に即刻解雇命令を下すことが出来る。

6 魔女狩りの防止
●魔女狩り
 本書で記述した「夢破壊者の排除法」が悪用され、根拠なき中傷、不当な密告、不正な他者非難などによって「善意、善良、善行」の人物が排除される可能性があることは忘れてはならない。所謂中世の「魔女刈り」の様な話である。排除法が悪用された魔女狩りとなる事態は何としても避けねばならない。

 魔女狩りが転籍排除や解雇排除によって行われると最悪の事態になる。しかし事実無根の魔女狩りの犠牲者と分かれば、異動命令であれば正式謝罪と異動命令の撤回によって本人の地位回復や現状回復が一応可能になる。

●排除法の功罪
 しかし転籍排除や解雇排除の間違いは、現状回復を極めて困難にする。損害賠償などの問題が発生する一方、名誉棄損などの新たな問題も発生させる恐れがある。

 この様な法的問題が起こるならば排除などすべきでないという議論は必ず起こる。しかしあらゆる方法や手段には必ず功罪の両面が存在する。破壊工作防止によるメリット、破壊工作排除をしないことによるデメリット、破壊工作の排除のミスによるデメリットなどを総合比較して破壊工作排除法を活用するかどうかを決めるべきである。

7 悠々とのさばるB1
●立証責任
 夢破壊工作を排除し、B1を排除するには、B1の特定化と破壊工作の存在の立証が必須となる。しかもその立証責任は、B1ではなく、排除を求める側にある。その結果は、夢工学の読者は、既に気付いているだろうが、その立証は極めて難しいということである。

 例えば社長に直訴しても、自分が立証責任を負っている以上、「君の訴える気持ちは分からんでもないが、本当にそうか。物的証拠はあるのか」など問い詰められると完全な証明は極めて難しくなる。

●B1は悠々とのさばる
 立証できない限り、排除出来ないし、B1を異動させ、転籍させ、解雇することは出来ない。そのことに自分が失敗すれば、逆に苦境に立たされ、下手をすると自分が訴えられ、首になる。

 日本で内部告発が成功する確率は極めて低い。そのため不詳事件が外部に漏れたり、人が死んだりするなど余ほどの事件が起こらない限り、内部告発は成功しない。またそれまではB1の不祥事は解決されない。筆者が言いたいことは、B1は、余ほどのことがない限り、悠々と生き延び、出世街道をばく進し、ナンバーワンに上り詰めてゆくということである。

 筆者が「悪夢工学」を世の中に提唱し、B1を排除する表ワザとしての決定的な方法がないことを訴え、B1が悠々とのさばっていることを主張する本意を分かって欲しい。しかも裏ワザは、公表できないのである。
つづく
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