今月のひとこと
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「見えない(インタンジブルな)ものを評価できない社会で何が起こるか」(1)

オンライン編集長 渡辺 貢成:9月号

久しぶりに海外に行きました。国内で見ている眼と、海外に行って見る目ではかなりな違いがあります。フランスのリール大学で世界中の学生を集めてマスター取得のための夏季セミナーが開かれています。ここではP2Mの講座も含まれています。P2Mの特徴はプロジェクトマネジメント(プログラムマネジメント)に戦略性や価値創出を取り入れた知識体系と実践力体系で成り立っています。これに対しPMBOK系のPMは構想計画終了後のプロジェクトを効率よく実施することを主眼に構築されています。従って戦略は含まれていません。

夏季セミナーには多くの大学教授やPMコンサルタントが講師として参加し、学生と一緒にセミナーに参加します。講義の途中で質問を投げかけ、議論が議論を呼んで白熱します。この中で面白いことを発見しました。PMP保持のコンサルタントはP2Mの価値創出がPMに含まれることに違和感を感じることです。価値創出はMBAの役割だそうです。欧米社会は会社人間ではなく、プロフェッショナルな社会人です。プロフェッショナルということはプロフェッショナルとしての評価基準が社会に出来上がっていることを意味します。彼らの基準に価値創出は含まれていませんから、PMで価値創出を主張するP2Mに違和感があることがわかりました。

他方日本は基本的にプロフェッショナルとは異なり、会社人間であることが評価基準となっています。欧米では経営者が行っている戦略や価値創出を日本ではミドルが行っております。ミドルという職業評価基準がありませんから、価値創出しなくとも減点の対象になりませんが、また価値創出したからといって評価の対象になりません。同様に経営者が戦略や価値創出を心がけなくとも苦情がだされません。なぜならば評価基準がないからです。ここで2つのことを感じました。第一に日本人は会社の中で職業的制約なしに価値創出ができる自由があることです。しかし逆にプロフェッショナルとしての職業意識を持たなくとも給料はもらえることです。

第二に日本はMBAという資格者やPMPという資格者が会社に正式に認められていないので、戦略を含めた構想計画を的確に実施する専門家もいなければ、PMを正しく実施する専門職もいないといえます。同時に日本の企業はマネジメントというものに対する評価基準がありません。あるのはOJTと称するその会社でしか通用しない自己流マネジメントで定量化された評価基準ではありません。評価基準がないということはマネジメントもないといえます。外資企業が喜んで採用するMBAやPM資格者を日本企業では採用しても活用できる土壌ができあがっていません。日本の企業ではこのことを、MBAや博士は実践に役に立たないと否定的な見解を持っており、これが日本社会で通用しています。実はこのこと事態が大きな問題なのです。

では日本の製造業を見ましょう。製造業はモノという見えるものを取り扱っているために、品質、コスト、生産性、納期、イノベーション、改善とマネジメントの対象となるものが、定量的に評価できる仕組みが出来上がっています。これが日本の強みです。外貨を稼いでいるところは定量的な評価基準を持っています。しかしグローバルに通用している企業は18%に過ぎません。これに対し外貨を稼がない産業はマネジメントの基準が不明確ですから、グローバルに勝てる評価基準をもっていません。

これからの社会はグローバルマーケットの急激な変化の中でのスピード競争です。個人能力の競争から組織能力の競争力になります。専門家を抱えた訓練された組織と組織行動力を高めるマネジメント能力です。欧米ではこのため資格ある専門家を採用しています。しかし資格者が即戦力になるという発想ではなく、資格者はより早く戦力になるだけでなく、現状以上の仕事ができるという発想です。目に見えないマネジメントというものに対する評価基準のない企業は組織として向上する基準がないといえます。中国のビジネスマンから見て入りたい企業で日本企業は5位(最下位)というのもうなずけます。グローバル化を叫びながらマネジメントは伝統維持では魅力を持った企業とはいえませんね。次回はこの問題に取り組んで見ます。

以上
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