今月のひとこと
先号   次号

「クローズアップ現代」

オンライン編集長 渡辺 貢成:8月号

 NHKの「クローズアップ現代」は現代の様々な問題を取り上げて、私たちに多くの問題を提起してくれています。7月3日(火)に「ニッポンの頭脳はいかせるか」というタイトルで現在各大学にいるポストドクター(博士号を習得した後も大学に残って研究を続けている人材)の就職難問題を取り上げました。文部科学省の肝いりで将来の日本を支える人材としてドクターを増強する計画が軌道にのり、ドクターを大勢つくりましたが、大学の法人化で大学への就職の門が逆に狭められた結果、就職難がクローズアップされているという問題です。

 東北大学ではポストドクター対策として、高度技術経営塾という名のMOT(技術経営学)講座を昨年度から開設しています。この塾は「専門+人間力」を磨こうとカリキュラムにPMを含ませることうを塾の方針としています。そのお陰でPMAJはこの講座に全面的な協力をしています。この講座で私たちは従来と違い「考えるPM」と銘うって、できるだけ教えず、考えさせる講座を組み立ててきました。「教えない講座」を企画した時は成功するか不安でしたが、結果は大変好評でした。この評判でいくつかの大学から講座内容の照会があります。

 さて、話を戻しまして、クローズアップ現代は東北大学の高度技術経営塾に興味を示し、高度技術経営塾入塾式と総長挨拶、塾長へのインタビュー、6月26日(火)に実施した「考えるPM」講座のビデオ取りがありました。講座での受講者の活発な議論がNHKディレクターを驚かせ、熱心に講座風景をビデオに収めてくれました。実は私も講師としてインタビューを受けたのですが、放送の前日メールが入りまして、インタビューは残念ながらカットされましたという通知でしたが、講座風景はたっぷり放映されました。

 昨年は初めにPMの手法と最も重要なWBSを説明しました。彼ら研究者の反応は「PMは今の自分たちにあまり関係がなさそうだ」というもので最初はしっくりしませんでした。この結果を取り入れて彼らに考えさせることを増やすことにしました。そして最後は与えたテーマを2ヶ月かけてグループ討議させ、発表させることで講座を盛り上げることができました。

 本年度は考えさせることを徹底しました。最初の講義は「言葉の定義」です。
問題1:「問題とは何か図を書いて定義してください」
問題2:問題1で定義した図を使ってこれからの問題を定義してください
ということで、「過去に起こった問題」、「現在問題と感じていないことがグローバル化と考えたときに気がつく問題」、「将来起こるかもしれない問題」、「課題とは何か」、「マネジメントとは何か」、「プロジェクトとは何か」、「プロジェクトマネジメントとは何か」、「コミュニケーションでは何をすべきか」とこれだけの言葉を隣の人と3分間相談させて、受講生の前に出て大きな声で説明させる訓練をしました。この後「とことんやさしいPMの本」の読書と「プロジェクトマネジャーとしての資質テスト」(8つの切り口で自分の行動で+評価の点数と−評価の点数をレーダーチャートさせる)を宿題として提供し、同時に1日目の感想をレポートさせました。
 レポートの結果はびっくりするものでした。おおくの受講生が「自分たちの研究はプロジェクトそのものだ。そのためには研究としての「あるべき姿」に対する意識あわせや、効率に関し考えながら研究を進めるべきだ。レーダーチャートの結果で自分たちもプロジェクトマネジャーは務まる、という認識でPMに対する基本的理解と親和感が生まれていました。彼らはわずかな情報を基に考えを深め、ものの本質を理解できる素晴らしい人材です。昨年は第1回目の講義でPMは縁がない感じたポストドクターは、本年は自ら考え始めたことで、PMというものを体で理解し始めたことに講師として大きな喜びを味わうことができました。

 さて、再びクローズアップ現代に戻ります。クローズアップ現代はポストドクターの就職難問題を取り上げました。ポストドクターを即戦力にする教育の必要性のあること。ならびにこれらポストドクターの素質を認めて使いこなす伯楽(手に付けられない荒馬の素質を認め、良馬に育て上げる目きき者)の存在が、企業に必要だという内容でした。

 たまたま読んだ日経07.07.12.「やさしい経済:ドラッカー断絶の時代」の言葉を引用します。
「知識社会にあっては知識が資本であり、知識労働者が資本家となる。しかしこの知識は新しいものを意味する知識人の知識とは違う。新しさや古さに関係なく現実に応用できるものである。知識労働は労働や技能の消滅を意味しない。反対に知識は急速に技能の基盤を形成しつつある。だが、知識社会は必ずしもばら色ではない。知識労働者は葛藤に直面する。彼らは教育水準の高さや収入の多さから(米国において)弁護士、医師、高級官僚と同類と自負する。確かに知識労働者は自らの意思と判断で動き、リーダーシップを発揮して報酬を得る。しかし、彼らの仕事は組織あって始めて成立するものであり、上司の存在が必要である。その上司とは彼らと同じ専門領域の人間ではなく、彼らの仕事を計画し、統制し、評価する経営管理者である。知識労働者が能力を発揮しようとすればするほど、組織の壁に直面する。このジレンマを解消するのがマネジメントである。自負心と誇り高い知識労働者に生産性を高めるよう誘因を与え、仕事の満足感を高めて、成果に結びつくように管理することが必要となる。ドラッカーは、知識労働者の役割と彼らの管理こそが、21世紀における先進国最大の問題と喝破した」。

 クローズアップ現代はポストドクターの就職難問題を取り上げたが、現企業が未だに即戦力しか興味を示さない点が問題である。そしてドラッカーがいう、21世紀に向けた知識社会への関心不足が実は日本にとって最も憂うべき事項ではないだろうか、というのが私の感想である。また、同時に日本がマネジメントにおいて、アジアの劣等生になることを予感させるものであった。
ページトップに戻る