図書紹介
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ビジネスマンの「聞く技術」  (LISTENING The Fogotten Skill)
(マデリン・バーレイ・アレン著、出野誠+菅由美子訳、ダイヤモンド社発行、2007年05月10日、1刷、223ページ、1,600円+税)

金子 雄二 ((有)フローラワールド):9月号

この本を手にした時、チョット違和感があった。「聞く技術」、人の話や講演等を聞くのに技術が必要なのかという疑問だ。聞くことは話すこと同様に、幼いころからズーッとやってきている。だから今更必要なのかという問題と、同時に技術とは何かという好奇心である。読む技術、話す技術、プレゼンテーション技術等々は、能動的に人に働きかけるので技術や訓練が必要である。世の中にはこうした類の本は、多数出版されている。ここでも過去に、「質問力」(斎藤孝著、2003年6月号)、「考える技術」(大前研一著、2005年2月号)、「合意術」(久恒啓一著、2005年10月号)等を取り上げている。考え方や質問の仕方や合意形成である。主体はあくまでも話をする人が主で、聞く人については語られていなかった。英語の原題にもある通り、聞くことは忘れられていた技術である。本当に技術が必要かどうかこの本から探ってみたい。ということで今回は「聞く技術」である。因みに、アマゾンで「聞く技術」に関係するものを検索してみると、この本を含めて37冊あった。それらの題名と数行の紹介文から内容を分類してみると、面白いことが分かった。聞くことを中心にしたものは49%で、話すことを中心としたもの35%で、人間関係としたものが8%で、残りが書くことか子ども関係となっていた。聞くことは話すことと同じ位のウエイトを占めている。コミュニケーションは双方向であるので当然といえば当然なことである。

もう一つ「きく」とは、聴く、利く(役に立つ)、効く(効果がある)というのがある。日本語では同じ「聞く」でも、意味がそれぞれ異なる。英語では、題名にもある通り、LISTINGである。一般的には、HEARINGもある。HEARINGは、動詞がHearで聞くか(自然に)聞こえるというニュアンスである。一方LISTING の動詞Listenは、傾聴する、耳を傾けるという意味合いがあり、積極的に相手の話や講義を聞くことである。となると学生時代に受けた授業や講義での予習を思い出す。宿題や課題は致し方なくやったが、予習は殆んどやった記憶がない。教科書や資料を事前に目を通して置くことは必要であると分かっていたが、復習の方が授業内容を理解して身に付く(試験に役立つ)と勝手に判断してそうしていたのかも知れない。社会人となって、プロジェクトマネジメント(PM)に携わるようになり人の話を聞いて、話をする立場になった。人とのコミュニケーションでは、聞く(40%)、話す(35%)、その他・読む・書く(25%)とこの本に書いてある。この機会にもう一度原点に立って、聞くことの意味やその技術を見直してみるのも大切なことである。ここでコミュニケーション術とは何かを考え、話を聞く姿勢や自分の考え方等々を省みてみたい。

「聞く技術」とは?     ―― 人の話を聞くということ ――
著者は、リスニングセミナーを世界中で2,000回以上も講演した経験豊富なトレーナである。この本には、多くのセミナー参加者の声の紹介と多くの演習問題が掲載されている。だから各章を本当に理解したかどうか、確認しながら読んでいける。と言うより技術を高めていける仕掛けとなっている。本題に入ろう。それではどの位「聞く力」があるかチェックしてみよう。先ず、己を知ることが肝心である。この設問には、30問が用意されてある。@聞く人の姿勢(相手を見ながら話を聞く、最後まで聞く、メモを取りながら聞く、聞いている振りをする等)、A聞いたことに対する反応(うなずく、確認する、意見を言う、反論する等)、B聞いたことに対する意思表示(賛成、同調、反対、無反応等)、C聞きながら考えていること(相手の考えを探る、自分の考えと対比等)、Dその他(雑音があっても気にしない、聞く訓練をしている等)で構成されている。それらによって「聞く力」を自己診断出来るのであるが、筆者の場合は、102ポイントで標準以上であった。110〜120ポイントが優れている範囲であるが、設問から判断して普段から相当意識していないと高得点は得られない。著者はこれらの診断結果とは別に、聞くことに関して3段階のレベルに分類して、日々訓練することを薦めている。レベル3は、「何の目的もなく聞いている。集中している時と別なことを考えている時間がある」であり、相手の話を聞くより自分が話すことで頭は一杯である。殆んど相手の話を聞いていない。レベル2は、「音として聞いているが、相手の意図することが理解されていない」ので、話し相手が誤解する可能性がある。レベル1は、「相手の話に集中して聞いている。話に反応してうなずき、メモを取り納得して聞いている」これは相手を理解して受け入れていることを意味すると書いている。

一般的な我々の生活で、人の話を聞くレベルは状況に応じて刻々変化している。この変化を知ることが、「聞く技術」の向上に繋がるという。だから「聞く技術」は、普段の生活から訓練することが可能である。先の「聞く力」の自己診断からも分かる通り、聞くことは相手に注意を払うだけでなく、その話を自分がどう受け止めたかで、相手の話の理解の度合いが分かる。聞くことは、お互いのコミュニケーションの始まりである。相手が意見を言い、それを聞いて自分が反応する。その時、お互いがどういう立場であるか、相手の立場、自分の立場を充分理解した上で、聞くことができるかである。よく「自分が考えているように(都合良く)聞く」というのがある。先入観念や固定観念があると、相手の話を聞かずに思い込みで判断する場合が多い。これは相手の話を聞いているのではなく、話に関係なく自分が勝手に決め付けていることである。だからお互いに対等なコミュニケーションを図ることは、お互いが相手の立場を理解して、協力関係を育むことである。お互いが育み合える関係は、相手を受け入れることである。「聞く技術」の基本は、信頼関係の構築である。ということは、聞く人の人間性にも関係し、心の準備が必要であると言える。

「聞く技術」の本質とは??   ―― 聞くことはコミュニケーションの原点 ――
子どもが言葉を喋れるようになるには、2,3年掛かる。自分の意見を言葉にするには、更に1,2年が必要である。それまでは両親というより、母親の言葉を聞きながら言葉を覚えていく。二本足で歩く、言葉を喋るといったことは、動物と違って人間にとっての成長過程で最も基本的なことである。特に言葉は、聞いてから覚える。だから聞くことが先である。その成長過程で親や学校の先生に言われることや、注意されることは、「静かに、黙って聞きなさい、子どもは意見を言うものではない、出しゃばるな、大人に逆らうな」等々である。これらは聞くことへの教育の原点であった。だから多くの大人は、子どもの時に教えられたか、躾けられている。これらは「聞く技術」の基本である。所が、成長と共に自分の意見を言い、聞く立場になると過去のことを忘れて勝手に聞いて、勝手に喋っている。この問題のポイントは、コミュニケーションを図る際のお互いの状況認識、即ち人間の成長過程での判断基準から違いが生じることである。一般的には、常識といわれる範囲内で理解されるのだが、その常識も個人差があり、話が一致しない場合もある。こうしたトラブルを避けるために、紙に書いたもの(記録)でお互いに確認する方法が取られる時もある。今回は「聞く技術」なので、話を聞くことだけに問題を絞りたい。聞くということは、相手の言葉を聞いて自分が理解・判断することだが、必ず頭脳(心のフィルー:著者の言葉)の影響を受けるので、ここが大きなポイントとなる。この心のフィルターは、先の教育であり、人生経験である。その中には、生活環境、価値観、歴史観、信念、好奇心、期待値等々色々ある。著者は、その点を相手の話から判断してどう受け止め、理解するかが聞き手の問題(度量でもあり、技術でもある)と言っている。「聞く技術」の基本は、それらを理解した上で、相手が何を言いたいのか、対等に先入観なく聞くことと書いている。

ここで一般的に「聞き上手」と言われ人の共通点をみてみよう。先の@聞く姿勢は、(親しみやすく好奇心が強い。注意力が高く、全神経を働かせて話を聞く)、A聞いたことに対する反応(今起きていることに集中し、重要なことを見過ごさない。新しいアイディアを探求して、本質的なことを見過ごさない。感性や直感を活用して、相手の考え方を捉えよと集中している)、B聞いたことに対する意思表示(新しいアイディアに耳を傾け、自分の知識や経験と結び付ける。話に集中し、軽率に先入観で判断しない。周囲に安直な迎合をしない。同じことでも人によって理解が違うと分かっているので、話を要約して相手に確認する)、C聞きながら考えていること(自分の価値観や態度や人間関係を客観的に把握し、必要に応じて改めようと努めている)等々である。これらのキーワードは、注意力、集中力、先入観念を持たない、客観的である、謙虚である。そこで著者は、「聞く技術」の向上のために、リスニングの改善のポイントを書いている。「相手の話に共通の関心を示す」「双方向のコミュニケーションに努める」「外部の雑音に負けない」「冷静さを保ち、自分の理解を確認する」「言葉以外のメッセージを理解する」等を挙げている。聞くことと話すことは同一線上にあり、お互い同じ立場で意思の伝達をするのがコミュニケーションである。

「聞く技術」を高めるには???    ―― 人の話をよく聞くための訓練 ――
この本には、「聞く力」の自己診断(リスニングアセスメントと書いている)が3つ用意されてある。一番目が先の30問の設問で、聞く態度(自分の考え方や姿勢等)全般的に関するものだ。二番目がコミュニケーションに関する考え方や習慣をチェックするものだ。三番目が相手の話を聞いていかに反応するか、自分のタイプを判定するものである。このタイプ判定の纏めは、著者が14年間に亘って7,000人のデータを分析して出した結果である。 忠告型応答(18,718、31.7%)、質問型応答(13,465、22.8%)、共感型応答(19,164、32.4%)、批判型応答(7,791、13.1%)以上の4タイプである。この結果は、普段我々が人の話を聞いて応答する態度・行動のどれかにあてはまっているから面白い。著者は、更に忠告型や質問型や批判型は、効果的なリスニングに繋がらない。だから共感型に応答できるように「聞く技術」を高める余地があると指摘している。ここで共感型リスニング(著者がいう「聞く技術」の基本)を確認して、その共感型リスニングを高める方法を参考にしてみよう。先ず共感型リスニングとは、先の聞き上手に通じるものであるが、確認してみよう。著者は6項目に纏めている。@話をさえぎらない。A話題を勝手に変えない。B気を散らさない。C質問攻めにしない。D説教しない、Eアドバイスしない。これらの中でCからEは、先の良くない聞き手の態度であるから、@からBを「聞く技術」の基本であると理解する。いずれの項目も話し手を尊重した聞き方である。話し手を対等の立場で受け入れることを終始書いているが、全く同じことである。だが著者はここで視点を少し変えて、人間の特性を考えた聞き方を述べている。(その1)人間は、本来聞くことよりも話すことを好む。(その2)聞き手の方からも会話の主導権がもてる。この2点に着目して「聞く技術」を説いている。結論的には、相手を尊重して話に集中し、聞き手も話の中に入って聞く。そして聞き手が半分主導権を持つ方法が「聞く技術」では大切であると書いている。

然らば、聞き手が主導権を持つ方法とは、どんな方法であろうか。このポイントは、先の共感リスニングの中に基本が隠されている。コミュニケーションは、双方である。だから対等に話し手と聞き手が言葉(話の内容等々)のキャッチボールがなされなければならない。それが双方の諸々の確認である。話の内容であったり、感情であったり、態度であったり、話すキッカケであったりする。一方が一方的に話を進めないで、相互に確認しながら話を進めることである。このプロセスを繰り返すことで、相互に話の内容だけでなくお互いの人間関係も深まることとなる。話は言葉であり、言葉は人間の感情表現であるといわれている。お互いの冷静な感情から相手を思いやった言葉が生まれ、その言葉から理解しやすい話になっていく。著者は、「聞く技術」の基本が「共感型リスニング」という。この共感型リスニングを支える聞き手のポイントは、「話し手は価値ある存在である」と相手を受け入れる意識と姿勢が必要である。コミュニケーションは、会話のキャッチボールだから、お互いに投げたボールをキチント受け止めて投げ返す心構えが原点にある。(以上)
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