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「考える」を考える
第2回 「考えるネタ集めと整理」

中谷 正明:7月号

はじめに
 考える上で、それなりの前提知識や情報を持ち合わせていないと、考えた結果の成果には大きな差が出ることを先月号(6月)で述べました。「下手な考え休むに似たり」と言う典型事例を囲碁の世界を引き合いに出して述べ、知的労働の分野でプロを目指すには、日頃から考える習慣を身につけ、しかも適切な考えるプロセスを習慣化することの大切さを述べました。考えるプロセスには1.読む(文字情報の収集)2.聞く(耳情報の収集)3.観察する(目視情報の収集)4.話し合う(他人との意見交換によって相互に啓発し合う)5.考える(以上の1.〜4.を総合的に分析し自分なりの考えー意見をまとめる)の5つがあると紹介しました。プロセスの1から3までは情報収集のステップ、4は収集した情報を整理し徐々に練り上げてゆくステップを意味します。ここまでをシッカリと行えば最後は文字通り考える最終段階に差し掛かります。今月号では考えるネタ(情報)集め(収集)と集めた情報の整理・分析について掘り下げてみます。
事実こそ命
 考えることの必要な場はビジネス活動の幅広い分野で繰り返し訪れます。プロジェクト現場においては、プロジェクトマネジャーは顧客折衝、チーム内の問題、社内関連部門との調整など毎日が考えることの連続となり、この状況への適切な対応力がプロジェクトの成否に大きく影響することは読者の皆様も十分にご承知のことでしょう。
 問題解決における第1ステップは情報収集であり、このときに決して忘れてならない重要なことがある。「事実こそ命」と言う言葉で、これはTQCの分野で格言として大切にされていることである。問題解決には今起こっている現実の不具合を正しく認識し把握することがなにわさておき肝要で、この時点で中途半端な憶測や先入観、固定観念を排除することの大切さを言っている言葉である。孔子の偉大さを弟子たちが表現した孔子の人物像に「意ナク必ナク固ナク」という下りがあり、孔子という人は憶測、先入観、固定観念を持たない極めて素晴らしい人であったらしい。そういえば経営の神様と称された松下幸之助の言葉にも「素直な心になろう」というのがある。物事の真実―実相を見る心がいっさいの物事をスムーズに運ぶ原点というわけである。
ネタの収集
 人間の感覚は実に良く出来ていると思う。人は外界から感覚を通じて様々な情報を収集し生きている。生まれてから大人になるまで、五感である視覚、聴覚、味覚、臭覚、触覚を通じて情報量を膨らませ、生きてゆくすべを学んでいる。頭の周りには2つの目、2つの耳、鼻、口が集められており、それ以外にも両手、両足を通じてきわどい感触を学び取っている。
 情報収集の第1ステップ文字情報は、文書の閲覧・査読、第2ステップの耳情報はヒアリング、講義や講演会受講、第3ステップ目視情報は現場視察などが代表的である。「一見は百聞にしかず」と言われるほどに目視情報が大きな価値を持つことはよくある。私の仕事の一つにシステム監査があるが、監査活動で最も時間と労力を必要とするのがこの情報収集(監査では監査証拠集めと言う)のステップである。システム監査人としての意見表明を行う上でこの時点で集めた情報の質と量が全体の成果に大きく影響する。プロジェクト現場における問題・課題解決も全く同じであり、現場をきめ細かく知った上で必要情報は自ら集める気概が無くては真の解決策にたどり着けないこととなる。
ネタの分析・整理
 考えるための必要情報を「事実こそ命」「素直な心」に基点を置きながら集めた後は、いよいよ 分析し、整理に取り掛かることとなる。プロジェクトにおいて、プロジェクトマネジャーが「考える」ことは山ほどあり、中でも最も大切なテーマはプロジェクト立ち上げ局面にある。即ちチームのベクトルを合わせ、合意形成を図ることである。これを効果的に達成するために私が日頃お勧めしていることは、プロジェクト計画作成をチーム作業で行い、その際に議論・検討用に情報の分析・整理手段として古くからあるKJ法やQC7つ道具を活用することである。「考える」作業をチーム作業で実施するには関係者の意識を集中させることが重要で、そのためには議論(分析・検討)の経過を「見える化」(可視化)するのが効果的である。KJ法やQC7つ道具は使い易くこの点で多いに役立つ手法である。チーム作業としての「考える」場を私は「セッション」と呼んでいるが、プロジェクトマネジャーがこのセッションを仕切るスキルを身につければ「鬼に金棒」ともいえる効果を期待できる。

意思決定のプロセス
 以上述べてきた考える場を「課題解決の場」を事例に、チームとしての解決策実行計画を決定するまでの一連のプロセスを図-1(意思決定のプロセス)にご紹介する。図中のAは情報収集のステップで今まで述べてきた考えるステップの1〜3に相当し、Bは考えるステップの4の部分に相当しこれをチーム作業で行っている。C、Dは考えるステップの5(考える)を更に詳細に表現していることをご確認下さい。
以上
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