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「プロフェッショナル(熟達者)の育成」
〜ITベンチマーキンクSIG〜

株式会社NTTデータユニバーシティ 秋山 雅俊:6月号

 NTTDATA駒場研修センターは、毎年4月、NTTデータとグループ会社のフレッシュな新入社員を迎え、華やいだ、にぎやかな雰囲気に満ちて溢れています。 NTTデータユニバーシティは、日本最大のシステムインテグレータであるNTTデータの教育部門を前身として企業教育の専門会社として2001年8月の発足し、今年で6年目を迎えます。この間、提供するサービス内容を拡充してきており、現在はNTTデータ及びそのグループ会社の社員向けに、IT人材の育成をコアとした人材育成・教育研修に関する幅広いサービスを提供しております。
 縁があり、昨年4月に転職し、企業の人材育成の一端を担当させていただき、最近、プロフェッショナル(熟達者)の育成に関して見聞きしました話題を2件、僭越ながら提供させていただきます。
【ITプロフェショナルの育成】
独行政法人 情報処理推進機構(IPA)では、IT人材育成に向け、ITスキル標準を策定すると共にその活用に際しての様々な取り組みを行なっております。 その成果の1つとして、2007年4月に発行されました「ITプロフェッショナルへのいざない 強い組織と個人の形成 −ITプロフェッショナル育成ハンドブック−」から、ITプロフェッショナル育成の観点が記載されておりましたので、紹介します。
ITスキル標準におけるプロフェッショナルの要件は、「ITスキル標準V2 2006 概要編」によると
1) 顧客あるいは組織に対してのコミットメントを達成する
2) 自らの経験を継承するために後進を育成する
3) 継続的に自らの実務能力を向上させる活動を実践する
4) 社会的な責任と専門家としての倫理観を持つ
にまとめられております。
プロフェッショナルとは、ビジネスを成功させ、作業界の発展に貢献する人材であります。
情報サービス産業において、サービスを提供する個々人のスキルが企業競争力を左右するとの認識の下、人材育成を企業の経営戦略と結びつけて考えるようになりました。
企業における人材育成は、仕事を通じ、「実践での職務を遂行することでの学習(仕事を如何に効率良く行うかなどを自ら考え知識やスキルを獲得する)」ことと、「ある期間、組織に参画し多種多様な職務を遂行し組織や関係者の中で役割を果たして行く実践経験」を積むことが基本になります。
その上で、プロフェッショナルの成長には、自己の適性を見極め、キャリア意識を持ち、目標を定め、計画的に、自律的に、仕事から学ぶことが必要です。 職務遂行を通じ、成果を上げ、スキルを向上させることで、長期的に自らをプロフェッショナルとして形成することができます。

成長にむけた個人の基本行動としては、
1)プロフェッショナルを意識して行動すること
2)長期的な目標を持ち(キャリア開発)、その達成のため、継続的、段階的に努力すること
3)短期的な目標を持ち(スキル開発)、スキルの棚卸しを行い、達成のために努力して新しい目標をみつけること
4)さまざまな機会を有効に活用すること
の4点を提示しています。

 更に、プロジェクトマネジメントに求められる行動様式としては、2005年「PM育成ハンドブック」には、
1)プロジェクトマネジメントの知識・経験・スキルとそれを活用し率先してプロジェクトマネジメントを実践する行動力
2)担当するプロジェクトの業種や業務知識とそれを活用し、プロジェクトマネジメントを実践する行動力
3)プロジェクトで使用されるIT知識・経験・スキル、開発手法や設計技法・テスト技法をプロジェクトマネジメントに活かす行動力
4)リーダーシップ、コミュニケーションやネゴシエーションなどのパーソナルマネジメントの知識とそれを自ら率先して実践し、プロジェクトメンバーのやる気を引出す行動力
5)お客様との良好なリレーションの維持、新規プロジェクトの発掘などのビジネスマネジメントやマーケティングの知識とそれらを自ら率先して活用する行動力
 と持って業務遂行するように求めています。
 プロジェクトマネジメントのプロフェッショナルへのキャリアパスとしては、IT知識や経験がない状態でプロジェクトマネジマントを担当するのは無理なので、アプリケーションスペシャリストやITスペシャリストの職種での業務経験を積んだ上で、プロジェクトマネジメントへ移行することが多いこと、 有用な経験としては、規模に関わらずライフサイクルを通じて最初から最後までの経験、関係者間での調整を行なう経験、管理職経験などがあります。
更に職務を通じた成功体験、失敗体験もPMプロフェッショナルになるために役立つと言っております。

【企業研修とプロフェッショナル(熟達)化】
このゴールデンウィークに「Learning bar」の会合に参加する機会を得て、「企業研修」と「熟達」について学ばせていただきました。 「Learning bar」とは、一番旬な「教育関係者」から、一番ホットな話題を聞き、ディスカッションを深める学びのプロフェッショナルのための場として、NPO法人エデューステクノロジーズが主催し、東京大学大学院学際情報学府中原研修室が共催しています(NPO法人エデューステクノロジーズのHomepage  か、中原先生のWebサイト  をご覧ください)。
  これまでの話題には、「マンガを使った企業人材育成」(2005年10月、NTTデータ 吉川さん)、「ユビキタス学習環境」(2006年6月慶応大学 岩井さん)、「LEGOを活用した企業人材育成ワークショップ」(2007年3月ラーニングシステム 石井社長)などで、今回、10回目のGWスペシャル企画第一弾!「企業研修の先に広がる世界:企業研修に『できることと『できないこと』(2007年4月27日)』と11回目のGWスペシャル企画第二弾!「"プロフェッショナルはどのようにして一人前になるのか?"(2007年5月9日)」に参加しました。
10回目の会合では、企業の人材育成担当が行なう集合研修の限界と「現場中心」の人材育成に対して人材育成担当が介入すべきか、人材育成担当が行なうインストラクションデザイン(ID)に加え、現場育成へのプロセスコンサルテーションが必要になるのではという課題提起が東京大学の荒木淳子先生からありました。
集合研修(フォーマルな学習)は、良定義知識の伝達に向いており、この形態の企業研修は18世紀の産業革命で生まれ300年間、変わっていない。 企業の人材育成での修得には、経験が7割で、研修が3割である。 講演会などの集合研修から半年後に粗筋を言える人は2%、キーワードだけ言える人は29%である。 等々、企業研修での現状についての紹介がありました。
その上で、企業研修は長期展望に立ったキャリア形成にと向かっており、「知識と経験」による学習、研修と現場による育成の相乗効果を図ったキャリアの発達が有効との示唆を得ました。
PM育成でも同様に、日常の仕事を通じた問題を、研修で体系的な知識を学んで考え、研修で得た知識を仕事へ活かすことがスキルアップに必須と思います。 研修をより経験に近いものにする「疑似体験」、「演習」、「事例研究」なども効果があると思いました。  次に企業研修の技術・科学として導入しているインストラクションデザインの限界について、経営の科学OR(オペレーションリサーチ)の論争を例に、産業能率大学の長岡健先生に将来の向かうべき道に関して議論しました。
企業研修(フォーマルな学習)の方法論としてのIDでの「できこと/できないこと」が明らかになり問題となっている現状は、経営の科学ORで経験に学ぶことがきる。 人材育成への示唆として、「できること/できないこと」という問題設定では、「できることをやる」、「企業研修も必要である」との積極的側面を強調して今後も取り組む道と、「重要なこと/重要でないこと」という問題設定では、IDの限界を認め、「領域を限定しない人材育成を空虚と感じ」、"人材育成"をいう活動ドメインを消滅させる道があると課題提起していただきました。
「現実と科学はかけ離れている。ID、キャリア開発、現場の育成プロセスコンサルティグ、計画的なOJTさえもできている企業は少ない。」との意見もあり、フォーマルな育成方法論であるIDに偏らず、企業内のコミュニティ活動などのインフォーマルなチーム活動、自己実現の仕組みなどで現場の教育を補完し、いろいろな学びの形態をブレンディングして、人を育てることが重要と感じました。
企業の人材育成は投資、従って投資効果から重要でないものは対象外、予算と効果、重点化は当たり前、しかし変化に柔軟に対応できる企業体質にするには、広い視点と持った要(かなめ)となる人材を育てないといけないという意見にも共感しました。

 11回の会合は、「プロフェッショナルの熟達度化研究」で著名な小樽商科大学の松尾睦先生(Homepageはこちら)の「経験からの学習」※)から、「人はどのように熟達し経験から学ぶのか?」、「職業ごとの熟達化のプロセスは?」とはついて、講話と意見交換がありました。
※) 経験からの学習-プロフェッショナルへの成長プロセス
 人が現場で一人前になるには、「現場での経験7に対し、研修3」という研究結果があります。 また、熟達者になるには10年かかると言われます。 調査結果から熟達者にも種類があり、学習方法にも段階的と非段階的な学習があり、「場」が必要であるとの話しで始まりました。
 次に経験からどのように学ぶかについて、「具体的経験(実行)」→「観察と内省(振り返り)」→「抽象的概念の形成と一般化(教訓化)」→「新しい状況への応用(次に活かす)」のスパイラルアップのプロセスが経験学習であり、熟達を促す経験には、挑戦的な職務を与え、能力をストレッチすることが有用です。
 更に、経験から学べる人は、1)自信、楽観的、好奇心があり、2)挑戦、リスクテイキングし、難易度の高い課題を遂行し、3)結果のフィードバック・批判をオープンに受け入れ、教訓(学び)へと繋げられるという特徴があるとのことでした。 このように熟達には、「経験の質」と「経験から学ぶ学習能力」が必要で、挑戦的な課題から人は学ぶとのお話しでした。
 ビジネス領域のプロフェッショナルの調査結果として、
1)10年ルールは存在する(優れた知識・スキルを獲得するには約10年かかる)
2)職業により経験学習のパターンが異なる(核となるスキルが異なると、経験の仕方も変わる)
 が分かり、プロジェクトマネージャの経験学習の調査結果では、「コアとなるスキルは集団管理スキル」であるので、「徐々に課題の難易度をアップする段階的な学習」が行なわれ、中期(30歳前後)のおける経験が鍵との紹介があった。
 最後に、企業のプロフェッショナル人材の育成には、「経験学習のマネジメント」が必要であり、
1)分析(:領域毎に、熟達者の知識・スキル&経験を解明する)
2)基準&ガイドライン(スキルスタンダードと経験を整理する)
3)採用・選別(経験から学習する能力の高い人材を採用する)
4)プロセス管理(目標管理制度と連動した経験学習カルテを作成する)
5)職務分析(職務・ポジションを評価し、人材を振り分ける)
6)選抜的CDP(必要な経験を積ませキャリアを開発・・・入社6〜10年の人材を対象)
7)リーダーシップ(後継者の育成をリーダーに課す)
8)アクションラーニング(プロジェクトベースで経験学習を支援・・・目標設定と振り返り)
9)教育(熟達者の経験や信念をインフォーマルな「コミュニティ」やフォーマルな「研修」を通じて教える)
 これを関係付けたマネジメント体系を提示していただきました。
 そして、経験学習に当っての留意点として、
・ 「教えすぎてはいけない、与えすぎてはいけない
=>社員が、自分の頭で考え行動することを促す
・ 「基本を教え、方向を示す」
=>大きな枠組み道筋を設定する
=>型や精神を教える(守・破・離)
=>優れた企業には型がある
・ 学習を意識させる
の3点を示していただきました。

【NTTデータのプロフェショナルPM育成】
 NTTデータでは、2003年7月にPMの質的向上と量の確保を目的に導入したPM社内資格認定制度を、2004年度からの中期経営方針に基づく人事人財戦略としての「プロフェッショナルCDP *)」へと発展させ、プロフェッショナルを組織的に効率的に育てるための人材育成のフレームを構築しました。
*) Career Development Program
「プロフェッショナルCDP」は、社員の成長と会社の成長を連動させる(社員と会社の価値向上を目指す)仕組みであり,高い市場価値と専門性を兼ね備えた社外でも通用する「プロフェショナル」を育成する取組みとして、高度IT人材の育成基盤としての活用を目指したものであります。
会社が必要とする人材像とレベル感を定め、そのレベルに至った社員を「認定」し、認定者のキャリア形成を実現し、レベルアップを図っていくための「配置」と「能力開発」を合わせて行うこととしました。
PM分野では、「アソシエイトPM」、「シニアPM」、「エグゼクティブPM」、「プリンシパルPM」の4ランクの資格を設け、NTTデータとグループ会社を合わせ4ランク合計で約1,800名が社内資格認定を受けました。
エントリレベルの「アソシエイトPM」の認定では、PMP資格取得を条件とすることで、世の中で広く知られた公的資格よりも高い水準の資格と位置付けており、PMに必要な知識として「ITプロジェクトマネジメント基礎」と「社内規程・関連法規基礎」の2研修の受講・修了を認定条件にしています。また、PM育成施策としては、PMの成長に合わせて、研修の受講、シンポジウムやセミナーへの参加、メンタリング、PMコミュニティへの参加などを推進しており、現在、若手PM育成に向けた多くの研修をNTTデータ社員に提供しています。
プロフェッショナル人材育成の新しい体系での成果は10年後の社員の姿を確かめないと分からないので、10年を超える継続した評価と改善の取組みを続けていくことになります。

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