「もったいない!」を時間にも!
オンライン編集長 渡辺 貢成:6月号
「もったいない」という言葉を昔の人はよく使いました。日本人は昔からモノを大切にしてきました。米国の消費文明が日本に行き渡り、何時しか「もったいない」ということを言わなくなりました。
来日中のアフリカのノーベル平和賞受賞者のワンガリ・マータイ女史の言葉が私たちに昔の日本人の良さを思い起こしてくれました。
日本人の「もったいない」という発想は「モノに対してしか持っていなかった」。しかし「時間に対しても、もったいない」という観念を植え付けて欲しいというのがこのエッセイのテーマです。
私は最初の小さなベンチャーの社長から「時間が一番大切だ」ということを学びました。鉛筆を手で削っていると、鉛筆の値段と削っている時間とどちらが高いかと質問されました。今の金に直すと1時間8,000円を稼がなければならない人は1分間に167円稼がなければなりません。1分掛かって鉛筆を削ると、鉛筆代より削り代が高くなります。時間が金を生み出すことを徹底して仕込まれました。その後はこの仕込まれた視点で会社や、人々を眺めてきました。
人にモノを依頼するときに、何をして欲しいかは伝えますが、それは何のために、目標はないかという依頼はしません。言葉を替えると使命・目的・目標(何時までに、何ができたら成功か、いくらで、どの程度の品質か)を明確に伝えていません。自分の意図を明確に伝えていないくせに、出来上がった時点で意図と違うことに腹を立て叱り付けます。
この習慣には2つの問題があります。「任せる」という意味を丸投げすることと勘違いしていること。2番目は他人の時間を大切にするという発想の欠如です。正しく意図を伝へると作業は半分以下に短縮されます。
不思議な国日本の経営者は企業の情報化の必要性を強調していながら「自分の意図を明確にしないで仕事を発注しています」。業者の営業は「うちはソリューションベンダーですから何でも引き受けます」と答え、値段も言いなりで決めてきます。困るのは担当のプロジェクトマネジャーです。「お客さんあなたの要求は何ですか?」から仕事が始まります。
仕事が50%以上進み、形が見えてくると、顧客の現場に「これは使えない」とクレームを付けられます。そこから悪戦苦闘の仕事となります。残業が増えます。自分の生活や、家庭生活も破壊に近い状態となります。ベンダーの大企業は下請けに仕事を流して解決しているようですが、下請けの社員はこのしわ寄せを一手に引き受けます。離職率や自殺が多いと聞いています。このためこれらの業務を希望する人が減っています。3Kとよばれているからです。
これらの仕事は上流で仕様を固める努力をすれば、時間を半減することができます。これがエンジニアリングという発想です。プロジェクトマネジメントで時間内におさまったプロジェクトは品質を確保しながら利益を生み出します。エンジニアリングで大切なことをお話します。人が行う業務は@人間にしかできないアート、A人間の業務を形式化して誰でも使える形にしたもの、例えば標準化、ツール、コンピュータ、知識等のサイエンス、B程度の低い業務であるがコンピュータや機械で代行できない作業で成り立っています。世界的な傾向として作業の部分はできるだけ、国際的に人件費の安いところへアウトソーシングします。企業はサイエンスの部分を徹底化し、合理化を図ります。そしてアートの部分で国際競争力を付けるという図式が出来上がっています。これができないとグローバル市場の動きに同期(同じスピードで対応)できないからです。
日本は世界に先駆けて少子高齢化社会に突入しています。働く人が少なくなると心配していますが、仕事の習慣を変えて「人の時間を大切に使うこと」を心がけければ、生産性を上げることができます。そこで経験豊富な高齢者にはアートの能力を活かし構想計画で勝負をすれば、少子高齢化は日本に有利に働きます。日本では最近人材という言葉を人財に変えています。しかし、言葉だけが先行して人材を人財として活用する行動を起こしていません。人財には作業や残業をさせるのではなく、創造性の高いアートで勝負させてください。
日本は今でもモノづくりが強く、外貨を稼いでいますが、この分野は全体の18%です。この外貨で石油や食料を買っています。残りの80%が国内向けで、実は国内産業の生産性が米国の70%以下です。「時間をもったいない」と考えて行動すれば少子化でも30%の働き手が増える計算になります。この30%の人が文化の輸出に貢献すると日本は世界一の高級品輸出国になります。「めでたし!めでたし!」となりたいものですね。
以上
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