「時間の概念が仕事の質を決める」
オンライン編集長 渡辺 貢成:5月号
プロジェクトマネジメント(特にシステムズマネジメント)の視点で業界を俯瞰してみました。システム化の容易性を眺めたわけです。添付図がそれを示しています。代表的なプロジェクトを図中に示しました。左からシステム化が容易なプロジェクトの順に業界を並べてみました。すなわち製造業、プラント建設業、土木建築業(ゼネコン業界)の各プロジェクト、通常業務のIT化プロジェクト、業務改革プロジェクト、社会開発プロジェクトを比較しました。お気づきと思いますが、システム化が困難なプロジェクトは黄緑色で示し、容易なプロジェクトは空色で示しました。
この図は2つのことを示しています。空色プロジェクトはモノという実体があり、システム化しやすいので、プロジェクトの成功率は高く、逆に黄緑色のプロジェクトは成功率が低いという問題があります。多くの人々はプラント系をモノが見えるからやさしい。ITは見えないから難しいといって、それ以上問題解決の基本に踏み込んでいません。確かにその通りでプラント系はモノという実体がありますが、黄緑色プロジェクトはモノという実体がないため関連する人々のコンセンサスをミッションの基盤とする解決手法が提案されています。前者(空色)はハードシステムズアプローチで処理しますが、黄緑色プロジェクトはソフトシステムズアプローチという手法が必要です。ところが現実はITプロジェクトもハードシステムズアプローチで実施されています。コンセンサスを得ないIT系のプロジェクトは経営者、IT担当者、実際に使う最終ユーザーの意見調整がないため、プロジェクトの途中でもまた終盤でも変更、変更の連続となります。これが第一の問題です。
第二の問題に入ります。図で、はっきり見えないのですが、業界別のプロジェクトの下に見積もりに使われる時間の単位が示してあります。量産タイプの製造業は秒単位で人を使っています。プラント系は時間単位です。ゼネコン業界は日単位です。ITは人月といい、月単位で見積もります。同じエンジニアリング業務でありながら、これは仕事の精度の甘さを表しています。
今日本で最も進んでいるのが、製造業です。これはグローバルの競争をしているからです。プラント系は顧客の仕様に合わせた業務で、一品生産ですが時間単位で見積もりを出してグロ−バル競争に勝っています。ゼネコン業界は国内の公共投資と談合体質に支えられ、人日で食べていけます。しかし、決してグローバル競争には勝てない現実があります。IT業界は人月で仕事を進めています。これではグローバル競争勝てないのは自明です。これが第二の問題です。時間で見積もることができる体質にならないとグローバル化に脱落するという問題です。
この図から推測できる第三の問題があります。社会は最も進んだ業界の手法を取り入れる方向にシフトしていくという原則です。その事例が中部国際空港建設です。トヨタ生産方式を採用し、プロセスも無駄を削減した結果3割もの建設費削減が出来たのです。結論的に言いますと社会は先端に向かってシフトします。シフトに逆らうものは例え短期間には安泰でも、気が付いたときは破滅することになります。シフトは3つの方向で行われます。第一が製造業化へのシフト(難しくい言うとアーキテクチャ型展開)、第二がグローバル型展開(日本がグローバルで稼いでいるのは産業の中で18%だそうです)、グローバル化できないものは脱落します。第三はパワーシフト型展開(Web を活用した展開)です。権力を握った役所が幾ら規制しても、情報の広がりをとめることは出来ず、従来のエスタブリッシュの脱落と大衆のパワーの向上というシフトがあります。
今回は変わったエッセイにしました。景気が良くなって経営者はじめ多くの日本人に危機感の喪失が見られるのが心配です。
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